ゼリリン、スライムっぽい力を手にする
亜空間迷宮に戻った俺の頭に、ダンジョンバトルの時のようなアナウンスが流れてきた。
『魔王ゼリリンのオリジンスキル、ゼリー細胞再生の熟練度が一定まで到達しました。ゼリー細胞再生がゼリー細胞再生Lv2へと進化しました』
ほう、ゼリー細胞の進化とな。
スキルに進化があるなんて知らなかったけど、これは僥倖。
おそらく、美魔女さんから多大なダメージを受けスキルを酷使したことが原因だろうな。
さっそく自分を鑑定してみよう。
【魔王ゼリリン】
成長標準:
生命力:SSS/魔力:SS/筋力:B/敏捷:B/対魔力:S
オリジンスキル:
食いしん坊/ゼリー細胞再生Lv2/迷宮空間
ゼリー細胞再生Lv2
└Lv1効果:魔力が残っていれば任意で自己再生できる。
└Lv2効果:ゼリー細胞を自由に動かし、ある程度の変身ができる。
おおっ、なんか変身できるようになった。
ドッペルゲンガーとまではいかなくても、自分の体を自由な形にできるのは凄いな……
ちょっと試してみよう。
「それっ! ゼリリンパンチ!」
スキルを発動しつつパンチを繰り出すと、腕がゴムのように伸びた。
なんという柔軟性、これぞスライムだ。
そしてその後の試行錯誤によると、スライムレベルで体を溶かして水たまりのようにもなれるし、ある程度形を維持して伸縮させることもできた。
もうこれ人間じゃないな……
あっ、そもそも魔王だった。
「まあ便利ならなんでもいいや。スキルを使わなければいつも通りだしね。それよりも今は土の迷宮だ」
現在はまだ土の迷宮のコアが残っている状態だが、はて?
コアを破壊しないのだろうか。
ちょっと覗いてみよう。
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ギルドマスター視点。
「ドッペルゲンガーを一撃とは、相変わらずの威力だなギルマス」
「……ふむ」
「ドッペルゲンガーがいなくなったなら、次はあのクソったれなコアね…… 粉々にしてあげる」
「まぁ、少し待ちたまえパチュル」
私は記憶の大迷宮のダンジョンマスターに最上位魔法を命中させ、その存在を文字通り消し飛ばした。
セリル君の姿をしたドッペルゲンガーが相手ではあったが、さすがにこちらはA級冒険者が二人、負ける道理はない。
いくら賢者の孫といえどまだ5歳、魔法が封じられた彼では打つ手などなかっただろう。
それでも身体能力はCランク冒険者に匹敵し、仮にもA級剣士の攻撃をよけきる技術には舌を巻いたがね。
セリル君がここまで強いとは思っていなかったが、賢者の孫ともなれば納得できなくもない。
そう、納得できなくはないのだが、私は少しの疑問を覚えていた。
それは「なぜ魔法の使えないセリル君に、ドッペルゲンガーが擬態したままだったのか」ということだ。
そもそもの発端として、ギルドにダンジョンの発生報告があったときはCランクレベルだったという話だった。
まずは調査として、発生したばかりのダンジョン調査を命じたDランク冒険者のパーティを送り出したのだが、結果は未帰還。
その後もCランク以下の冒険者を何度か送りだすが結果は同じ。
これは明らかな異常事態であった。
最終的に調査から戻ってこれたのはBランクパーティの一人だけで、発生した時期を考えても明らかな過剰戦力である。
しかも報告内容には脅威度Aランクの魔物であるサタンフェンリルがボスとして確認されたというのだ。
意味が分からない。
それからはその脅威へ即座に対応すべく、元Aランク冒険者の私と、ちょうど依頼から帰還してきたソロのA級冒険者とダンジョンを制圧することになった。
途中で薬草採取の依頼をしていたパチュル君がセットでくっついてきてしまったのは予想外だったが……
そして1層から2層、3層へと降りていき、ダンジョンマスターと鉢合わせする事になったのだが、そこにいたのはサタンフェンリルではなくセリル君だったのだ。
この時点でダンジョンマスターがドッペルゲンガーである事が推測できたのだが、なぜサタンフェンリルのまま戦わなかったのかがわからない。
ドッペルゲンガーが召喚獣ではなく、セリル君で戦わなければならなかった理由……
考えられる理由があるとすれば、それはセリル君のスキルを手に入れるためであったのだろう。
賢者の孫であるならば、何かしらのオリジンスキルを獲得していてもおかしくはない。
おそらく、ドッペルゲンガーの擬態でそのスキルを掌握し、なにかを始めようとしていたに違いない。
魔王の行動が活発になってきた今、その眷属である魔物や魔族の動きに変化がみられる。
この迷宮とドッペルゲンガーは魔王の計画の一端で、人為的に急成長させられたなにかしらの拠点と考えればつじつまが合う。
以上のことから、この魔王の動きという情報と、セリル君が一人でダンジョンに挑んだという情報。
そして最近耳にした、勇者が生まれたという情報。
これらを総合し、私はある一つの答えを導きだした。
それは、セリル君が賢者の孫などではなく、勇者そのものだったということだ。
「ふむ、そういうことか。ならば、彼はこんなところで死ぬはずがない」
「なんだよギルマス、何かわかったのか?」
「いや、あくまで可能性だがセリル君の正体わかったよ。おそらく彼は、勇者だ。そして過去の勇者の文献には、時空魔法の使用が確認されている。となれば、彼が死んでいる可能性は限りなく低い」
「はぁ!? 勇者だぁ!?」
そう、時空魔法。
転移やアイテムボックスなどを使いこなす、勇者のみに許された超魔法だ。
それを使いこなしているとなれば、死ぬ前に逃げることはたやすい。
「あぁ! そ、そうよ! あいつは私から逃げる時に、いつも突然目の前から消えてたわっ!」
「やはりな。そうであるなら、彼は死ぬ間際に転移して逃げている可能性が高い」
「ふ、ふふ、ふふふふふふ。 そうなのね、 やっぱり、やっぱりあいつがこんな所で死ぬ訳がなかった。そうと分かれば、もうこんなコアには用はないわ。ていっ!」
「あっ! ちょっとまちたまえっ! あぁ、遅かったか……」
せっかくコアを持ち帰ろうと思ったのに、またパチュル君に破壊されてしまった。
まぁ、彼が生きていると分かっただけでも良しとしよう。
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ふむ、なんか俺が勇者ということにされていた。
過去の勇者が時空魔法を使えたとかなんとかいっていたが、俺はまだそんな魔法は覚えてないんだけどね。
ま、いいか。
それにしてもパチュルがコアを破壊したということは、またなにかしらのスキルが付与されたという事なのかもしれない。
あの幼女がさらに強くなってるとか、考えるだけでも恐ろしい。
次会ったら鑑定しとこ。




