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ゼリリン、残業する


俺の種族を明かした後、なんやかんやで質問攻めにあっていた。

ユウキといいタクマといい、勇者は質問するのが好きなのだろうか。


「それで結局のところ、俺に寄生しているダンジョンコアってのが、マスター同士の戦いじゃないと決着がつかず、破壊できないってこったな?」

「そういうことだよ。僕の攻略本にも書いてあるけど、いままでの勇者が寄生されたのは条件を満たしていないからなんだ。僕がタクマを倒せば、そっちも死ぬけどこの連鎖は終わるね」


そう、連鎖そのものは終わるのだ。

だがそれは彼を殺すということでもあるので、決着は急がない方がいい。


タクマがこの100年間なんの対策も講じてこなかった訳がないし、彼の話を聞いたあとでも結論は遅くない。


「……ふむ。まあ予想とはちっとズレてたが、考えていたことはおおむね同じだ。俺はこのコアが内部のエネルギーを枯らし、譲渡できる人間が居ない状態で破壊されれば封印できると考えていた」

「ほう、それはなかなか……」


つまり彼の言っていることは、DPダンジョンポイントを枯らした上で、耐性のある人間に自分を倒してもらうっていうことなのだろう。


確かに、この方法は的外れじゃない。


おそらくだが、コアが勇者に寄生するにはそうとうなDPが必要となるはずだ。

なにせ元々耐性がある勇者に寄生するんだから、そりゃあ無償という訳にもいかないだろう。


そしてDPを枯らした上で、自分以外の耐性もち、つまり勇者がタクマを倒せばあら不思議。

確かにコアが破壊されるわけではないが、宿主に寄生できない以上は封印されたと同義になるわけだ。


うーん、この人なかなか頭いいな。


「だけど、それだと結局そっちが死んじゃうよ」

「……確かに、今までではここで考えが行き止まりだった。だがかといって、俺にこれ以上の猶予もねぇし、勇者が二人も現れた以上はこの作戦を決行するしかなかったんだ。だからお前たちを血眼で探したし、誘拐もしたのさ。……だが、それもここまでだ」


……ほう。

何か思いついたらしい。


もしかしてアレかな、DPを枯らした状態でダンジョンバトルをするのかな。


「……ハッ。その顔から察するに、やっぱりお前も気づいたか。そうだ、ダンジョンバトルって奴をエネルギーが枯れた状態で行う。そんで、お前が言ってたアレだ、アレ。降参ってやつをするとだな」

「そう、降参したダンジョンはDPを支払わなければならない。だけど今回の状態では既にDPはまっさら、つまり、コアを代償にするしかないんだね」

「そういうことだ」


天才かよこいつ。

不確定要素は多くあるが、現状で打てる手としては最善だ。

犠牲も出ないし、勝利が確定している。


「そんじゃ、結論も出たことだし善は急げだ。さっそくエネルギーを使い果たすぞ、なんか欲しいもんあるか?」

「あー、うーん。それじゃ、不足の事態に備えてエリクサーを出来る限り出してよ。出したのは僕の亜空間に放り込んでおくから」

「了解だ。ありったけを生産してやるぜ」


……そうして俺たちの寄生型コア破壊作戦が始まった。


────────────────────────


勇者ユウキ視点。


僕はセリルが連れ去られた後、クローム王やキャミィ、執事長に事の顛末を説明していた。

いや、説明なんてものはおこがましい、これは懺悔だ。


もっとも、いくら懺悔しても、僕の罪がゆるされることはないだろう。


「それで、セリル君は魔族に連れ去られたというのかね……」


クローム王からの質問もこれで3回目だ。

おそらく王も、この現実をすぐには受け止めきれないのかもしれない。


だが悪いのは僕だ、僕が相手の戦力を見極められていれば、こんな事にならなかった。

あの無尽蔵にも思える魔族の大群相手に、ちゃんと判断を下し、騎士団や冒険者の人たちと戦っていれば、こんな結果にはならかったんだ。


「はい……、すみません。ぼくが、僕が考えなしに飛び出したから、彼が、セリルが身代わりになるしかなかったんだっ! 何が僕は勇者だよ、思い上がりやがって、ちくしょぉ……」


いくら後悔しても遅いが、目から涙が止まることは無く、震える体を鎮める方法も分からない。

ただその場に、跪くしかなかった。


「ユウキ様、私の話を聞いてください。……確かに、セリル様が連れ去られた事には憤りを感じますし、もし彼が命を落とそうものなら、私はあなたを一生許さないでしょう。ですが、それはあくまでも仮定の話、実際はそんなことにはならないのですよ」

「それは、どういう……」

「そんなの決まってるじゃないですか、セリル様が負けるなんてこと、ありえないからですよ。彼は絶対無敵の、私のヒーローですからっ」


……その言葉を聞いた瞬間、僕の中で、何かが息を吹き返した。

そうだ、彼は死なない、死ぬはずがない。


彼は最強の勇者だ、僕なんかとは比べものにならない、勇気を持った人間だ。

あのどうしようもない数の魔族を一瞬で屠った彼が、なんの考えもなし自爆するなんて考えられない。

あそこまでの芸当が出来る彼に、援軍を待つ程度の余力が無かったわけがない。


これはきっと、何か大切な<理由(メッセージ)>があったんだ。


そう思い至った時、僕の心に、再び勇気があふれ出した。


「そうだ、そうだ彼はこんな所で終わる人じゃない。彼が援軍を待つ程度の事、できない訳がない」

「そうです。だからこそ、私たちは彼のメッセージを汲み取らなければなりません。ユウキ様、短い間とはいえ、親友になれたあなたなら分かりますよね?」

「……ええ、もちろんです。もう僕は2度と、こんなミスをしたりしない」


確か彼は、教会の水晶を基点にして転移すると言っていた。

であるならば、彼と最も強くつながりを持つ水晶になにかヒントがあるはず。


そうと決まれば、こうしてはいられない。


「クローム王、キャミィ、どうやら僕には、まだやらなければならない事があるようです」

「ええ、いってらっしゃいませ、勇者ユウキ様」

「ふっ、儂の若い頃を思い出すのぉ。いってまいれ、勇者ユウキよ」

「はっ! 絶対にセリルを取り戻してみせますっ!」


そうと決まれば善は急げ、教会に転移だっ!


────────────────────────


「ぶぁぁあっくしょいっ! ぜ、ぜりりっ……」

「どうした、風邪でもひいたか」

「そんなまさか。ちょっと変な気配を感じただけだよ」


うーん、この気配なんなんだろう。

それにしても、ここに来る<理由>はストライキのためだったんだけど、結局働いちゃってるなぁ。


ああ、早く学校の宿舎に帰って寝たい。

もしくは宿屋とかで、リグの膝枕に頭をのせてゴロゴロしてたいな。


ゼリリンに残業はNGなのである。




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