ゼリリン、圧倒する
勇者ユウキが冷や汗を流し、一瞬だけ硬直した瞬間にダークオーラと身体強化の準備を済ませた。
ダークオーラは身体強化の上乗せにも使えるけど、真の価値はそこにはない。
最も重要なのは「オーラを操り、第二の手足のように操作することも可能」という特性にある。
この第二の手足というのは魔力で出来た手足であり、本来なら直接干渉できないハズの魔力そのものに干渉できるようになるのだ。
そう、こんな風に。
「音魔法を無魔法で包んでコネコネっと…… よし、できたっ!」
「くっ! 同じ勇者とはいえ、まさかこんな幼い君に負ける未来が見えるなんてね。自分でも知らないうちに、少し驕っていたよ……」
ユウキ君がなにか言っているが、今のところは無視。
それじゃ、全力のゼリリンをお見舞いしてやろうじゃないか。
「さあ、僕のほうは準備できたよ。いつでもかかってくると良い」
「ああ、そうさせてもらう。君には様子見なんて必要ないようだからね。……ゼァアッ!!」
俺の誘導に乗り、宝剣を構えて突っ込んできた。
かなりの迫力にちょっと気圧されそうになったが、今はそれでいい。
本来なら数段高い筋力を持つ彼相手に、武器も持たずに迎え撃つなんて無謀なんだけどね。
だが、今回はちょっと訳が違う。
だって迎え撃つもなにも、彼はこっちに辿り着けないのだから。
「いくらなんでも、無防備で僕の剣を迎え撃つなんて、油断が過ぎるよセリル! 今度は君が驕ったようだね。くらえ、聖……ぐあぁぁあっ!!」
「……ふむ? いい感じに吹っ飛んだね。ホームランかもしれない」
勇者が俺を間合いに収め剣を振りかざした瞬間、いきなり目に見えない爆発が起き、彼を吹っ飛ばした。
そう、これこそが先ほどのダークオーラでコネコネして作った爆弾、ゼリリンボムである。
作り方は単純で、超振動する爆発的な音のエネルギーを、無魔法の殻で包み球体状にして保存するだけ。
あとはそれを適当な空間に配置して、敵が引っかかるのを待つ。
音は目に見えないので、俺以外にはどこに爆弾が配置してあるかすら分からない凶悪兵器である。
おそらく、見学している王とキャミィからは何が何だか分からないだろう。
彼が自分から吹っ飛んでいったように見えているのかもしれない。
「ユウキ様っ! ふざけているのですか!? いくら訓練試合とはいえ、セリル様をバカにしすぎです。見損ないましたっ!」
「ぐっ、はぁっ、はぁっ! ち、ちがうんだキャミィ、見えない攻撃が急に……」
やっぱりあらぬ疑いを掛けられてる。
ユウキ君は何も悪くないのに、チョットかわいそうダナ(棒読み)
まあでも、今は説明してる時間もないし、休まずに追い打ちかけさせてもらおう。
「休んでいる暇はないよっ!」
「なっ!?」
ゼリリンボムに打ちひしがれて満身創痍の勇者に、ダークオーラ・身体強化・体術を併用して迫った。
くらぇ、連続ゼリリンパンチ!
「パンチ! パンチ! パンチ! ホァーアタタタタッ!」
謎の奇声と共に、ダークオーラを含めて4本の腕からパンチが繰り出される。
あまりの威力とスピードに、訓練場の地面は少し抉れ土煙が舞っているようだ。
見た目が派手なので、ちょっと面白くなってきた。
「ぐぁっ! がはぁっ! くそっ、な、舐めるなぁあっ! 時空魔法【ヘイスト】」
「……およ?」
あともうちょっとで勝利といったところで、急に彼の動きが素早くなった。
ゼリリンパンチのほとんどが躱されているようだ。
もしかして【ヘイスト】とかいう時空魔法のせいかな?
影分身して見えるくらいの超スピードでパンチを避けまくっている。
これは驚いた、さすがチート魔法。
だが、彼の方もかなり体力の消耗が激しいし、あまり長時間この動きはできないだろう。
パンチしている俺の方は、ゼリー細胞で体力無限大だしね。
「さすがに、まさかここまで実力差があるとは思わなかったよ。だけど、こっちだってそう簡単には負けられない。これでも僕は<勇者>なんだっ! もしこれが実戦で、僕が負けてしまうようなことがあれば、その先にあるのはっ……! くっ、う、ぉおおおお!!」
「ぬわっ!?」
なんだなんだっ!?
時空魔法でスピードの上がった状態から、さらにスピードが急上昇した。
体の周りに赤いオーラを纏っているし、覚醒でもしちゃったのだろうか。
というか徐々に押し返されてるし、ちょっとゼリリンピンチ。
ピンチなので武器使います。
カモン報酬たち。
「セリル、君は強いよ。だけど君と同じように、僕にも負けられない理由がある。これで終わりだ、勇者流剣技【彗星剣】っ!!」
「ぬわーっ!!」
特に負けられない理由はないけど、どことなく最終決戦並みに意気込んだ勇者ブレードが俺に直撃し、大爆発を起こした。
うん、ちょっとビビった。
「はぁっ、はぁっ…… 勝った……」
「と、思うじゃん」
「……っ!? ……ハハハ」
俺が大爆発に巻き込まれ、勝利を確信した瞬間、彼の首に俺の剣が添えられていた。
ユウキ君は意地でも倒れないつもりなようなので、体力を削り切る作戦を変更して判定勝ちを狙ったのだ。
武器とか使って首筋に当てないと、負けを認めてくれそうにないからね。
だって彼、すでに限界なハズなのに気力だけで動いちゃってるし。
これ以上やると死んじゃうのでこうするしかなかった。
それと、爆発に巻き込まれても余裕だったのは、彼の剣が直撃する寸前に分身に身代わりになってもらったからだ。
逃げ足効果で敏捷の上がった俺が、瞬時にゼリー細胞を複製し、身代わりとなるスライム形態のゼリリン3号を召喚。
そして爆発の余波を障壁で相殺し、土煙の中から鋼のロングソードを持った俺が登場という訳である。
うん、疲れた。
ちなみにゼリリン3号は土煙が晴れないうちに消してある。
「そ、そこまでっ! 勝者、勇者セリルっ!」
「すごいですセリル様っ! はわわわっ!」
「うむ、さすが勇者同士の対決だ。年甲斐もなくテンションあがってきたわい」
口を開けてポカーンとしていた審判さんが、遅れて判定を下した。
判定が遅すぎるのでちゃんと仕事してほしい。
「ハハッ、いや、さすがだよ。強くなったつもりでいたけど、こんなんじゃまだまだだ」
「いや、僕の方こそ勉強になった。今度ユウキさんに剣技とか教えてほしいくらいだよ」
「ユウキでいいよ、セリル。僕も呼び捨てにしちゃってるし」
「わかった、ユウキ。困った時は力になるよ」
その後、ガシっと握手を交わし、訓練試合は終了した。
「セリル様とユウキ様の熱い握手……、くふっ」
俺たちの握手を見て、キャミィが顔を赤くしてぶつぶついっていたが、なんの事だかさっぱり分からない。
わからないったら分からない。
それからしばらくして、訓練が終わった俺とユウキは客間へと案内された。
さっきの力がなんなのか気になるし、ちょっと鑑定でもしておこうかな。
「サモン、攻略本」
どれどれ。
【(異世界人)人族:ユウキ・ムトウ】
オリジンスキル:勇者Lv3
スキル:光魔法・時空魔法・限界突破
【勇者Lv3】
└LV1効果:本人の才能にあわせて成長率が極端に上昇する。剣に関する技術が向上しやすい。
└Lv2効果:相手と本気で戦う時、敗北する場合はその結果が見えるようになる。時空魔法入手。
└Lv3効果:本人の意思が挫けない限り、体力限界を超えても行動できる。限界突破入手。
【限界突破】
スキル効果:
全能力を爆発的に上昇させる。
一日に一回だけ使用可能。
「なんやこのチートォ……」
「どうしたんだいセリル? そういえばその本、試合の時にも使ってたね。魔導書か何かかい?」
チート勇者がなんか言ってる、こんなん反則や。
もう怒った、怒ったので答えてあげない、アングリーゼリリンだわ。




