ゼリリン、かっこいいポーズをとる
体力測定のマッチョ試験官が手招きをしている。
かかってこいと言っているのだろうけど、どうしようかな……
ここで真っすぐ突っ込んでも悪くない結果は得られそうだけど、2人一緒に真正面からだと簡単に受けきられてしまいそうだ。
なにせ相手は元冒険者のBランク、その力はそこらの騎士よりも強い。
ダンジョン付近ではなく、わんわんも居ないことから分が悪いのは明らかだ。
地元でおおっぴらに攻略本を使うのもアレだし、無詠唱も基本的に人族が使える技術ではないので使う気になれない。
ならば、この試験で使えるのはゼリリンパンチとゼリリンキックが基本となるだろう。
ここは俺がマッチョさんをかく乱して、レナ姉ちゃんにアタッカーを任せるのが吉かもしれない。
俺に意識が集中すれば、アサシン・レナの気配を捉えることはできないはずだからね。
そうと決まれば、あとは突っ込むだけだ!
ゼリリンダッシュからの、ゼリリンパンチをお見舞いしてやる!
「おりゃあああっ! ゼリリンダッシュ!」
身体強化を最大限使用しつつの捨て身タックルだ、恐れおののくがいい。
「ぬっ!? なんというスピードだ!? …だが、甘いっ」
5歳児にしてはありえないポテンシャルを発揮した事で、一瞬目が見開き硬直したが、それだけだ。
やはり本物の実力者であるマッチョさんからしたら、対応可能な範疇のようだ。
だがそれはこちらも織り込み済み、本番はここからだ。
くらえっ!
ゼリリンステップ!
「そりゃ! っは! っとう! そらそらそらっ!」
「なにっ!? ……んん?」
アクションを起こした俺に身構えたようだが、どう対応していいのか迷っているようだ。
それもそうだろう、なにせ猛突進してきたスーパー児童が急にブレーキをかけたと思ったら、目の前で反復横飛びを始めたんだからな。
そりゃあどうしていいか分からなくもなる。
だが、それでいい…
奴は既にゼリリンイリュージョンにかかっているのだ。
……そうして俺が神速のゼリリンステップを開始して数秒が経ったころ、いつの間にかマッチョさんの後ろに回り込んでいたレナ姉ちゃんが、その丸太のように太い首に短剣を当てていた。
そう、アサシン・レナの十八番、超越的な気配遮断からの一撃必殺だ。
一瞬でも俺に気を取られたが最後、標的のレナ姉ちゃんが意識から消え、首チョンパである。
短剣を首に当てたところでB級冒険者の防御力を突破できるわけではないが、これは試験。
ひと泡吹かせれば俺たちの勝ちみたいなもんなのだ。
「ゴムレスさん……後ろ、後ろ」
「なっ!? いつの間に回り込んで……!」
おお、ものすごく驚いている。
臨戦態勢をとっていたのはずなのに、いつのまにか首筋に剣を当てられていたら驚きもするけどね。
それも8歳の幼女に。
勝負も決まったことだし、ここはドヤ顔で決め台詞を言わせてもらおう。
「ふぅ…… ゴムレス試験官の敗因は二つ。一つ目はアサシン・レナを侮ったこと。そして二つ目は、相手がこの僕だったことさ」
白い歯を見せてニヤリと笑い、手を額に当ててから、やれやれといった雰囲気を作り出す。
今俺の周りに効果音がつくとしたなら、キラキラッといった具合だろうか。
我ながらにヘイトの溜まるポーズだ。
でも、一度やってみたかったんだよねこれ。
「ぐ、ぬぅぅう…… なかなか言うな小僧。まさかこの俺が、入試を受けに来た子供たちに後れを取るとはな。まあそれでなくとも、5歳児にしてはありえない身体能力に、8歳児にしてはありえない隠密スキルであることは間違いない。お前たちなら合格は間違いないだろうよ、ガハハハハッ!」
「あはははっ! セリル、お姉ちゃんがんばったよー!」
「うん、つかれた」
超高速反復横飛びはちょっと疲れたかな、もう回復してるけどね。
それにしても強敵だったぜマッチョさん、攻撃してこないから安心してたけど、実際はあの大剣が俺を直撃していたと思うとチビりそうだ。
……まあ。直撃しても死ぬことはないが。
そしてその後は実技試験のすべてが終了したとのことだったので、次は筆記試験を行うために校舎の中へ入っていった。
どの科目からかは分からないが、目指すは満点だ。
7歳児が受ける入試でミスとかしたくないからね。
攻略本先生にも試験範囲を教えてもらったし、全問正解以外にありえない。
◇
試験が終わった。
受けた科目は算数に歴史、多少の魔法知識と一般常識。
ぶっちゃけ余裕すぎて、後半は居眠りをしていたくらいだな。
隣の席に座っていたレナ姉ちゃんも違う意味で居眠りをしていたようだけど、実技試験であれだけの高得点を叩き出せば、特待生は間違いないだろう。
結果発表は夕方に行われるとのことだったので、しばらく休憩所でダラダラしたら発表掲示板に向かおうと思う。
それにしても、休憩所でぐっすり寝てるな姉ちゃん……
よだれを垂らして、きもちよさそうだ。
ほっぺたぷにぷに、つんつん。
「むにゅむにゅ…… セリル……ゼリルン……」
ふむ、夢の中では俺とゼリリンが出演しているらしい。
どっちも俺なわけだが、まあ夢ならなんでもありだ。
異世界転生してしばらく経ったが、どの世界も平和というのはいいものだ。
合格発表を確認したら魔族をコンプリートしに行く予定だが、たまにはこういうダラダラした日も悪くない。
……いや、いつもダラダラしてたわ。
 




