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ゼリリン、チビりかける


現役勇者と元勇者兼元魔王の試合とだけあって、会場内はかなり熱気に包まれている。

この控え室でも、まだ残った選手たちが熱の籠った会話をしているようだ。


「おい、そこの魔族。あの試合どっちが勝つと思う」

「あぁ? なんだ人間。……そんなの魔王様に決まってるだろうが」

「確かに、実力的にはそうだろうな。だが戦いとは時の運もある、想いの強さも時として力になるだろう」

「ハッ、分かってんじゃねぇかお前。人間のくせにやるな」

「お前こそ、魔族のくせに冷静な判断だ」


話を聞く限り、なんだかんだで人間と魔族の溝が埋まりつつあるように見受けられる。

タクマはずいぶんと心配していたようだが、もうお互いの事を認め合い始めているのではなかろうか。


もともと、魔族は人間の脆弱さ故に存在を認めない所があったが、かなり少数とは言え魔族の上位陣にも引けを取らない人間という種族に対して、敬意を払っているのだろう。


それと同じく人間側も平和を乱してきた魔族に対して不信感を抱いていたが、それもこの大会でルールは破らない奴らだと納得できた。


今のところは上手くいきそうである。


すると、審判さんが次の試合の合図を始めた。


「それでは、両者準備ができたようですので、魔王タクマと勇者ユウキの試合を始めます。……始めっ!!」

『タクマッ! タクマッ! タクマッ!』

『ユウキッ! ユウキッ! ユウキッ!』


うむ、試合が始まったようだ。

ユウキは両手剣である宝剣を正眼に構え、タクマは2本ある漆黒の剣のうち一本を片手で無造作に構えた。


「漆黒の剣が2本ですか、予備の剣まで準備しているなんて、気合入ってますね先輩」

「……まあな」

「それじゃ、最初から全力でいきますよっ! 【ヘイスト】【限界突破】ッ!!」


ふむ、やはりそう来たか。

ユウキにしてみれば、先代の勇者の力は現時点で雲の上の存在、初手から全力を出さないとすぐに潰されると感じたのだろう。


現に、その判断は間違ってなかったようだ。


彼が重量のある両手剣を叩きつけると、タクマは漆黒の片手剣をその軌道にあわせ、軽く受け止めた。

重量差のある武器で正面から互角とは、やはり様子見なんかしてたら一瞬で終わってただろう。


……だがそれを踏まえてもこれは、現役勇者の分がかなり悪いな。

片手で受け止めるとか、あいついったいどんな筋力してるんだ。


「なっ!? か、片手剣で僕の両手剣を止めただってっ!? くっ、限界突破の熟練度が違うってことかっ!」

「……いいや、俺はまだ何のスキルも使ってないぜ。ただお前の攻撃が貧弱なだけだな」

「ハッタリをっ!!」


うーん、ハッタリではないな、たぶん。

使っている本人は気づいてないだろうけど、限界突破は体から赤いオーラが出る。

タクマからそれが見えないってことは、本当に何のスキルも使ってないってことだろう。


まあ、身体強化くらいはしてるだろうけどね。


そしてその後も勇者流剣技を使ったユウキが連撃を仕掛けていくが、どれもこれも躱されるか受け止められるかで、お互いにダメージは入らない展開となったようだ。


とはいっても、全力で攻撃している分、ユウキの方が疲労が濃くでてくるとは思うけどね。


「……はぁっ、はぁっ。なぜだ、なぜ僕の攻撃が当たらないんだ」

「……チィッ、いい加減気付け。同じ勇者である俺に、同じスキルによって強化された剣技が通用するわけねぇだろ。読めるんだよ攻撃が、頭を使え。……てめぇはそんなレベルで世界を救うつもりだったのか?」

「あっ」


全くもってその通りだ。

勇者Lv3の剣技が勇者Lv5に通用するわけがない、剣だけで勝とうとするのがそもそも無理なのだ。

ユウキが勝つ見込みがあるとすれば、おそらく今までの勇者にない闘い方をするしかないだろう。


「……くっ、確かにタクマさんの言う通りだ、僕はとんでもない醜態を晒していたらしい。だが僕だって人間を代表する戦士の一人、なにもせずにおめおめと帰る訳にはいかないんだっ」

「……ああ、そうだな。まあ確かに、お前のその情熱だけは買ってやるよ」


2人が剣戟の合間に会話を交えると、一旦弾かれるように離れ、再びを構えをとった。

ユウキの奴、何か仕掛ける気だな。


「この残り体力じゃあ、もうどうあがいても正攻法では勝てそうにない。だから、一か八かの賭けをさせてもらうよ、悪く思わないでくれよ先輩」

「ハッ、望むところだ」

「……ははっ。この方法を思いつかせてくれたセリルに、感謝しないといけないな。それじゃ、ここからが本当の限界突破だっ! 【ヘイスト】【ヘイスト】【ヘイスト】ッ!!」


ぜりっ!?

ユウキのやつ、ヘイストをさらに3回重ね掛けしただとっ!


無茶しやがる、いくら限界突破中は意志の力で無理が利くといっても、限度があるよ。

普通の人間がやったら、まず間違いなく過負荷で即死コースだろう。


「……へぇ、やるじゃねぇか」

「セリルが強化魔法にダークオーラっていう謎スキルを重ね掛けしていたからね、その発想を取り入れたんだ。あまり長く持ちそうにないし、速攻で決めさせてもらうっ!」


多重ヘイストによるオーバースピードで、力強く踏み込んだ一歩がタクマに迫る。

ていうか、重装備のくせにめっちゃ速い。

あんなんアリか、今大会2度目のゼリリンショックだ。


もしかしたら、ユウキが勝ってしまうかもしれないぞ。


「うぉぉおおっ!!」

「……だが、まだまだだ。【限界突破】【二刀流】」

「なっ!? ガハァッ!」


と思ったら、そんな事はなかった。

物凄い速度で突っ込んだのはいいけど、限界突破したタクマが残りのもう一本の剣を抜き、即座に叩きつけたようだ。


あまりの剣圧に煙が舞っている。


なんやこのチートォ、こんなん反則や反則。


「俺に2本目の剣を抜かせた事は褒めてやる、やるじゃないか後輩勇者」

「……ハッ、ハハ。ま、参ったよ。……はぁ」


煙が晴れると、そこには剣を首に突き付けた元魔王兼先代勇者の姿があった。

強すぎだろこいつ、ちょっとチビりかけた。


「勝負ありっ! 神聖国の勇者ユウキの降参により、勝者、魔王タクマッ!」

『すげぇえええええっ!?』


うむ、すごい。

さすがといったところだろう。


……でもゼリリン負けないもんね、首を洗ってまっているがいいさ。

さて、準備しとこ。


そそくさ、そそくさ。



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