ゼリリン、考える
──3歳になった。
名前はセリル・ロックナー。
俺の体は成長し、背丈こそ一般の3歳児と変わらぬものの、中身の筋力や運動能力に関しては10歳に毛が生えたくらいの性能になっているかと思われる。
流石ゼリリン、細胞そのものが違うぜ。
細胞といえば分かったことがもう一つ。
この体はいくらでも食べられるし、食べなくても死なないということだ。
どうやらゼリー細胞というのは魔力を糧にしているらしく、食べた物も魔力に変換して自分に蓄積しているだけのようなのだ。
故に、魔力さえ何日も枯渇した状態でなければ、飢えで死ぬことは無いらしい。
攻略本先生も知らないことだったらしく、謎種族のページに新たな情報が書き加えられた。
この俺こそがゼリリンの第一人者なのだ。
当たり前だけど。
ちなみに、この情報は実際に飢えに苦しんでいた先月ごろに発覚した。
男爵家とはいえ、雨が降らずに食料難になることがあれば、領民から無理にでも搾り取らない限りは貧乏生活まっしぐらである。
うちは領民に理解がある貴族らしいので、自分の家で作った野菜すら分け与えて領地を運営しているくらいだ。
とはいっても、貴族なだけあって食べ物が無くなることは無いけどね。
食べ物をこっそり、レナ姉ちゃんとルー兄ちゃんに分けてたから食べてないというだけの話。
それと最後に、迷宮空間のスキルが少しだけ使えるようになった。
迷宮空間に物質を出し入れする機能らしく、一度しまったものはどこにあるかも分からない迷宮に保存され、出したいときに傍に出せるようになるのだ。
食べ物をこっそり分け与えられたのも、食べるフリをして迷宮にしまい、食べ終わったとみせかけて取り出していたからなのである。
この空間、超便利!
まあ、時間は止まったりしないみたいなので腐敗には注意が必要だけど……。
残りの機能である、迷宮空間の自分のフィールドっていうやつはまだまったく理解できていない。
発動しようとしても、うんともすんとも言わないのだ。
なので今から試す事にする。
とりあえず誰かに見られては困るので、家の庭の死角となる部分に移動する。
この家は一応は領主の住まいだけあって、大き目の庭と土地を有している。
周りが森で囲まれてた丘の上に建っており、徒歩10分くらいで森を抜けて領内の広場まで着くくらいの道のりだ。
そして家をこっそり抜け出して数分、誰もいないであろう場所まできた。
ここからはシンキングタイムだ。
「うーむ、迷宮空間というくらいだから、どこかに空間をつくらないといけないのかな…?」
全く見当もつかない。
まだオリジンスキル以外の魔法も使えない俺には、無理があったのかもしれない。
シンキングタイム開始から1分…5分…10分…
……そして考えること数十分、あることに気が付いた。
「──あれ? 俺自身を収納でしまったらどうなるんだろう?」
そもそも収納はこのスキルの効果だし、つまりはそういうことなのかもしれない。
なんでこんなことに数十分もかけたんだ。
そして自分自身を収納するように魔力を込めると、あっさりと別の空間に移動できた。
簡単に移動できたのは嬉しいが、考えた時間を思うと悲しくもなる。
「何もない、真っ白な空間……? そして唐突に存在する謎の球体。って、急に球体の目の前まで来た!?」
真っ白な空間には虹色のコアのような球体が浮かんでおり、注意を向けると、そのコアの前まで瞬間移動していた。
どうやらこの空間内では俺の居場所は自由自在らしい、便利だ。
…とりあえずコアっぽいものが怪しいので手を触れると、日本語が立体で表示された。
「謎のVR技術、無駄にハイスペックだなぁ」
書いてある内容を確認すると、だいたいのことが分かった。
まとめると以下の通りだ。
【亜空間迷宮、DP:1000】
└DPを使用して、迷宮の改造とアイテムの購入を行います。初期ボーナス[1000]DP。コアに魔石を吸収させるか、死体を吸収させるとDPが蓄積されます。
【購入一覧】
└土のダンジョン作成:[300]DP
└塔のダンジョン作成:[10000]DP
└石のダンジョン作成:[500]DP
└etc…
【注意】
一度ダンジョンを作成すると、世界のどこかにつながります。攻略されても作り直せばよいですが、DPはなかなか貯まらないので注意しましょう。
つまり、そういうことらしい。
俺にもなにがなんだかわからない、詳しくは聞かないでくれ。
まあ出来るものは出来るんだからしょうがない。
試しに、とりあえず土のダンジョンを選んでみることにした。
【土のダンジョンを制作しますか?yes/no】
「yesっと…… おわっ!」
yesと発言した瞬間、虹色のコアの隣に茶色いコアが出現した。
ビックリさせるなよ迷宮。
その後、ためしにコアに触れると、景色が一瞬にして洞窟の中に移動した。
…なるほど、このコアは転移装置になっているのか。
とりあえず今はやる事もないし放置しよう、明日くらいから色々いじればいいや。
もどるのはたぶん……
自分自身を収納!
「よし、予想通りに真っ白な空間にもどった。で、いつものように取り出す感覚を自分に行えばいいのかな?」
試しにやってみたら、さっきまでシンキングタイムを行っていた森に景色が変わっていた。
このスキルは面白い、ぜひとも今後活用してみようじゃないか。
…なんだかテンションあがってきたぞ。
だがテンションの上がった俺は、だいじな事を見失っていたらしい。
「セリルが急に消えて、急に現れた!!」
「えっ……」
気づくと、そこにレナ姉ちゃんがいた。