ゼリリン、ホームシックになる
ドワーフのおっさんに連れられ、ギルドマスター室までやってきた。
「で、単刀直入に聞くが、お前さん勇者だろ」
やっぱり勇者関連の事だったようだ。
別にバレても構わないので正直に答えておこうかな。
「そうだよ。一ヶ月前に召喚されちゃった」
「やはり情報通りだったという訳じゃな。王から直接聞いた時は頭がイカれちまったんじゃないかと思ったが、こうして実際にみればお前の異常さがよくわかる。どうみてもタダ者じゃないのぉ」
「ふふんっ」
俺が答えると、なぜかリグが胸を張った。
誇らしげにしているところ悪いけど、リグも道づれにさせてもらうからね。
「で、僕の勇者としての力を使って鑑定したところ、隣にいるリグも勇者であることが分かったんだよ。ただ、召喚された勇者とは違うみたいだけどね」
「ふふん…… えっ!?」
ふっ、驚いているところ悪いけど、まだまだここからが本番だ。
リグよ、恐れおののけ!
「その嬢ちゃんが勇者だと? 確かにその歳にしては異常な強さだが、感じる圧力はお前さんほどじゃない」
「鑑定で判別できるから、間違いないよ。たぶんずっと前に召喚されたタクマ・サトウさんの子孫かなにかじゃないかな? もしくは、別の勇者の子孫。その証拠にほら、リグの髪の毛は黒いでしょ?」
もちろん全て大嘘である。
黒髪は珍しいけど全くいないわけじゃないし、オリジンスキルも勇者関連でなく英雄の血だ。
それに強力なオリジンスキルがある以上は、リグが力不足として認識されることは無いだろう。
ぶっちゃけこんなの称号の問題だし、強ければだいたいオッケーなのである。
なぜなら俺がそもそも勇者じゃないからだ。
さあリグよ、俺の代わりに表立ってくれたまえ。
「う、ううむ…… 確かに勇者に関する文献が少ないとはいえ、いままで召喚されてきた者は全員が黒髪だったと聞く。そしてその歳に似合わぬ強さと、お前さんの証言。間違いないのかもしれんなぁ」
「そうそう、そういう事だよ」
「えっ!? えぇっ?!」
ゼリリンフェイクが決まったぜ。
その後話した内容によると、俺のデタラメな証言は納得できる内容だったらしく、あとで王に報告するとのことであった。
そして俺たちのギルドカードの更新もすぐに行われ、FランクだったカードがCランクまで上がったようだ。
本来なら、勇者としてすぐにでも見合ったランクに引き上げたいらしいのだが、そうもいかないらしい。
俺たちの肩書というのはまだ国が正式に発表したものではないらしく、各地の首脳陣にしか伝わってない内容なのだ。
まだ召喚されたばかりで力がなく、これから育成しなくてはいけない勇者を発表するのは悪手だと考えたとの事。
魔王に知られたら絶対に動きがあるだろうからって事らしいけど、どうなんだろうね。
だって聖女さんには魔王城で戦ってきたとか言っちゃったし、すでに手遅れじゃないかな。
まあ魔王城っていっても自分のダンジョンだし、本当のことではないんだけども。
ちなみに魔族たちが村を占拠してた理由は、この周辺で勇者が誕生したことを感づかれたからかもしれないと言っていた。
で、しらみつぶしに俺を探していたのではないかって事らしいね。
結局バレてるんかい。
というか、この大陸の魔王とやらは人様に迷惑をかけすぎだ。
いずれ会ったら説教してやらねばなるまいな。
……そしてそれから数分後、しばらく話し合いをして俺たちは解放された。
うむ、窮屈な話し合いであった、肩こっちゃいそうだよ。
それに魔族もコンプリートしたことだし、そろそろお家に帰りたくなってきた。
まだこっちにきて2日目だけど、もう帰ろっかな。
うん、そうしよう。
「リグ、僕ちょっとホームシックになってきたから、家に帰るね」
「はい。ということは、これから孤児院ですか?」
「いや、別大陸に転移して、自分の家にかえる」
「……え」
別大陸に転移すると言った瞬間、リグがこの世の終わりかのような顔をしだした。
いや、そんな顔で見られても困るよ。
あ、また泣き出しちゃった。
うーん、これは困った。
「はー、しょうがないなぁ。じゃぁ、リグも僕の家くる? 田舎だから遊ぶとこないけど」
「行きまづ!! 行かせでぐだざい! ……うぅ、ぐすっ」
「母ちゃんが家で遊ぶのダメっていったら泊まれないからね、そこだけ宜しく」
まったく、手のかかるパーティメンバーだ。
その後亜空間迷宮に転移した俺は、レナ姉ちゃん達と入試を受けた王都へと戻った。
こりゃあ帰りは竜車じゃなくてわんわんだな、2人分のタクシー代金とか払いたくないしね。
帰ってる途中で夜になったら孤児院で休めばいいし、別にわんわんでかえっても問題はない。
というか、わんわんのほうが早いんだよね。
それじゃ、我が家へ向けて出発だっ!
レッツゴーわんわん。
◇
……1週間後。
わんわんに乗って猛スピードで駆け抜けていたら、やっぱり予想以上に早く到着してしまった。
D級魔物の亜竜とは格が違うね、さすがA級魔物だ。
それにしても母ちゃんたち元気にしてるかな。
というかリグの事なんて言おうか、まじでどうしよう。
ま、家がダメだったら領内の宿屋でいいか。
魔族討伐の報酬は二人で山分けしたし、金銭面では何の問題もないや。
「母ちゃん、父ちゃんただいまー」
「あらあら、お帰りセリル。試験はどうだったの?」
「姉ちゃんと一緒に特待生になってきた。楽勝だったかな」
「あらあら! よくやったわっ! さすが私の息子ね。……で、そちらの子はどなたかしら?」
リグを見たとたん、母ちゃんの目が鋭くなった。
やっぱりお泊りは無理かな。
「はいっ! お、俺はっ! あっ、私はセリル様のお傍にお仕えする……」
「この子は帰るときに会った冒険者だよっ! 同じ竜車の護衛で、仲良くなったから連れてきたんだ」
リグが危ない内容を口走り始めたので、焦って言葉を被せた。
募集してるのはパーティメンバーなのに、何度説明しても部下という立場を譲ろうとしないのだ。
困ったものである。
「あらあら、セリルにもとうとうガールフレンドが出来たのね。うふふ」
母ちゃんが勘違いしだした。




