ゼリリン、のじゃロリを倒す
王都の学校から高級宿に戻ってきて20分後、俺たちは謎のテンションでどんちゃん騒ぎを始めていた。
すでにピサランも2枚追加で注文しており、勢いはとどまるところを知らない。
「そらそらっ! これがゼリリンステップ、からの、ゼリリンダンスだっ! ぜりっぜりっ」
「クハハハハッ! ゲホッゲホッ! ゲラゲラゲラッ! ゲボォッ!?」
「いいですよ若っ! 腰がとってもセクシーですっ!」
タクマなど俺のゼリリンダンスがツボに入り、呼吸困難を起こしかけている。
結局奴にもピサランを分け与える事になってしまったが、このまま笑い倒してやれば逆襲になるだろう。
いいぞぉ!
もっと笑えぇっ!
……あとリグ、顔を真っ赤にして興奮しているが、ミルクで酔うってどういうことだ。
あいかわらずリグは謎だ。
「それにしても、ちょっと見ないうちに、セリルは面白い友達を作ったんだね?」
「いやタクマは友達というより、腐れ縁だよ。たまに僕の宿に勝手に上がり込んで、リグを誑かしにくるんだ」
「えぇっ!?」
実に厄介な奴である。
ていうか、来る頻度を10分の1くらいに減らしてくれても構わないんだけどな。
「どうしよう姉さん、変な人が居ついちゃったよ」
「えっ? でもお姉ちゃん、あの人は悪い人には見えないよ?」
「いいや、レナ姉さんはセリルに関する事に甘すぎだよ。リグちゃんに悪影響を与えたら、僕たちが母さんに叱られちゃうんだよ」
「うーん、あの子は元々変な子だと思うけどなぁ」
レナ姉ちゃんは相変わらずいい勘してるな、まったくもってその通りだ。
タクマは悪ふざけの加減を間違えないし、なんだかんだ俺たちのフォローもする。
そしてリグは元々アホの子だった。
常識人のルー兄ちゃんには予想外な事かもしれないけど、これが真実なのだ。
「まあ、ようするに僕の周りには変な奴が多いってことだね」
「いや、お前が一番変だから」
「いきなり真顔で話すなよ、不良勇者」
俺が変だなんてこと、あるはずがない。
それからというもの、この騒ぎは深夜まで続き、みんなが疲れ果てて眠りこけるまで終わることはなかった。
……この宿が防音でほんと良かったと思う今日この頃である。
◇
──翌日。
レナ姉ちゃんやルー兄ちゃんと一緒に学校へ向かうことになった。
リグは今日もまたお留守番だが、もし暇だったらゼリリン2号とクローム神聖国のギルドで依頼を受ければいいので、別に問題ないだろう。
タクマは知らん、あいつは起きたらどっか行ってた。
ということで、今日も1年のSクラスへとやってきた。
「やぁみんな、おはよう」
「あぁ、おはようセリル。昨日もらったキノッピを帰って食べたけど、今まで食べたどのキノッピよりも美味しかったよ。ありがとう」
俺の挨拶に答えたのは、かの金髪イケメン、アーサー君である。
昨日のような挙動不審さもなくなり、最初に見た時のような爽やかスマイルを輝かせている。
「それはよかった。そのキノッピは僕が育てたんだ」
「えっ、それはどういう事だい? セリルの家はロックナー家だよね、キノッピの生産なんてしてなかったはずだけどな」
「うむ、だから僕個人がそだてたんだ」
「えっ?」
何度も言うが、つまりそういう事である。
今この時も土の迷宮で、キノッピ達がすくすくと育っているはずだ。
その後、話の内容がうまく伝わらず混乱しているアーサー君を放っておいて、自分の席に着席した。
さて、今日はなんの授業かな。
……そうして先生が来るまで大人しく待っていると、教室の窓から見慣れぬ黒いトンガリが見えた。
なんかとんがり帽子っぽい感じの、アレだ。
あれはえーっと……
まさか、ね。
すると、とんがり帽子はうろちょろと窓の外で何かを探すように移動すると、ちょうど俺の席の真横らへんでピタッと止まった。
これはあれだ、もうあれしかない。
「……ふむふむ。ワシの探査魔道具によると、ここらへんにあのチビッ子の匂いが密集しておるな。じゃが、あともうちょっとという所で校舎の壁がじゃまじゃし、とりあえず火魔法で吹き飛ばすか」
「吹き飛ばすんじゃないっ!」
「いだぁっ!?」
やっぱり、のじゃロリことルゥルゥだった。
奴は窓際に座っている俺の真横、ちょうど窓の外側の位置にいるのだが、背の高さが足りなくて俺が見えないらしい。
でも、だからって火魔法で壁ごと吹き飛ばそうとするとか、さすが魔族やることがおかしい。
もちろん、そんなことをさせる訳にはいかないので、とりあえず窓を開けてルゥルゥの頭をひっぱたいた。
ついでに頭グリグリもしとこ。
「ぐわぁあっ! やめんかチビッ子!! やはりここに居たのじゃな、もうワシからは逃げら…… ぐわぁああっ!?」
「のじゃロリが反省するまで、グリグリするのをやめない」
「ヒドイっ!?」
ひどくない。
断じてひどくない。
それにしても、こんな所まで追ってくるとはなんて奴だ。
ここに居たらクラスメイトにまで被害が及びそうだし、今日はもう早退してしまおう。
そしてその後はルゥルゥをお説教だ。
「ついてこい、のじゃロリにはふさわしい罰をくれてやろう」
「くっ! なんて馬鹿力じゃ、ゼリリンとはいったい……」
みんなは口をポカンとして俺の奇行を眺めていたが、君たちを守るためにはこうするしかないんだ。
このへんてこ魔族を放置しておくと、気まぐれで生徒を巻き込みかねないからね。
せっかく人気者になったのに、こんな所で俺の評価を下げる訳にはいかないのだよ。
人気者ゼリリンへの道は険しい……




