ゼリリン、やりすぎる
幼魔女ルゥルゥを振り切った翌日、俺は久しぶりの学校生活をエンジョイしていた。
リグの方にもゼリリン2号の護衛をつけ、1号の俺は学校に登校する完全な計画である。
……あっ、2号が今日はやることも無いなとかいって昼寝をはじめやがった!
ちゃんと仕事してほしい、1号の俺はこんなに働き者だというのに。
ちなみにだが、今は学校の外で野外実習中である。
Sクラスのみんなで、ゴブリンやらスライムやらを倒す訓練をしている最中だ。
倒す手際を見ている限り、さすがSクラスといった感じなので、引率の先生もちょっと誇らしげでなにより。
今もクラスのリーダーらしき金髪少年が4人のパーティメンバーを引き連れ、スライムを倒すところである。
彼の手のひらには直径30センチくらいの火の玉が浮かんでいる。
「火魔法【火炎弾】っ!! よし、これで4匹目のスライムだ!」
火の玉がスライムに当たると、ジュッという音をたてて一匹目を倒すことに成功する。
やるなイケメン金髪。
「キャーッ! すごいわアーサー君っ!」
「さすがですアーサー様っ!」
「やっぱアーサー君には敵わないなぁ」
「(……ぽりぽり)」
モテモテだねアーサー君。
俺もキノッピをおやつにお尻をかいて見学してたけど、この子女の子に妙に人気がある。
非常に羨ましい限りだ。
すると、アーサー君の取り巻きが俺に声をかけてきた。
「ちょっと、あんたセリルって言ったわよね? 一人だけ何サボってんのよ。あんたをアーサー君のパーティに入れてあげたのは、闇の戦鬼レナ様の弟だからなのよ? 働きなさいよ」
「(……ぽりぽり)」
何やら俺が働いてない事が不服らしい。
だが変だな、見ている限りでは取り巻き達も魔物にダメージを入れた様子はない。
すべて金髪のイケメン、アーサー君が消し飛ばしているのだ。
よって、君たちも俺と同じ立場のはずなんだが。
あっ、そうだわかったぞっ!
この少女たちもキノッピが欲しいんだな?
そうならそうと言ってくれればいいのに、一人一個くらいなら分けてあげないこともない。
ここは紳士らしく、無言で差し出すとしよう。
「……スッ」
スッと赤キノッピを差し出した。
「……な、なによ?」
「……ススッ」
なかなか受け取らない。
我慢しなくてもいいんだぞ。
「な、なんなのよ!!」
「あぁっ、キノッピ達が!!」
急に逆上した女の子が俺のキノッピを何個もぶんどり、ビンタをくらわせてきた。
なんてやつだ、1キノッピじゃ足りないとでも言う気か。
「ハハハッ! 面白いね君、セリル君って言ったっけ? やっぱり君をパーティに入れて正解だったよ」
「うむ」
金髪イケメン君は取り巻きに比べて、なかなか物分かりが良いようだ。
なにがどう正解なのかは知らないが、俺に仕事を強要しないところはかなり評価できる。
「ただ、せっかくのパーティなんだから、自己紹介も兼ねて一匹くらいは魔物を倒してほしいな。闇の戦鬼レナと天才ルーの弟の力、僕たちにも見せてくれよ」
「……うむ?」
仕事を強要しないと思ったら、さっそく仕事を振ってきた。
だが彼の言っている事も一理あるな、一匹分働く程度なら別に問題ないだろう。
ちゃんと一匹くらい倒せという、仕事が明確になっているクリアな社風は好みだ。
こういう奴がパーティリーダーなら残業しなくて済む。
「じゃあ、お言葉に甘えてちょっと働いてみるよ」
「ああ、よろしく頼むよ」
「やっと戦うんだね、まあアーサー君には敵わないだろうけど頑張って」
うむ、ゼリリン頑張る。
だがさっきは自己紹介がてらと言っていたし、一匹倒すといっても普通に倒したのでは何の自己紹介にもならない。
ここはさっきの金髪イケメン君と同じように、火魔法でゴブリンを消し飛ばそう。
それもちょっと強めの火力で。
「それじゃ、ちょっと強めの攻撃するからみんなは離れてて」
「はぁ? なんで攻撃するくらいで離れてなきゃいけないのよ」
「ははは、セリルは冗談が上手いなぁ」
なかなかみんなが離れない。
しょうがない、このまま攻撃するか。
別に爆風が来るだけで、直接的な被害はないしね。
じゃあさっそく、ダークオーラ発動っ!
……からの、無魔法を殻に火魔法の魔力をつぎ込んでコネコネっと。
「「えっ!? ちょ、なにそれっ!?」」
「コネコネ…… コネコネ…… よし、できた」
「う、うそでしょ」
完成したのは頭上に浮かぶ直径5メートルほどの火の玉だ。
そこまで大きくしなかったけど、この程度でも結構見た目が派手なのでちょうどいい
「それじゃいくよ。くらえっ、ゼリリンボム(小)っ!!」
「ギ、ギィ!?」
ズドンという爆発音と共に、ゼリリンボムがゴブリンに命中した。
命中した地点には小さなクレーターのようなものが出来ており、結構な爆風が浴びせられる。
ゴブリンなど跡形もなく消し飛び、チリとなったようだ。
うん、綺麗な花火だったぜ。
「キャァァアアアッ!? ……ぶくぶくぶく」
「みんな、こんな感じでどうかな? ……むっ?」
振り返ると、そこには泡を吹いて目を回している4人がいた。
なんだなんだ、せっかく自己紹介したのにお昼寝なんてズルいぞ。
これじゃあ、みんながお昼寝から起きるまで見張りをしてなきゃいけないじゃないか。
残業もいいところである。
そしてそれから10分後、俺がゴロ寝しながら見張りを続けているとアーサー君が目を覚ました。
残業を押し付けた彼には文句をいってやらなければならない。
「……ぶくぶくぶく。……はっ!? 僕はいったい何を」
「ぬっ、おはよう。みんなだけお昼寝するなんてズルいよ?」
「え、お昼寝? たしか僕は、さっき魔王クラスの火炎弾を目にして、それから…… あっ。……ぶくぶくぶく」
目が覚めた彼は、さきほどの爆心地を見ると何かを思い出したように倒れてしまった。
またお昼寝とはなんてやつだ、もう怒ったぞ。
これ以上はお昼寝なんてさせない。
くらぇ、これがゼリリンのグッドモーニング魔法、音魔法による音声拡大(中)だ。
『みんな起きて、お昼寝はおうちでしよう』
「ハッ!?」
よし、全員起きた。




