ゼリリン、励ます
装備を整えてから約2週間後、俺たちは闘技大会の会場である魔王城へと赴いていた。
現在パチュルとも合流し、パーティ戦と個人戦での参加申請を行っているところである。
ちなみに開催日は明日、城の前にある大きなコロッセオのようなリングで行われるようである。
いつの間にこんなものを建設していたのかと思ったが、まあダンジョンやらなんやらある世界で大勢の者たちが関わっているんだし、このくらいできるのかもしれない。
「と言う事で、このメンバーでパーティ戦の参加を申請します」
「承りました。それにしても珍しいですね、人間のパーティの中に魔族がいるなんて。普通、こんなチームあまりありませんよ?」
「ぬはははっ! ワシは面白ければ種族の違いなどどうでも良いのじゃよ。人生は楽しんだもの勝ちじゃからなー」
ほとんどが人族だけか、もしくは魔族だけで構成されているパーティが多い中、平然とルゥルゥが混じっている事で受付のお姉さんが目を丸くしていた。
まあギャグ小説をマイライフとか言ってるロリ魔女だからね、彼女にとっては種族の壁など面白さにくらべれば取るに足らない事なんだろう。
「ええ、そうですね。いくら魔族の基本的な価値観が力とはいえ、個人差がある事は私も知っていますよ、なにせ私も魔族ですから。ただ、パーティを組んだ人間のうちの2人が勇者だなんて、よっぽどの変人か、バカか天才のどれかですね。……ふふっ」
受付のお姉さんはどこか楽しそうに、ルゥルゥを見て笑った。
というかこのお姉さん魔族だったのか、見た目は人族と変わらないから全然気づかなかった。
ルゥルゥと同じ魔女かなにかなのだろうか?
同種だからこんなに親しげなのかもしれない。
「決まっておろう、もちろんワシは天才じゃっ! 天才で美少女なルゥルゥ様じゃぁっ」
いや、やっぱり同種じゃないわ。
どうみてもこのロリ魔女が、受付嬢さんみたいに賢そうには見えない。
「自分で美少女なんて言うのはただのバカよ。それにしても、しばらく見ないうちにセリルにまた悪い虫がくっついたと思ったら、変な虫の間違いだったわ。これの警戒はしなくてよさそうね」
「貴様、悪い虫とは私の事か?」
「あら、自覚があるんじゃない。説明しないで済んだわ」
「き、貴様ァアアアッ!」
そしてこっちはこっちで、また不毛な争いが始まったようだ。
なんで君たち会うたびにぶつかるんですかね、仲良すぎだろ。
すると、今度はユウキがパチュルとリグの仲裁に入った。
「まぁまぁ落ち着きなよ、パーティは結束が大事なんだからさ」
「いつもキャミィ王女にフラれてる勇者がなんかいってますね」
「そうね、キャミィのやつにフラれた勇者がなんかいってるわ」
「ひどいっ!? というか、なんでこういう時だけ結束するんだいっ!? それに僕はまだ告白すらしてないよっ」
哀れユウキ、いつかキャミィも振り向いてくれるさ。
それからその後は自由時間となり、パーティ戦の時に再び受付に集まる事になった。
ユウキは一度王の下へと戻り、ルゥルゥはここらへんの屋台で美味しい物を探しにいくらしい。
それじゃ、試合開始までダラダラするとしよう。
明日のパーティ戦は個人戦の後に始まるので、集まるのは昼過ぎくらいになると思われる。
「それじゃセリル、久しぶりにデ、デートするわよ」
「えー、どうしようかなー」
ダラダラしたい。
「ふっ、勝った。若は貴様と遊びたくはないようだな。それでは若、私とお店を見て回りましょう」
「えー、うーん」
というかゴロゴロしたい。
「それじゃ、みんなでお昼寝しよう」
「なによ、疲れてるならそう言いなさいよ」
「くっ、私としたことが若のお昼寝時間を間違えるなんてっ…… 了解です若っ!」
うむ、まったく疲れてないけどお昼寝はいいものだ。
魔王城付近にある草原で、日向ぼっこでもしながら風に揺れていよう。
そうしてその後、3人で川の字になってお昼寝する事になった。
草原を通りかかる選手たちがこちらを見て笑っていたので、きっと彼らも混ざりたかったのだろう。
いつでも混ざっていいよ、ここは広いからね。
◇
──その日の夕方。
草原での日向ぼっこを終えて、気持ちよく魔王城に戻ると、俺たちのメンバー専用に貸し出された一室にタクマがやってきた。
そろそろ大広間で晩ご飯だというのに、せわしない奴である。
奴も一緒に食べに来たのだろうか。
「よぅセリル、来たぜ」
「なんだ、タクマもごはん一緒に食べに来たの?」
「まあそんな感じだ、あのお堅い貴族や王の連中と食ってると肩こるからな。飯っていうのは楽しんで食うのがうまいんだ」
全くの同意である。
ご飯は楽しく食べるものだ。
「それじゃあ、ちょうどこっちも夕飯時だったし一緒においでよ」
「ああ、そうさせてもらうぜ」
俺たち3人にタクマが加わり、4人で魔王城のバイキングを楽しむことになった。
うむ、くるしゅうない。
そしてしばらく雑談しながら食べまくっていると、ふとタクマが真剣な顔になり、俺に話しかけてきた。
「なあ、セリル」
「なに?」
「魔族と人間の溝を埋めるためにこんなことを始めちまったけどよ、本当によかったと思うか? もしこれで人間側がふがいない結果を見せれば、今度こそどうしようもない事になる……」
彼らしくもない、自信を欠いた質問だった。
「まあ、なるようになるさ。ていうか、そもそも僕は負けないから安心していいよ」
「……そうか、そうだよな。あぁっ、ちくしょう、何うだうだ考えてるんだ俺らしくもねぇっ!! よし、明日は容赦しねぇからな? 覚悟しとけよセリル」
不安を取り除くように酒を一気飲みすると、いつも通りの不敵な笑みに戻ったようだ。
そうだ、それでいい。
それに、自分でやった事をお前が信じられなくてどうするんだよ、お前はどんな勇者にも解決できなかった魔王問題を解決した、天才だろうが。




