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ゼリリン、昔話を聞く



クローム神聖国での決戦を終え、魔族に運ばれた俺は、魔王城と思わしき城塞型ダンジョンに連れられていた。

しかも運び込まれている途中、まだ息がありこのまま放置するのはマズいということで、手錠や縄で体中グルグル巻きにされたのである。


この魔族たちはゼリリンの扱いがなってないな、7歳児の肌は繊細なのだ、もうちょっと丁寧に封印してほしい。

ちなみに、抜け出そうと思えばスライム形態になっていつでも抜け出せる。

いま大人しくしているのは、一度魔王様とやらに面会するためなのだ。


それからしばらく、禍々しい城の中を引き摺られる事1時間ほど、ようやく謁見の間までやってきたようだ。

このダンジョン広すぎだろ、どんだけ時間かかってるんだ。


というかここに来てから時々、手の形をした闇が俺にまとわりつこうとするけど、俺に触れた瞬間弾けて消える。

なにがしたいんだこの闇は、ゼリリンの耐性だけで勝手に死んでいくぞ。


「魔王様、一人の勇者を捕獲することに成功しました」

「……ああ、そうか。それじゃまあ、そいつをそこらへんに放っておけ。お前にはあとで褒美をやる」

「ハッ! ありがたき幸せ」


俺をここまで連れてきた中級魔族が謁見の間で跪くと、王座の方から若い男の声が返ってきた。

ふむ、魔王っていうからもっとゴツイおっさんを想像していたんだけど、声質は中肉中背って感じだな。


ちょっと魔王様とやらのお姿を拝見したい。

どうしようかな、もう脱出しちゃおうかな。


……よし、脱出しよう。

こう、体の表面だけをスライム状にして、スルスルっとな。


「あらよっと。ふう、肩こった。さてさて、どんな奴なのかなっと。……おろ?」


封印から抜け出し、先ほど声のした方向を見ると、そこには黒髪黒目の日本人が王座に座っていた。

見た目は17歳くらいで、学ランを着ている。


なるほど、これはつまり……

つまり、わからん。


……まいっか。


「ふん、やはり貴様が捕まっていたのは演技だったか。俺の部下を無暗に殺さなかったことは褒めてやるが、この俺と一対一で戦って勝てるとでも思っているのか、勇者よ」

「ん? まあ、やって負けることは無いんじゃないかな、実際に戦ってみないと分からないけど」


というか、そんなことより俺は一発殴りに来たんだよね、人様に迷惑かけすぎだぞ魔王さん。


「……そうか。そうだな、確かにやってみないと分からない。だからこそ俺は……」

「正義のゼリリンパンチっ!!」

「ガハァッ!!? き、貴様ァ!?」


なんか話が長くなりそうだったので、とりあえず一発殴った。

うん、ちょっとスッキリした。

それじゃ思う存分話すがいい、俺は寝る。


「くそっ! こいつ、殴るだけ殴ってふて寝しやがった。なんて野郎だ、お前本当に勇者なのか……」

「……」

「無視か。ま、まあいい、まずは俺の話を聞け。これからこの世界の真実を教えてやる」


スリーピングゼリリンに何を言っても無駄だ。

この状態の俺を起こせるのは母ちゃんとレナ姉ちゃんだけなんだぜ。


すると、王座に座った魔王が、昔を懐かしむようにゆっくりと語りだした。


なんだなんだ、子守歌でもおっぱじめる気か。

くそっ! こんなところで睡眠攻撃とは、さすが魔王汚い。


「……そうだな、まずは自己紹介から始めようか。俺の名前はタクマ・サトウ、先代の勇者だ」


……えっ。


────────────────────────


……今から100年ほど昔。

大陸は闇に覆われ空は見えず、魔物は力を増し、人類は窮地に追い込まれていたとされている。

その闇の魔力は太陽の光をも遮り、植物を枯らし、人を衰弱させ、魔王城と呼ばれる城を中心に際限なく広がっていったのだ。


そう、その闇の魔力こそ<魔王>そのものなのである。


……しかし、そんな絶望的な状況の中でも人々は諦めなかった。


賢者ですら闇を払えず、聖女ですら癒せず、聖騎士ですら絶望する闇の中、一人の救世主が現れたのだ。


その救世主こそ、異世界からの旅人<勇者>である。


勇者は旅の途中、さまざまな困難に立ち向かった。

彼は賢者ですら払えなかった闇を払い、聖女ですら癒せなかった傷を癒し、聖騎士ですら絶望する戦いに勝利した。


その後2年の月日が経ち、闇の半分を彼の光で押し返した時、決戦の時はやってきた。


「よう、魔王。このクソみたいな世界を終わらせに来たぜ」

「ほう、わらわの闇が効かぬ者が現れよったか。ふん、勇者とは実に忌々しきものだのう」


対峙するは、黒髪黒目の少年と妖艶な赤髪の美女。

まさに一触即発の状態である。


「御託はいい。ここで決着をつけ、俺は元の世界に帰る方法を探すだけだ。……そんじゃ、いくぜ」

「……悲しき者よの、まるで昔のわらわを見ているようじゃ」

「ウォオオラァッ!!」


様々な困難を乗り越え、完成した勇者の一閃が魔王城に轟いた。

まさに一撃必殺である。


……そして、そこからの戦いは空前絶後、一進一退の攻防。


仲間の聖騎士が剣を振るえば魔王は傷つき、再生する。

魔王が魔力を振るえば賢者が守り、聖女が癒す。

そして勇者が光を放つ。

その繰り返し。


はたして、無限にも思える長い闘いの中、最後に立っていたのは──


──<勇者>だった。


「はぁ、はぁっ。……終わりだ魔王、もう2度と復活出来ねえように、てめえの力の源<ダンジョンコア>ごと抜き取ってやるよ」

「ふん、やってみるがいい小童。そして真実を知り、お前も絶望するだろう」


そう告げた勇者は魔王にとどめを刺し、魔王の体と一体化していたダンジョンコアをくりぬいた、その瞬間……


「グァアアアッ!? なんだ、これはっ!?」

「どうしたのですタクマっ! ……これは、いったいっ!?」


ダンジョンコアをくりぬいた瞬間、コアから飛び出た闇が勇者の体内に吸収されたのだ。

本来、彼に効果が無いはずの闇は勇者の意識と体を蹂躙し、呪印のような物を残していく。


……そう、この闇の呪印、呪いこそが<魔王>そのものだったのだ。


その後、今までの魔王の発言から徐々に蝕まれていくと感じた<勇者>は、抜け殻となったコアを教会に託し姿をくらませる事になる。


託された聖女は呪印の発症を抑えるために、一縷の望みをかけて世代を跨ぎコアに祈りを捧げ、賢者は呪印の解除方法を研究し、聖騎士は手がかりを探しに旅に出ていった。


……これが先代の勇者、いや勇者たちの最後だったのだ。


────────────────────────


「ということだ、分かったか」

「……」

「うたたね寝してんじゃねぇよ!!」

「あだぁっ」


ちょっとウトウトしてたら、サッカーボールみたいに蹴っ飛ばされた。

ひどいや、ちょっと話が長いから飽きてただけなのに。


それにしても魔王ってそれウソだろ、だってこっちが種族的にも魔王だしね。

ちょっと鑑定してみよう。


【(異世界人)人族:タクマ・サトウ】

成長標準:

生命力:S/魔力:SS/筋力:S/敏捷:S/対魔力:S

現在値:

生命力:S/魔力:SS/筋力:S/敏捷:S/対魔力:S


オリジンスキル:勇者Lv5(封印中) ダンジョンコア(寄生中)

スキル:不明


【ダンジョンコア(寄生中)】

スキル効果:

次から次へと宿主を移り変える魔力型ダンジョンコア、ダンジョンバトルでしか破壊できない。

能力は個体により差異があるため不明。


「なんやて」


なんか知らないけど寄生するダンジョンコアらしい。

ダンジョンバトルでしか倒せないんだから、そりゃあ勇者が倒しても意味ないわ。

うん、解決方法わかっちゃった。


「あん? どうした勇者。そういやお前の名前を聞いてなかったな。あと、言っておくが俺は絶対に絶望なんかしねぇ。絶対にこの俺が呪いなんてものをぶっ壊してやる、舐めんな」

「そっか、あんた強い奴だな。僕の名前はセリル・ロックナー、魔王をやっている」

「……そうか、お前も苦労してんだ……な……はぁっ!?」


うむ、魔王ゼリリンである。


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