ゼリリン、知りすぎる
野外実習が終わったあと、次は教室で算数のお勉強となった。
さすが特待生とだけあって、みんなよく勉強している。
さっきまでお昼寝していたアーサー君なんて、まるで人が変わったように真面目に取り組んでいるようだ。
ただ、さっきからチラチラこっちを見てくるし、なぜか俺への視線にも動揺が感じられる。
いったい彼に何があったというのだろうか。
ちょっと横の席の人に聞いてみよう。
この子はさっき一緒にパーティを組んでいた少女その1だな。
「ねぇ君、なんかさっきからアーサー君が僕の方を見てくるんだけど、どうしたのかな?」
「ひ、ひぃっ! ごめんなさいごめんなさい、許してくださいっ」
なぜか急に謝ってきた。
そうか、さっき俺に残業を押し付けたことを気にしてるんだな。
ここは優しく許してあげよう。
「えっ、謝らなくていいよ、たまには眠たくなる時もあるよね。僕だけ残業したのはひどいなって思ったけど、チームなんだから補い合うのも役目のひとつさ」
「……えっ、え? ……あ、ありが、とう?」
女の子は目をパチクリさせた後、呆けた顔でお礼を言ってきた。
よし、これでさっきのはチャラだね。
やっぱりみんな仲良くが一番だ。
こんどはちゃんと誰がお昼寝するか決めてから仕事しよう。
「それで、アーサー君の事なんだけど」
「えっと、アーサー君はセリル君の魔法に驚いているんだと思う。その、攻撃する姿がまるで、魔王みたいだったから」
「なんやて……」
なんということだ、ルゥルゥに続きアーサー君までが俺を魔王だと看破してしまったらしい。
見かけによらず鋭いな、あとで口止めしておこう。
「そっか、じゃあ彼にはあとで話があるって伝えておいて」
「(コクコクッ!)」
すごい勢いで首を振って頷いてくれた。
なんだ、俺のおやつを狙うキノッピハンターかと思ったら、案外いい子じゃないか。
仲良くなれそうだ。
そしてしばらくすると、授業は算数から政治の項目へと移っていった。
ふむふむ、今日のお勉強はクローム神聖国についての話題らしい。
それなら俺は得意だぞ、なにせ現地で遊んできたからね。
それからしばらく板書を進めると、黒板に向かっていた先生が生徒に向けて話しかけてきた。
「えー、ではクローム神聖国、第一王女について分かる人はいるかな?」
「ほいっ」
「おや、君はセリルくんだね? 授業で見るのはこれが初めてかな。入試でトップの成績だった君の事はよく覚えているよ」
先生によると、俺は入試でトップだったらしい。
2年前だというのによく覚えてるな、さすが先生だ。
それに俺がトップだったのが以外だったのか、教室もざわついてきた。
「おいおい、入試のトップってアーサーじゃなかったのか? あいつがそこまでデキる奴には見えないぞ」
「バカいえ、あいつはああ見えて闇の戦鬼レナと天才ルーの弟だぞ。いまどきロックナー家の事を知らないなんて遅れてるぞお前」
「まじかよ、あの眠そうな奴がレナ様の弟なのかよ。人は見かけによらねぇな…… あ、それとレナ様にはちゃんと敬称をつけろ。俺はまだいいが、あとでレナ様ファンクラブにつぶされるぞ」
レナ姉ちゃん人気すぎだろ。
まあ姉ちゃんは美人だし強いから、君たちの気持ちも分からなくもないけどね。
ルー兄ちゃんも勤勉だし。
「静かにっ! それではセリル君、答えをどうぞ」
「ほい。彼女はクローム神聖国第一王女、キャミィ・クローム。年齢は11歳で人懐っこく、多大なカリスマを有しています。2年前の王女誘拐事件では勇者に魔族の魔の手から救われたとか」
「えっ」
「そして最近は主に、召喚された勇者と一緒にいる事が多く、魔王城事件解決の立役者の一人に数えられるかと思われます。召喚された勇者は魔王城にて100年前の勇者タクマを……」
「えっえっ!? いや、そこまででいいですっ! というか君がなぜそんな事まで知っているんですかっ!? 後半なんて私ですら知りませんよっ!?」
知っていた事をぺらぺらしゃべり過ぎたらしい。
先生なんて、まるで世紀の大発見をした学者のような驚きようだ。
今も俺の言った事を必死の形相でノートにメモしている。
まあでも、俺にかかわる事だったからね、キャミィの事についてはだいたい分かるよ。
あとでいくらでも聞いてくれ。
「おいおい、あいつ何者だよ。いくら天才ルーの弟だからってヤバすぎるだろ」
「いや、レナ様ファンの俺にも、さすがにそこまでは分からん。ただ、あいつを敵に回してはいけない事だけは分かった」
「……だな」
「ぜりっ?」
なんかクラスのみんなもこっちをチラチラ見るようになってきた。
まさか奴らも俺の正体に気づいたとでもいうのだろうか。
ちなみに、その後は先生が一旦授業を中断して自由時間ということになった。
今さっき話した内容を校長にもちかけ、相談するらしい。
なんでも、もしもの場合王様にまで話が行くことになるとかなんとか。
なんだか大げさな先生だな。
それじゃあ時間もできたし、アーサー君に口止めを行うとしよう。
「おーい、アーサー君」
「ひっ!」
「君、あの事について他言無用でお願いできる? ほらこう見えて僕、心優しいゼリリンだからさ、疲れる事は好きじゃないんだ」
「ひぃぃいっ、わ、わかったよセリルく…… セリル様っ!」
「いやいや、セリルって呼び捨てにしてくれよ。君とは仲良くしたいからさ。あっ、キノッピ食べる?」
うむ、これで俺の正体は誰にも伝わることは無いだろう。
「おいおい、マジかよ。あのアーサーが脅されてチビりかけてるぞ」
「ま、魔王だ……」
「魔王すぎる」
「これが、魔王セリル……」
「ぜりっ!?」
なんでなん!?
アーサー君にお近づきのキノッピを分けてあげただけなのに、みんなに俺の正体が伝わってしまった。
くっ、なんて鋭いやつらなんだ。
こうなっては仕方ない、全員に1キノッピ、ワイロを渡すしかないだろう。
その後、俺は全員にキノッピを渡して回り、なぜかさらにチラ見が多くなる結果となってしまった。
……なんでなん。
助けてレナ姉ちゃんっ!
すると、俺の願いが通じたのか、聞き覚えのある少女の叫び声と共に、教室の扉が勢いよく開けられた。
「セリルっ! お姉ちゃんが来たよっ!」
「レナ姉ちゃんっ!」
……救世主登場っ!




