ゼリリン、栽培を思いつく
「えっと、レナ姉ちゃん……」
見られてしまった、もろに。
侮りがたし幼女の力。
まさか、この魔王ゼリリンに悟られず尾行していたとは思わなんだ……
だがいくら尾行が上手かろうと、相手は6歳児。
勢いをつければごまかせないこともないはず。
「セリルすごい! もう一回やって!」
「……えっ! ……そ、そう、僕は凄い! ゼリリンだから!」
「キャッキャッ! ゼリルン凄い!」
違う、ゼリリンだ。
だがさすがに幼女の頭というべきか、簡単に流されたようだ。
これなら勢いでごまかせそうだな。
「だけど、僕は1日に1回しかゼリリンになれないんだ。だから今日はおしまいだよ」
「おぉー…ゼリルンまたあした、みれる?」
「また今度かなー、だからこれはレナ姉ちゃんと僕だけの秘密だ」
「にししっ! わかった、ヒミツ!」
流されたようだ。
サラサラとした金髪のポニーテールを揺らして、はしゃぎ出している。
しかしあの土のダンジョンを作成したはいいものの、どうやって運用しようか全く考えてなかった。
とりあえず土なわけだし、何か栽培とかできそうだ。
俺は食べれば食べる程強くなれるそうだから、キノコとか栽培してみるのもいいかもしれない。
さすがに太陽の日差しが当たらないところでお米とかは無理だろうから、菌類が妥当といったところかな。
まあやってみればわかるか。
とりあえずレナ姉ちゃんを連れて家まで戻ろう。
家までは徒歩数分、この青空の下でお散歩しながら、姉弟の親睦でも深めておくべきか。
本日は晴天なり…
「ただいまー」
「ただいま! にししっ」
2人揃って我が家まで帰ってきた。
俺と秘密の共有が出来たのが嬉しいのか、レナ姉ちゃんは終始ご機嫌のようだ。
うむ、とても良い傾向だ。
これなら秘密を暴露することもあるまい。
ちなみに今の俺たちは森の中をはしゃぎまわった影響で、服とかはけっこうぐちゃぐちゃのドロドロだ。
これは母ちゃんのお叱りを受けるのも時間の問題かもしれない。
できるならば情けをかけて頂けると嬉しい、子供は遊ぶのが仕事なのだ。
寝る子は育つし、遊ぶ子も育つ。
すると、すぐに母君が俺たちを発見したようだ。
「あらあら、2人共どろだらけねぇ~? いっぱい遊んだのね」
「うん、セリルが森で遊んでたから、見張ってたの」
「それは大変だったわね、お姉ちゃんは弟の面倒をみれて偉い偉い」
「うん!」
いつの間にか俺が面倒を見てもらっていたことになった。
まあ、いいんだけどね。
それよりも俺は姉ちゃんの尾行技術のほうが驚きだよ、いったいいつから見張ってたんだ…
将来は凄腕のアサシンとかになってそうで怖い、身体能力も6歳児にしてはかなり高いみたいだし。
「だけど汚れたら綺麗にしなくちゃね。2人ともこっちへいらっしゃい」
「「はーい」」
…どうやら泥だらけになったことについては怒っていないようで安心だ。
母君の奥義「お洗濯」を受け続けている間、ダンジョンの方針でも考えておこう。
◇
──翌日。
朝食を食べた後、今度こそ尾行されないよう、細心の注意を払いながら森へと移動していた。
前方良し、側面良し…ついでに後方も良し。
うむ、誰もついてきていない。
そして歩く事また数分、昨日の森へとやってきた。
さっそく迷宮空間へと移動しよう、だらだらしてたらアクシデントが起こりかねない…
「それじゃ、収納!」
真っ白な空間に戻ってきた、相変わらずダンジョンのコア以外に何もない。
ちなみに栽培するキノコに関しては、DPで購入しようと考えている。
まだDPで購入できる一覧をよく見てないから、なんともいえないけど。
「どれどれ、どんなのがあるのかな…?って、あれ? なんかDPが増えてる」
なぜかDPが増えていた。
俺はまだなにもしていないんだが、これいかに。
詳細は以下の通り。
【亜空間迷宮、DP:720】
明細履歴:
土のダンジョン購入(-300)
土地の自然回復量(+10)
ゴブリンの死体(+1)×10
どうやら土地の自然回復量と、ゴブリンの死体とやらでDPが回復していたようだ。
ゴブリンが仲間割れでも起こしたのかな、これはおいしい。
まさに棚からぼたもちだ。
ちょっとどうなってるのか気になったので茶色い球体、土のダンジョンのコアまで近寄ってみると、ダンジョンの全体像がVR表示された。
「なるほど、ゴブリンとウルフの縄張り争いが起こっていたのか」
うちの土のダンジョンにウルフが10匹ほど住み着いていた、どうやら洞窟を住処に選んだらしい。
この洞窟の独占権を巡って争っていたのだろう。
だが、これは困ったな……
魔物が陣取っていてはキノコ栽培どころではない、早急に対処しなくては。
「とりあえず解決策が無いかDP一覧を探ってみよう」
しかし、DP一覧には強力なボスモンスター召喚や強力な武器一覧があったが、どれもポイントがバカみたいに高い。
今の俺ではとても現実的ではない解決策だった。
「ふむ、どうしよう。まあ最悪このままでもDPは稼げるからいいんだけど、[300]DP溜める前に攻略する人間が出ないとも限らないからなあ…困ったぞ」
そしてDP一覧を眺める事10分ほど、とある項目が目に入った。
【ダンジョンモンスターテイム】
└ダンジョンに一定期間以上居座り続けた魔物に対し、名前を授ける事でダンジョンモンスターへと進化させる。名付けのDP消費は個体の力に左右され、相手の同意がないと成功しない。
……これだ!
ウルフに名前を授け、こいつらにダンジョンポイントを稼いでもらえばいいんだ。
名付けが成功すれば襲われないだろうし、一石二鳥の作戦である。
問題は成功するかどうかだけど、まあやってみて成功しなかったら別の案に切り替えればいい。
失敗した場合はDP消費がないみたいだから一安心だ。
さっそくコアを操作し、VR表示の文字で名前を入力する。
とりあえずはリーダーっぽい一匹に名前をつけておけば、他の群れも襲ってくることはないだろう。
名前は「わんわん」っと。
名前を入力すると、迷宮に陣取っていたウルフの一匹がキョロキョロしだし、やがて光り出した。
『ダンジョンモンスターテイムに成功しました』
『ウルフがブラックウルフへと進化しました。モンスター名:わんわん』
『DP消費:10』
成功したようだ。
よし、これで安心してキノコを栽培できるな、ひやひやした。