ゼリリン、高みの見物をする
寄生する魔力型ダンジョンコアを打ち破った後、オーラで覆われた3体の人型モンスターが出現した。
そう、確かに出現はしたのだが……
だが俺には関係ない。
なぜなら残業に疲れたゼリリンは休憩中だから。
一応わんわんは召喚しておいたから、あとは二人と一匹で頑張ってほしいものである。
おそらく負けることはないだろう。
先々代の勇者が3体とはいえ、相手はコアの力の残りカスだし、悪あがきにも等しい。
……と、思うよ。
そうだったらいいな。
「勇者流剣技【彗星剣】ッ!! チィッ、魔力が切れるっ! セリル、エリクサーをよこせっ!」
「僕の方にもっ!」
「…………」
なるほど、魔王城の床もひんやりしてて気持ちいい。
なかなかの寝心地ではなかろうか。
「ちょ、起きてくれセリルっ! ……仕方なない、今は殴る事を許してくれ。こうするしかないんだ、勇者パンチっ!」
「あだぁ!? …………うむ」
「また寝た!?」
だがこの魔王城の床、俺になんの恨みがあるかしらないが、時折ものすごい衝撃を与えてくるようだ。
そう、まるで勇者の本気パンチが命中したかのような衝撃である。
許すまじ床。
あっ、今の衝撃で収納から何かがこぼれちゃった。
「タクマッ! セリルのアイテムボックスからエリクサーが10本出てきたっ」
「ナイスだユウキ!! ただそいつのはアイテムボックスじゃねえ、収納だっ」
「ワオォン!!」
その後、なにやら賑やかな爆発音やら金属音をBGMに、俺は睡眠を続けた。
ときおり床が勇者級の衝撃を繰り出してくるが、それもまた心地よいマッサージとなっている。
うむ、くるしゅうない。
そして10分後、本日何度目かの衝撃により、俺は目を覚ました。
なかなか、心地よい仮眠だったな。
「おはよう、疲れが取れたゼリリンだよ」
「セリル!!」
「やっと起きやがったかっ! よし、これで形勢逆転だ」
俺が目覚めると、そこには最終決戦かなにかみたいに睨み合う、歴代の勇者達がいた。
おお、なんか壮大な光景だな。
「感心している場合じゃねぇぞ、あいつら切っても焼いてもすぐに再生しやがる。おそらくなんらかのカラクリがあるんだろうがな」
「さっき話を聞いた限りじゃ、彼らはコアの最後の力で生み出した歴代達のコピーみたいだ。さすがに強いよ、だけど不思議と負ける気がしない。力が湧いてくるんだ」
「クゥウン……」
ふむ、寝ている間にそんな事が起きていたのか。
ただ、冷静になって考えてみれば、コアの最後の力っていうのはどうなんだろうね。
DPを枯らした寄生型のコアが、ここまで精密なコピーを作り出せるかな。
なんか怪しい。
「まあ、とりあえずあのコピー達を調べてみれば分かるか」
勇者達には戦闘を頑張ってもらって、俺は向こうを鑑定してみる事にした。
それじゃ、攻略本さんよろしく。
【勇者達の残留思念】
成長標準:
生命力:-/魔力:-/筋力:-/敏捷:-/対魔力:-
現在値:
生命力:-/魔力:-/筋力:-/敏捷:-/対魔力:-
オリジンスキル:勇者Lv5・メッセンジャー
スキル:なし
【メッセンジャー】
悲劇と絶望の連鎖から救い出された、勇者達の最後の力。
残留思念がとどまっている限り、勇者スキルを持つ者が戦えば戦うほど、生前の彼らの能力が譲渡される。
自分達が成せなかった偉業を成した彼らへ、唯一できる感謝のプレゼント。
……うん、ただのボーナスステージだった。
しかも俺には全く関係のないボーナスステージだね。
完全に勇者道場じゃないか。
「まあ、エリクサーはまだたくさんあるし、このまま見学しておこう」
がんばれ2人とも、やればできるさ。
こちらはやることもないし、高みの見物だ。
「そうだ、せっかくだからキノッピ食べて観戦しよう」
そうだ、それがいい。
……そしてゴロ寝しながら戦闘を眺める事さらに10分、おつまみにキノッピを食べていると、ついに残留思念は消えて天に還っていったようだ。
教会のコアとも接続が切れたし、完全勝利だね。
彼らにも事情は説明したし、あとはお家に帰るだけだ。
「……ぜぇっ、ぜぇっ。おい、ボーナスステージだってんなら、そういうことはさっさと言いやがれ」
「……はぁっ、はぁっ。そうだよ、セリルだけのんびり見てるなんてズルいよ」
「もぐもぐ。だって、僕が参加してもどうすることもできないよ。……もぐもぐ」
というか、勇者スキルもないのに、2人のサポートに徹していたわんわんが一番の被害者ではなかろうか。
くたびれもうけってやつである。
「クゥゥウン……」
「よしよし、わんわんが一番がんばったよ。キノッピ食べる?」
「ウォンッ!」
キノッピで機嫌を直してくれたようだ。
進化して昔は食べなかったキノコにも興味が出たのかな?
よかったよかった。
「だがまあ、あの試練のおかげで力が手に入ったのは素直に感謝だ。コアを失い大幅にパワーダウンしたと思ったが、こんな所で取り返せるとは思わなかったぜ」
「そうそう、結果オーライだよ」
「ウォンッ」
何度でも言おう、結果オーライだ。
余談だが、勇者2人の実力を鑑定したところ、基礎的なステータスが爆発的にあがっていた。
タクマはコアを失った反動と勇者特訓でプラマイゼロ、初見の時のステータスを維持。
ユウキはそのタクマより若干弱い程度だ。
超人が2人も生まれてしまった。
◇
そして残留思念との闘いから数時間後、俺たちはクローム神聖国の王城でことの顛末を報告していた。
もちろん俺が魔王であることはタクマに内緒にしてもらい、囚われていた過去の勇者と共闘して解決したという報告を行ったのである。
結局向こうには帰らなかったけど、王城のふかふかベッドで惰眠できたのでよしとする。
どうせゼリリン2号が俺の代わりに学校へいくだろうし、なんの問題もないはずだ。
問題があるとすれば、あの残った魔王城と魔族をどうするかってところだけど……
まあそれはタクマにぶんなげよう。
ちなみに先ほどの報告のあと、俺が連れ去られたと思っていたらしい王様は感激し、キャミィなんか泣きながら抱き着いてきた。
キャミィがくっついて離れない。
「ふふふっ、私はセリル様が必ず生きておられると信じておりましたよ。すべては作戦だったことくらい、お見通しなんですから」
「うん、まあ余裕だよ余裕」
よくわからないけど、そういうことにする。
ストライキのためだったとは言わない、ゼッタイニダ。
「さすがですっ! 惚れなおしましたわっ、大好きですセリル様っ! チュッ」
「むっ」
「チュッ、チュッ」
「ぬわーっ!」
ダメだ、俺の良心が削れていく、だれか助けてくれぇぇっ!
「まあ、自業自得ってやつだ。反省するんだなぁ? クハハハッ」
「おのれ非道なるタクマ、お前本当に勇者なのか……」
彼は俺の秘密を唯一知っている奴なので、どういう状況なのか正確に把握しているらしい。
いまも王城で支給されたキノッピをおつまみに、高みの見物しているようだ。
おのれ悪魔めぇ……
あれ、これなんかデジャヴ。




