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ゼリリン、お説教される



「ぜりっぜりっぜりっ」

「ぜりっ!ぜりっ!ぜりっ!」


まだ夜が明けて間もない朝方、ロックナー家の庭にゼリリンシャウトが響き渡る。

俺の隣には息を切らしたリグが並走しており、なんとか俺のスピードについてきているようだ。


「リグ、もうちょっとペースを上げるよっ」

「はぁ、はぁっ、はいっ!」

「「ぜりっ! ぜりっ! ぜりっ!」」


実は今、トレーニングの最中なんだよね。


魔族を図鑑にコンプリートし、マイホームに帰還してから一ヶ月が経ったのだが、自堕落な生活をしていたら母ちゃんにお説教されてしまったのである。

お説教の内容は過酷で、なんと1時間も続いた。


いつも通り食っては寝て食っては寝てを繰り返していただけなのに、ひどいや。

俺なんて大量に収納してあるキノッピさえ食べてれば強くなれるんだし、ちょっとくらいいいじゃないか。


……なんでも母ちゃんによると、ガールフレンドが居るそばでみっともない姿を晒すなとかなんとか。

それで仕方なく、今日からトレーニングと称した走り込みを行っている訳だ。


ちなみにいくら走ってもゼリー細胞がある俺は全く疲れないので、このトレーニングに意味はない。

息切れしているリグには効果があるみたいなので、全くの無駄ではないけどね。


まあそんなわけで、今日は朝ごはんができるまで庭をグルグル回るつもりだ。

そらっ!

ゼリリンダッシュ!


「ひっ、ひぃいっ! 若、まってくださぃいいいっ」



……20分後。


ランニングを終えて家に戻った俺は、また母ちゃんに説教をくらっていた。

解せぬ。


「あらあら、お母さんは自堕落な生活をやめなさいと言っただけで、リグちゃんを巻き込んで特訓をしなさいと言った覚えはないですよ?」

「はい」

「だいたいあなたには女の子に対するデリカシーというものが……」

「ほむ」

「セリル、ちゃんと聞いてるの?」

「うむ」


母ちゃんの説教がいつまでも続く。

そろそろご飯たべたいな。


「……聞いてないわね」

「うむ…… あだだだっ!?」


適当に相槌を打っていたら、いきなりほっぺたを抓られしまった。

まさか俺が話を聞いていない事がバレてしまったというのか、なんという察知能力。


「お母さま、若……セリル君も反省しているようですし、許してもらえないでしょうか? それに、私はこのくらいなんともないですしっ! 冒険者としていい訓練になりましたっ」

「はぁ…… リグちゃんはうちの子にはもったいないくらい良い子ね……」


なんとか母ちゃんのお説教が収まったようだ。

ないすアシストだリグっ!

やはり持つべきものはパーティメンバーだね。


余談だが、その後に出てきた俺のごはんはちょっとだけ少な目だった。

……解せぬ。



朝ごはんを食べ終わってから少しして、俺とリグは家の近くの森にきていた。

そう、いつもの森である。


「えー、うん。一ヶ月なにもしてなかった訳だけど、そろそろ冒険者活動を再開する事にしたので、お昼ご飯までクローム神聖国に転移するよ」

「はいっ」


家でダラダラしてたら怒られるからね、遊びにいかないと。

パチュル達もそろそろ神聖国に到着してる頃だろうし、ちょうどいいっちゃちょうどいい時期だ。


「それじゃ、収納っ!」


からの、教会のコアへ転移っ!


……そして教会の祭壇に降り立つと、そこにはいつも祈りを捧げていた聖女さんが居なかった。

ふむ、何か用事でもあったのだろうか。


すると、少し離れた場所で祈りを捧げていたおじさんが声をかけてきた。

なんか教会の服にしては装飾過多だし、お偉いさんだろうか。


「おぉ、おかえりなさいませ勇者様」

「やぁ。今日は聖女さんは居ないの?」

「聖女レイラは王からの呼び出しを受け、つい先ほど王城に向かったところです。それと、勇者様に宛てた伝言を授かっております」


ふむ、王からの呼び出しとな。

というかあの聖女さんレイラって名前だったのか。

それに伝言ってなんだろ、まったくもって見当がつかない。


「伝言ですが、まずはリジューン王国公爵家令嬢のパチュル様から。えー、<あんたどこにいんのよ、せっかく私が会いに来てやったんだから、さっさと姿を現しなさいっ!> ……だそうです」

「えっ」

「えっ!?」


やはりパチュルは既に到着していたらしい。

というかまずは、ってなんだ。

次があるとでもいうのだろうか。


あとリグ、なんでお前が驚くんだ。


「次は第一王女キャミィ様からです。<ふふふ、まさかセリル様がパチュルと知り合いだとは思いませんでしたわ。それに彼女の指にはめられた指輪、まさかとは思いますが、セリル様がお贈りになったものではありませんよね? うふふふふ> ……だそうです」

「あっ」

「えぇぇっ!?」


パチュルの指輪ってもしかしてアレかな、3歳の時に人攫いから逃げる時に渡した<疾風の指輪>かな。

もちろん俺が贈ったといえばそうなんだけど、キャミィからは別のニュアンスが感じ取れる。

はて……?


それとリグ、なんで涙目になってるんだ。


「そして最後に王からの伝言です。<セリルよ、一度王城に来てくれんか。キャミィの奴がパチュル嬢と喧嘩してピリピリしておるのだ。なるべく早く来てくれ、いやまじで> ……だそうです」

「おぉぅ……」

「(ぷるぷるぷるぷる)」


なんと俺もご招待されていたらしい。

ふむ、じゃあちょっくら行くとしようかな。


王に新しい勇者の紹介もしなくちゃいけないし、ちょうどいいっちゃちょうどいい。

既に王都クロムのギルドマスターから連絡は受けていると思うけど、自分の口から伝えたほうが信ぴょう性がでるしね。


そして俺は真っ赤な顔で肩を震わせているリグを引き連れ、王城へと向かった。

なにをそんなに怒ってらっしゃるのだリグさん、落ち着きたまえ。


あっ、睨まないでくださいなんか怖いです。

あっ、抓るのもなしでっ!


「若のばかっ」

「……解せぬ」



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