ゼリリン、人気者になる
学校に来てから真面目に授業を受けていたら、正体が看破されてしまった。
だれかゼリリンに今一度チャンスをっ!
わるいゼリリンじゃないんだっ!
そしてそんな俺の願いが通じたのか、1年生の教室に救世主レナがやってきた。
いやレナ姉ちゃんが来たのはいいけど、そもそもいったい、なにしにきたのだろうか。
「どうしたのレナ姉ちゃん」
「ゼリタロウが、ゼリタロウがうごかなくなっちゃったっ!」
「……す、すらっ」
「ああ、なるほど」
ゼリタロウとは姉ちゃんがつけたスラタロ.Jrの別称である。
スライム本人もその名前を受け入れており、いま鑑定すればおそらくゼリタロウと表示されるだろう。
それにしても、動かなくなったとはな……
ゼリタロウの奴、レナ姉ちゃんにいいところを見せようと魔力を使い過ぎたな。
「ちょっとまってね、いま元気にするから」
「ゼリタロウ、ちゃんと元気になるかな?」
「なるなる、すぐなるよ。そーれっ、ゼリリンチャージ」
俺がチャージ用の魔力を注入すると、しおしおになっていたゼリタロウがぷるんぷるんになった。
まったく、世話のかかるやつだ。
「すらっ!? すららっ!」
「わあっ、ゼリタロウが元に戻ったっ! ありがとうねセリル、お姉ちゃんすごく感謝してる」
「いいよ、これからも大切に扱ってね。仲が悪くなると、こいつら夜逃げするから」
まだ夜逃げの報告は聞いていないが、もしかしたら俺のところに戻るジュニア達もいるかもしれない。
その時は心優しく迎えてあげようと思う。
「すげえっ! 魔王セリルがレナ様の従魔を救ったぞっ」
「ああ、なんか怖い奴だと思ってたが、意外と良いやつだったんだな……」
「でも、魔物に対してあんな芸当ができるなんて、やっぱりあいつは魔王っぽいよな」
「おう、なら良い魔王だな。正義の魔王セリルだっ!」
おっ、なんか空気が変わってきたぞ。
すると、誰かが拍手と共に俺の名前を叫び始め、いつしかその声はクラス全体へと広まっていった。
やったぜ、なんだか知らないが、勝利の女神レナが奇跡を起こしたに違いない。
『セリルっ! セリルっ! セリルっ!』
「ゼリルンっ、ゼリルンっ、ゼリルンっ」
「すららっ、すららっ」
そしてその熱狂はやがて俺への胴上げとなり、ゼリタロウとレナ姉ちゃんも加わって、お祭りのような騒ぎへと発展した。
「ぬわーっ! いいぞぉ!」
いいぞぉ、もっとやろう。
それからというもの、さっき飛び出していった政治の先生が帰ってくるまで、胴上げが終わることは無かった。
◇
──その日の夜。
胴上げが終わったあと授業も終了し、その日は解散となった。
レナ姉ちゃんの機嫌もすこぶる良くなり、今日はルー兄ちゃんと一緒に俺の宿へ泊りに来ると言い張り始める始末。
まあどうせこの世界の宿は1部屋いくらで値段が決まるから、何人きても同じなんだけどね。
あっ、ゼリリン2号消しておこっと。
「ついたよ、ここが俺の宿だ」
目の前には最高級宿という売り文句の、王都最大の大きさを誇るリゾートホテルがある。
資金がありあまっているので、かなり良さげな所を借りることにしたのだ。
やっぱり寝るときはフカフカの高級ベッドがいいよね。
「えぇぇっ!? セリル、こんな所に泊ってたのかいっ!?」
「わぁー、キラキラして大きなお家だね? お姉ちゃんびっくり」
2人も驚いているようだ。
しかし、驚くのはまだ早い。
俺はリゾートホテルの受付へ慣れた足取りで向かい、カウンターのお姉さんに話しかけた。
「お姉さん、僕の部屋にミルクとクゥヒーとピサランをお願い」
「VIPのセリル様ですね、かしこまりました。ただいまより10分後にお部屋へ届けさせていただきます」
そう、俺はこのホテルのVIPなのだ。
部屋も見晴らしのいい特等席となっており、超広い。
お風呂の魔道具もついてるスーパー大富豪用のお部屋なのだ。
ちなみにクゥヒーはこの世界のコーヒーで、ピサランはピザである。
「え、えぇぇえ!? なんでセリルがVIPなのさっ! そんなお金どこから…… まさかっ!?」
「うん、そのまさかだよ。最近王都で流行ってるスライムたちは、僕が販売したものなんだ」
「いつの間に…… 僕が少し見てない間に、セリルもがんばってたんだね…… うぅっ」
何か壮大なドラマがあると勘違いしたルー兄ちゃんが、感動して泣き出してしまった。
いや、スラタロ捕まえたのはたまたまなんだけど……
ま、いっか。
その後は謎の感動を覚えたルー兄ちゃんと、珍しい高級設備にはしゃぐレナ姉ちゃんと共に部屋へと向かった。
「ただいまー」
「おかえりなさいませ若っ! 今日は先にお風呂にしますか? それとも……」
「どこでそんな言葉を覚えたんだリグ? っていうか、またお前かタクマ」
「クハハハッ! ゲラゲラゲラッ!」
3人で部屋に入るや否や、リグがまた変なことをしだした。
今度はいったい、悪魔になにを吹き込まれたんだ。
「セリルッ!? リグちゃんとそんな不埒な関係だったのかいっ!? ぼ、ぼくはお兄ちゃんとして、認めないぞっ! レナ姉さんもなんか言ってくれっ」
「うーん? お姉ちゃん、お風呂がいいかなぁ?」
「姉さんに聞いた僕がバカだったっ」
後ろは後ろで騒がしくなるし、今夜はぐっすり寝れそうにないな。
タクマの奴もまた何か企んでいる顔しているしね。
こいつほんと、どうしてやろうか。
「ちなみに僕はこのあとミルク飲んでピサラン食べるから。あ、タクマの分は無しね」
「おいっ!」
自業自得である。




