ゼリリン、かなり強い
ルゥルゥに勝利してからしばらくして、次の対戦である2戦目へと突入しようとしている。
ちなみに、その間かなり暇だったので、次の対戦が決まるまでにタクマの戦いなんかを参考に見ていたが、やはり奴は強かった。
相手の実力も申し分ないA級冒険者の人間相手に、たいした魔法や剣技を使わずに、ステータスだけで圧倒したのである。
あいつは勇者スキルの影響でマスタークラスの剣技が自動で使えるはずなのに、それすら必要ないとばかりのごり押しだった。
その前の試合のユウキのバトルも中々熱かったが、さすがに先輩勇者だけあって、タクマが一枚上手のようだ。
もしも序盤で奴と当たった時のために、いろいろと作戦を練っていたが、どうやら功を奏しそうである。
いつ当たるか知らないが、どっかで役に立つだろう。
「セリル、やっぱりタクマさんは強いね。先輩勇者としてのスキルの差とか以前に、基礎的な能力が桁違いだ。……勝てそうかい?」
「うーん、どうだろう」
実際やってみなきゃわからない。
「まあ、そういうのは2戦目が終わってから考える事にするよ。そろそろ僕の出番みたいだからね」
「はははっ! 確かにそうだね、無粋なことを聞いて悪かった」
ユウキもいろいろと緊張しているようである。
それじゃ、そろそろ2戦目を始めるとしようかな。
「ということで、2戦目に進出してきたゼリリンだよ」
「なんだぁ? オイオイ、俺の2戦目はどんな人間が出てくるのかと思ったが、ただのガキじゃねぇかっ! こりゃボーナス試合だなぁ! ハハハッ!」
2戦目の相手は筋骨隆々の4本腕の魔族だ。
腕に4本の大剣を持っており、鑑定の結果、パワーファイターであることが発覚した。
さて、どうやって倒そうかな。
「ふむ、両者準備は整ったみたいですね。それではっ第二試合、戦果の魔人ガルドゥと神聖国の勇者セリルの試合を始めるっ! ……始めっ!」
「ウラァアアッ! 死にさらせやガキィッ!!」
試合開始と同じタイミグンで筋肉さんが突っ込んできた。
ずいぶんせっかちなマッチョだな。
でもまあ、いくらパワーがあろうとそんなスピードじゃあ俺には届かないよ。
「と、見せかけて真正面からのゼリリンタックルッ!!」
「あぁ? なんだそのゼリリ…… ガハァァアアッ!?」
俺を舐めて無防備に突っ込んできた筋肉さんの顔面に、渾身のゼリリンタックルが炸裂した。
今の筋力は魔道具のおかげでAにも届いており、そして尚且つ魔力SSからなる身体強化とダークオーラの魔力操作で、普通のパワーファイター程度では及びもつかない筋力を実現しているのである。
ダンジョンマスターとしてのアイテムアドバンテージとキノッピドーピング、さらに魔王種の成長率を舐めてはいけない。
「ばかなぁっ!? こ、この俺が純粋な力で負けるだと……」
「うむ、僕は純粋な力で勝っている」
「くっ、言わせておけばこのクソガキがぁっ! てめぇなんざ攻撃が当たりさえすれば、一撃なんだよぉ!!」
「え、まじ?」
どうやら攻撃が当たれば一撃らしい。
なら試してみるとしようか。
ちょうど今大剣を振りかぶってるし、そのまま受けてみようかな。
「くらえやぁああ!! ……えっ?」
「どうしたんだ筋肉さん」
「あっ、いえ…… その……」
大剣を片手で受け止めてみたら、筋肉さんが大人しくなってしまわれた。
ちゃんとダメージを受けたが、すぐに回復したのでノーダメージだと錯覚し、自信を無くしてしまったのだろう。
これは申し訳ない事をした。
このまま試合を長引かせてもアレなので、そろそろ決着をつけることにする。
「楽しい試合だったぜ筋肉さん。……連続ゼリリンパンチッ!」
「ちょまっ! まった……」
「ぜりぜりぜりぜりっ!」
「グハァアアアッ!!」
俺のゼリリンパンチを連続で浴びせられ、ドサリという音を立てて気絶してしまった。
よし、勝利だ。
「ギャハハハッ! あのやろう、舐めた相手に舐め返しやがった! ギャハハハッ、ゲホォッ!」
後ろの控え室でタクマがツボっていた。
いったいなにが面白いのか知らないけど、俺はちゃんと戦ったぞ。
ちょっと自分の耐久実験しただけだ、舐めプなどでは断じてない。
……ホントだよ、ホントホント。
そして、それから試合は順調に進んでいき、3戦目、4戦目、5戦目と余裕をもって連勝することになった。
俺は基本的に適度な魔法や体術を駆使して勝ち上がっていったが、たまに攻略本さんの報酬であるロングソードを使ってみたりすると、相手が死にそうになるのであんまり使っていない。
3歳の時はA級冒険者の剣士さんに手も足も出なかったが、ずいぶんと成長したようだな。
しかし5戦目ともなると、やはりと言うべきか、人間勢の出場選手がかなり減って来たように見受けられる。
元々戦闘力では魔族の方が上なので、当然と言えば当然な結果なのかもしれないけど、これはこれで由々しき事態だ。
人間勢がこのまま居なくなってしまえば、俺の仕事が増えるという事になる。
これはアカン。
「ということで、次もちゃんと勝ってねユウキ」
「ああ、当然だよ。……と、言いたいところだけど、次はそう簡単にはいかないみたいだ」
なんでや。
「今までも危なげな所はなかったし、いけるいける」
「ははは。そうなんだけど、それは相手も同じみたいだよ」
「ぜりっ?」
ユウキの目線を追ってみると、そこにはリングの上に立つタクマの姿があった。
……なるほど、次は先輩vs後輩の対決か。
これはたしかに簡単にはいかないな。
うん、俺の仕事が増えそうな予感がしてきた。




