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ゼリリン、スーパーゼリリンになる



教会で王からの伝言を受けた俺たちは、すぐに王城へと向かった。

王城はまさに中世ファンタジーに出てくるような立派な建物で、白い城壁に青い屋根が基調となっている。


「という訳で、王様によばれたゼリリンだよ」

「はっ! 勇者セリル様ですね。王から案内するようにと申し付けられています、どうぞこちらへ」


教会からしばらく歩いて、城の門番さんと思わしき人に声をかけてみた。

城に来いとは言われていても、その中のどこで待てばいいかわからないからね。

こういう時は人に聞くのが一番だ。


その後、何人か居た門番さんのうちの一人についていくと、城に入ったくらいで案内を執事さんにバトンタッチした。

なるほど、外では騎士が案内して、中では執事さんが案内するのか。

城の中まで戦いが専門の騎士が案内する理由がないからね、こういうのは接客のプロに任せた方がいいってことらしい。


ちなみに執事さんはオールバックの銀髪で、タキシードを着た40~50歳くらいのおじさんだ。

これぞまさに、ザ・執事って感じの見た目をしている。

この世界の執事が向こうと全く同じ仕事内容なのかは疑問だけど、異世界に来てそれっぽい人を見れるとか、ちょっと感動した。


動きのひとつひとつにも無駄がなく、素人目にもここまで案内してくれた騎士さんより強いのではないかと思えるレベルで洗練されている。

俺に実力を測れるような眼力があるわけじゃないけど、カッコいいことには変わりはない。


俺も真似してみよっと。


それからしばらく、目の前のお手本を見ながらカッコイイ歩き方なんかを真似していると、執事さんが声をかけてきた。


「……ふむ、これは驚きました。私も仕事の関係上、様々な方を案内させていただきましたが、まさか見ただけでこの歩法の神髄を理解された方は初めてです。さすがは勇者様といったところでしょうか」

「ふふんっ! とうぜんです、若ですから」

「まったくもって、その通りですな。これ程の逸材が努力によってどれほどの高みに上り詰めるのか、頼もしさと同時に恐怖すら覚えますな」


適当に真似をしていたら、いつの間にか神髄とやらを理解している事になってしまった。

ぶっちゃけ俺、何も分かってないけど大丈夫なんだろうか。


「でも、そういう執事さんもタダ者じゃないよね。僕の目には、案内してくれた騎士さんよりも実力者に見えるよ」

「えっ!? そうなんですか!?」


どうやらリグは気づいてなかったらしい。

武器を持ったら強いんだけど、持ってないとちょっと体力のある普通の女の子なんだよね。


「はっはっはっ! これはご冗談を、私はあくまでも執事ですよ。確かに体術には自信がありますが、実際に戦えば騎士たちには及びません」

「ほむ?」


うん、絶対嘘だね。

だって目が笑ってないし。


おそらく謙遜して、騎士たちの面目を立たせていると思われる。

本音としてはもうちょっと彼らに頑張ってもらいたいのだろうけど、立場上はそれが言えないとみた。

一応は城に仕えてるわけだからね、こういうのも仕事のうちなんだろう。


そして案内されてから数分後、真似ていた歩法をだいたいマスターした頃くらいに目的の部屋まで辿り着いた。


「王よ、勇者セリル殿をお連れしました」

「うむ、ごくろう。下がって良いぞ」


王が返事をすると、執事さんは綺麗なお辞儀をして去っていってしまった。

また今度会ったら色々学ばせてもらおう、実に有意義な体験だったよ。


それに、いまならパチュルの飛び膝蹴りも余裕で躱せそうだ。

どこからでもかかってくるが良い、今の俺はスーパーゼリリンだっ!


「やっと来たわねセリルっ! いったい何日待たせるのよっ、とりゃぁあああっ!」


ふっ、読めているのだよパチュル。

以前よりもだいぶ動きが洗練され、パワーもスピードも上がっているようだが、それでもスーパーゼリリンには及ばない。


「ほいっ」

「えっ!? 嘘、避けられたっ!?」


弾丸のように向かってくる膝を、これ以上ない華麗なゼリリンステップで躱した。

いつものステップと違い、今回は回転も混ぜてみたのである。


この俺の動きにエフェクトが付くとしたら、キラキラに加えてバラも舞い散るに違いない。


「華麗に決まった」

「こらっ、避けるんじゃないわよっ」

「へぶぅっ!? ひ、卑怯な……」


避けたと思ったら、後ろから2発目の膝が飛んできた。

なんという理不尽。

ほら、リグもなにがなんだか分からず大口を開けているじゃないか。


「はははっ! 許してあげてくれセリル君。パチュルは君が心配でしょうがなかったんだよ。なにせ君が来るまでの彼女といったら……」

「あぁぁ! なんでも無いなんでも無いっ! 聞くんじゃないわよセリルっ」


リジューン王国のギルドマスターこと美魔女さんも同席していたようだ。

闘技大会で戦ったAランク剣士さんと一緒にソファーに座っている。


しかし、もうちょっとで美魔女さんの話を最後まで聞けたんだけどな。

肝心なところでパチュルに耳を塞がれてしまった。

いったい彼女に何があったというのだろうか。


するとしばらくして、一連の流れを呆けた顔で見ていたリグが再起動しだした。


あれ、というかリグさん目がヤバいですよ。

おーい、リグさーん。


「まさか、白昼堂々と若に攻撃する奴が王城に居るとは思わなかった。 ……構えろ、剣の錆にしてやる」


連双剣キラに手をかけ、抜刀する構えを見せるリグ。

あぁ、これはやばい。

完全に頭に血が上ってらっしゃる……


「……へぇ。誰だか知らないけど、ちょっとセリルを放置している間に悪い虫がついたようね。返り討ちにしてくれるわ」

「死ぬのは貴様だ」

「あんたよ」


パチュルも戦う構えをみせ、お互いにじりじりを間合いを詰めていく。

ふむ、それにしてもこの二人は馬鹿なんじゃなかろうか。


「やめんか馬鹿者」

「「ぐべっ!?」」


俺の首トンがリグへ、無魔法の魔力衝撃がパチュルの顎へと放たれた。

2人とも気絶したようだが、心配だからリグの魔剣は回収しとこ。

さすがに王の前で戦っちゃまずいって。


「ハッハッハッ! うむ、元気が良いお嬢さん達だ。……してセリルよ、此度の魔族討伐ご苦労であった。あの魔族たちの行動からして、まだ未熟な勇者であるそなたの居場所を探っていたようであったが、まさか本人に討伐されるとは思ってもみなかっただろうな」

「ふむふむ」


まあ勇者じゃなくて魔王だしね。

そりゃあ下級魔族には負けませんよ。


というか、魔族の件で今回は呼ばれたのかな?

それなら美魔女さんが居る理由も納得できるし、おそらく土の迷宮の事も聞かれるだろう。


「それに魔族といえば、ここに来る途中に記憶の迷宮と呼ばれる脅威度Aの迷宮が見つかった。なんでもその迷宮の主は、そなたの姿をしたドッペルゲンガーだったらしい。……なにか心あたりはあるか?」


やっぱり来たか。

ここでボロを出すと、さすがにわんわんの立場がまずいかもしれない。

まさに俺の正念場と言ったところだろう。


だが心配は無用だ、あらゆる言い訳によって社会を乗り切ってきた俺の手腕をみよっ!


「うーん。僕、5歳だからわかんない」


あぁぁっ!?

なにやってんだ俺、それ絶対に疑われるよっ!


「「…………」」


ゼリリン大ピンチ。



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