表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/164

ゼリリン、すっぽんぽんになる



「どういうこと……? なんであんたがこの迷宮にいるのよ? あっ! もしかしてもうボス倒しちゃったのね!? そうならそうと……」


俺の姿を見たパチュルが混乱しているようだ。

迷宮の主と言ったのだが、それさえも頭に入ってないらしい。

今も延々と言い訳らしき言葉を紡ぎ、なんとか現実逃避しようとしている。

よっぽど俺が迷宮の主であるということを受け入れられないらしい。


すると混乱している彼女をよそに、美魔女さんが俺の分析を始めた。


「やめたまえパチュル。彼は確かにセリル君に似ているが、ドッペルゲンガーというのは脅威度Aの魔物だよ。そしてドッペルゲンガーには目に写した存在をコピーして、能力と姿を自分の物にするスキルがある。奴がセリル君の姿をしているということはおそらく、彼はこの迷宮に単独で挑み……そして……」

「まて、それ以上は言っちゃいけねえぞギルマス。……嬢ちゃんの前だろうが」

「…………」


なんだなんだ、俺のしらないところでどんどん話が進んでいくぞ。

まあ、俺がそうなるように仕向けているんだけどね。


美魔女さんの言う通り、ドッペルゲンガーというのはこの世界に実際に存在する脅威度Aの魔物だ。

相手の能力を完全にコピーして自分に上書きするというトンデモ魔物で、ランクの高い冒険者であるほど苦戦するといういやらしい戦法を取る。


おそらく美魔女さん達は、俺が単独でドッペルゲンガーに挑み敗れ、その力を取り込まれたと思っているのだろう。

そうじゃないと、俺の姿をしている理由がないからね。


しかし、これで冒険者を殺したわんわんはドッペルゲンガーが変身した偽物ということになり、本物が神聖国でその姿を見かけとしても罪には問われなくなるだろう。

たぶんね。


「……認めない。認めないわ、そんなの。あいつは最強の魔法使いなんだから、こんな雑魚魔物に負けるはずがない。きっと今頃、キノッピでも食べてお昼寝しているはずだわっ! だからこんなの、わたしは絶対に認めないんだからっ!」


パチュルが咆えた。

その眼からは悔し涙が浮かび、零れ落ちていく。


……そんなにキノッピが欲しかったのか、こんどこっそり分けてあげよう。


「嬢ちゃん……。ああ、そうだな。あのちびっこが簡単にくたばるとは思えねぇ。たとえその確率が1パーセントだったとしても、俺はそっちに賭けるぜ」

「そうだね、我々も緊急事態故に神聖国に向かいそびれたが、今頃は家まで逃げ延び、のんびりしているに違いない。どうにも、彼が死ぬ姿は想像できなくてね」

「当り前よっ! ……だけどその前に、この魔物だけは絶対にぶっとばすわ」


おっ、どうやらやる気になったみたいだ。

剣士さんを皮切りに、パーティが魔力を練り始めた。

っていうか3人の形相がやばい、特にパチュルなんか睨むだけで魔物を呪い殺せそうな顔をしている。

あっ、今ちょっとチビっちゃった……


くそう……

こ、こわくなんてないんだからなっ……

ええい、こうなったらヤケだっ!


「ははははっ! 希望に縋るが良い人間共。 あの少年もなかなかの召喚士だったが、この僕を倒すには一歩及ばなかったようだからね。 君たちにはせいぜい期待しているよ」


ゼリリン迫真の演技である。

一回ラスボスやってみたかったんだよね。


だが、こんな演技をしたのも一応は目的あってのことだ。

なぜなら、あくまでも俺は迷宮のボス、負けたらダンジョンから消失しなくてはいけない。

消えるのは収納で行けるけど、消える瞬間を見られるわけにはいかないのだ。


なので美魔女さんとかに魔法の大技を放ってもらって、その爆発とかに巻き込まれて消えようかなっていうのが俺の作戦なのである。

じゃないと、俺が本物のゼリリンであることがバレてしまう。


「それ以上は口を開かないでくれ迷宮の主よ、頭の血管が切れそうだ。……最上位雷魔法を放つ、それまでの時間稼ぎは頼んだよ二人とも」

「おうっ任せろ!」

「うりゃぁあああっ!」


美魔女さんが詠唱を始めると同時に、前衛の二人が突っ込んできた。

とううか、相変わらず剣士さんの動きはとんでもない迫力だな……


相手が攻撃と防御に特化した戦士だからこそスピードがそれほどでもなく、5歳になった今だからギリギリ回避できるけど、パチュルと二人だとさすがにきつい。


「魔拳! 魔脚っ! 魔掌っ!! どうしたのよドッペルゲンガー、逃げてばかりじゃ私を倒せないわよ! ほら、セリルの魔法を使ってみなさいよ。魔道具までコピーできないあんたの能力じゃ、無理でしょうけどね」


おお、なかなかの分析能力だ。

ここまで素の身体能力だけで相手をしているのは、パチュルの言う通り攻略本まではコピーできないからなのだ。

こうしてドッペルの能力を完全再現することによって、俺が偽物だという根拠を持たせているのである。


俺はボロを出さないゼリリンなのだ。


「二人とも、魔法の準備ができたわ。いったん引きなさい」


どうやら美魔女さんの魔法の準備ができたらしい。

そろそろこの迷宮ともおさらばする時間が迫ってきたな。


「嫌よっ! こいつは私が倒すっ!」

「我儘いうんじゃねぇ嬢ちゃん、強制的にでも下がらせてもらうぞ……」

「ちょっと、放しなさいよっ!」


どうしても自分の力で俺を仕留めようとするパチュルを、剣士さんがその体ごと抱えて下がりだす。

うむ、それでいい。

どうみても美魔女さんの魔力からはヤバイ魔法の匂いしかしないし、人間がくらったらタダでは済まないだろう。


「これで終わりだよドッペルゲンガー、最上位雷魔法【黒雷招来】」


美魔女さんが魔法を唱えた瞬間、俺の周りに極太の黒い雷が降り注いだ。


それにしてもすごい威力だ。

魔法抵抗がSのゼリリン防御をぶち抜き、俺に多大なダメージを与え続けている。

ゼリー細胞は魔力がある限り再生するので死ぬことはないけど、魔法でまともなダメージをくらったのはこれが初めてだな。


いやはや、お見事。


……それじゃ、そろそろ退場しよう。


「ぬわぁああっ! バ、バカナー」


そうして俺は、美魔女さんの雷魔法と共に亜空間迷宮に戻った。


ちなみに次の目的地は教会である。

服が蒸発しちゃったからね、新しい服もらわないと。

今の俺はすっぽんぽんだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ