ゼリリン、大儲けする
テイム成功の次の日、王都ベルンのギルド内には、箱詰めされた大量のスラタロ.Jrが積み上げられていた。
ギルド室内の一角をスペースとして陣取り、机を並べて商売を始めたのである。
値段や注意事項、商品の内容は立て看板にすべて記載されており、売り子であるリグや俺が対応する形だ。
「……おいおい、なんだありゃあ。チビッ子が見たこともないスライムを販売してるぞ」
「あぁ、あいつらは何者だ? まあだがスライムなんか従魔にしても、弱すぎて意味ないだろ」
ふむ、この反応は概ね予想通りだ。
そもそもからして、いくら立て看板に内容が記載されていても、普通は先に商品に目が行く。
その上さらに、冒険者がこのスライムに関する知識がない以上、ただのスライムだと思って看板を読む人はほとんど居ないはずなのだ。
……だから、勝負はここからだ。
全ては売り子代表であるリグの一声から始まる。
「ただいまより、回復魔法が使える新種、ヒールスライムの販売を始めますっ! 一匹いれば何度でも回復が可能な上に、移動の邪魔にならない浮遊機能つきっ! 本日、100匹限定となっております。詳しくは立て看板とチラシをどうぞっ」
「「……なにぃいっ!? 回復魔法だとぉ!?」」
──こうしてスラタロ.Jrの争奪戦が始まった。
ちなみに、チラシの内容は以下の通り。
──────────────
【激安スライムショップ・ゼリリン】
商品名:
ヒールスライム
お値段:
一匹につき金貨10枚。
商品内容:
特殊な環境により育った、回復魔法が使えるスライムです。
空を飛べるので、移動の妨げにならず偵察にも使えるでしょう。
補足と注意事項:
とても弱いです、戦えません。
エサは水で十分ですが、たまに魔力を与えると喜びます。
基本的に人懐っこいですが、雑な扱いをすると夜逃げするので注意しましょう。
──────────────
という感じである。
「おいチビッ子っ、俺にも一匹くれ! ほら金貨10枚だっ!」
「あ、汚ねぇぞお前っ! いま順番抜かしただろっ」
「うるせぇ、こんなの早いもの勝ちなんだよ」
体格の良いマッチョがひしめき合い、スラタロ.Jrをめぐって我先にと買いあさっていく……
熱い手のひら返しをした彼らが10枚の金貨を払うたびに、一匹、また一匹と飛び立ち、ついに最後の一匹がまだ見ぬ世界へと旅立っていった。
うむ、完売するまでおよそ20分、実に感動的なシーンだったな。
売上金額は合計で金貨1000枚、日本円にして1億円である。
さすが王都の冒険者、金持ちばっかだな。
「ふー、終わった」
「お疲れ様です若っ! 旅立っていくスラタロ.Jrたちはどこか誇らしげでしたね」
「そうだね、旅立っていたあいつらの人生を祝福しよう」
……それじゃ、また明日もやろっと。
◇
──2日目。
昨日の騒ぎを聞きつけた冒険者たちが、さらに勢いを増して殺到してきた。
今回はスラタロ.Jrの他にも、鍛冶屋で買ってきた金属を配合した新種族、メタルスラタロ.Jrを開発し、販売。
数量限定ではあったが、合計150匹が巣立っていった。
──3日目。
今日はお休みだ。
ちょっくら冒険者活動をして、学校に報告するだけの簡単なお仕事である。
その後は暇ができたので、レナ姉ちゃんとルー兄ちゃんにメタルとヒールを一匹ずつ分けてあげた。
レナ姉ちゃんがヒールで、ルー兄ちゃんがメタルだ。
レナ姉ちゃんはCランク冒険者として活動しているらしいが、回復が使えるヒールが居れば安定して戦えるはず。
ぜひ活用してもらいたいものだ。
──4日目。
スライムショップ・ゼリリンの噂を聞きつけたのは冒険者だけではないらしく、王都に来ていた貴族たちにまで広まっていたようだ。
今日はメタル・ヒールに加え、香水を配合したジャスミンが新商品として追加されている。
貴族にはヒールとジャスミンが特に人気であり、この日は過去最高記録の200匹を叩き出した。
──そして5日目。
俺のスライムショップの収益を恐れた商人ギルドが、無理やりなんくせをつけてきた。
なんくせの内容は支離滅裂だったが、要約すると収益の半分をよこせということらしい。
正直めんどくさいので無視した。
相手は顔が真っ赤だったので、おそらく何かしかけてくるだろう。
ここまでの販売により、町中にスラタロ.Jrが見かけられるようになったが、そろそろお金に困らなくなってきたので切り上げることにする。
合計の収益は金貨4500枚、金貨の100倍の価値がある聖金貨にすると45枚、日本円にして4.5億円である。
超大金持ちもいいところだ。
俺は既にスライムマスターとしての地位を確立している。
……少し名残惜しいが、スラタロで実験もたくさんできたし、そろそろ閉店といこう。
「ということで、本日をもってゼリリンショップは閉店となります」
「「うぉおおおっ! 助かったぜスライムマスターっ! お前は俺たちの救世主だっ!」」
うむ、俺もみんなもスラタロもハッピーだ。
販売作戦は大成功といえよう。
じゃ、今日はここで引き上げるとしようかな。
そしてリグと共にギルドをあとにし、宿へ向かった。
しかしその道中、だれかに後をつけられている事が攻略本のマップで発覚し足を止める事に。
そろそろ商人ギルドがしかけてくる頃かと思って、攻略本を出していたのだ。
よっしゃ、いつでも来いっ!
ゼリリンが相手になってやる。
「ふむ、少し待たれよ、そこのチビッ子」
「……ぬっ?」
振り返ってみると、漆黒のとんがり帽子に同じ色のマントを羽織った幼女がいた。
あれ、もしかしなくても、なんか人違いっぽい?
「この王都で珍妙なスライムを売っていると聞いてやって来たのじゃが、どうやら店は閉店してしまったようでの? もし次の開店日など知っておるようなら、教えてほしいと思った次第じゃ。おぬしらからは魔物の匂いがするし、もしや店主と知り合いではないかの?」
……ただのお客さんだった。
しかものじゃロリである。
というか知り合いもなにも、俺がその店主のゼリリン1号だよ。




