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ゼリリン、ストライキを目論む


訓練試合が終わったあと、王城の客間で勇者やキャミィからの質問攻めにあっていた。

特に俺の装備に興味を持ったようで、チート勇者ことユウキはまったく引く様子を見せない。


だがこちらもアングリーゼリリン、答える義理はないのである。


「それでキャミィの話によると、その本は召喚魔法の魔導書なんだね。やっぱりすごいね、あれだけの実力がある上に、まだ召喚獣なんていう手札まで隠し持っていたなんて」

「ふふふっ、そうですよ。セリル様は最強の勇者様なのです。2年前のあの日も、この本で私を魔族から救い出してくれたんですから」


答える義理はない。

ないのだが、キャミィが勝手に全部話しちゃった……

なんてこった。


まあ、攻略本の情報に関しては大嘘なんだけどね。


「うん、悔しいけど、やっぱり僕じゃまだまだだ。もっと強くならなくてはいけない、君に追いつくくらいに」

「ふふふっ、セリル様の壁は高いですよ?」


いや、あんた十分強いから。

それ以上強くなったら手に負えないから、かんべんしてくれ。


それからしばらく、俺の悪役マントや報酬のロングソードの件について話していると、客間に執事さんがやってきた。

俺がスーパーゼリリンになるきっかけになった、あの歩法を教えてくれた執事さんである。


なにやら少し焦っているようだ。


「緊急事態です、王よ。魔族の軍勢が王都へ向かってきております」

「む、真か? 他の町からは、そのような情報は全く聞いておらんかったのだがな」


どうやら敵襲のようだ。

こういう報告をこの人が行うということは、やはりこの執事さん、タダ者じゃないな。


「それが必ず通るべき中継地点である王都周辺の村や、同じく周辺の町からの報告は一切ありませんでした。おそらくは転移魔法を足とした侵略かと思われますな」

「ふむ、なるほどのぉ」

「なんだって!? しかし、転移魔法は僕ら勇者しか使えないはずじゃ……」


執事さんが淡々と事実を述べると、ユウキが驚きのあまり声をあげた。


それにしても転移魔法か……

うん、たぶんそれ魔法じゃないね。


絶対に転移魔法じゃないとは言い切れないけど、同じダンジョンマスターである俺からすれば、近くのダンジョンからコアを通して魔族が輸送されているというのが正しい認識だ。


出来るかどうかは分からないけど、上位のダンジョンマスターがDPダンジョンポイントを大量に下位のマスターに送り付ければ、やろうと思えば可能な作戦だったりする。

上位ダンジョンマスターの傘下にある下位のマスターがDPで大量に魔物を量産し、そのマスターが王都の近くにある前提ならね。


だがいくら下位マスターを強化したところで、ちょっとやそっと増えたモンスターで一国を相手にできる訳がない。

おそらく、相手の狙いは俺かユウキの実力調査といったところだろう。


もしくは、あわよくばどちらかの勇者を倒すか攫えればいいなって感じかもしれない。


「しかし、やはりそう来たか。そもそも、2度も勇者召喚を成功させて、魔族側に情報が伝わらない訳がないのだ。おそらく奴らの狙いはまだ未熟な勇者を叩き、こちらの戦力を削る事だのぉ」

「ええ、そうでしょうな。狙いはまず間違いなく、セリル殿かユウキ殿でしょう」

「うん、僕もそうだと思うよ。ユウキも僕もまだまだ強くなっている途中だ」


王たちが話している内容にはかねがね同意だ。

転移魔法の件は的外れだったようだけど、まあそれはダンジョンマスターの事をよく知っていないからだろう。


すると、真剣な顔をしたユウキがすっと立ち上がり、俺に向けて力強く頷いた。

いや、「考えている事は同じだな」みたいに頷かれても、なんのことか分からないんだが。


どういうことだってばよ……


「わざわざ言うまでもないけど、やっと僕らの出番のようだ。向こうの狙いなんて関係ない、今回は僕たちが出来る限り向こうの戦力を削り、この王都クロムを守り抜く! この1年、僕を支えてくれたこの国のみんなに、ましてやキャミィにだって、指一本触れさせないっ!! これが今の僕に出来る、唯一の事だ」

「勇者ユウキ殿……」


えっ!?

なにこれ、俺も戦うのっ!?

いやいや、下級魔族なんてチート勇者一人で十分でしょ。

ゼリリン疲れるのいやだ。


「しかしユウキ殿、セリル殿はまだ子供です。魔族と戦うのはまだ早いのでは……」

「いいえ、そうでもないみたいですよ。2年前の時点で既に村を占拠した魔族を蹴散らしたという話も聞いてますしね。……そして何より、彼は僕よりも強い」

「……ふむ。わかりました、そこまで言うのならあなたの言葉を信じましょう。こちらも騎士団の準備が整い次第、援護に向かわせていただきます」


俺の思いも虚しく、当然のように二人で戦場に出ることになってしまったようだ。

執事さんは幼い俺を前線に出すのを少しためらっていたようだけど、勇者としてのユウキが実力は十分と太鼓判を押した事により、結局反論できずにいたようだ。


まあ確かに、中途半端な魔王軍なんてジュース飲みながらでも殲滅できるけど、もうちょっとサボらせてくれても良いんじゃなかろうか。


あんまり働かされるとストライキ起こしたくなるね、寝返って魔王軍にわざと攫われちゃうぞ。

……あっ、これ良いアイディアかも。


「それじゃあセリル、準備はいいかい」

「こっちはいつでも良いよ」


冒険者や騎士団が到着しちゃうと向こうも撤収しちゃうかもしれないから、どれだけ早くやられるかがポイントになってきそうだな。

仮にもしこの作戦が成功すれば、今後無理に駆り出される事もなくなるだろう。

というか、わざわざこっちに帰ってこなくても良いかもしれない。


さあ魔族よ、遠慮することはない、どんと来い。




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