ゼリリン、指名依頼を受ける
「ふむ、そこらへんに、か…いや、君たちに何も非があるわけではないのだが、この<レジェンダリーフ>という薬草は高い魔法耐性を持った人間にしか姿が見えないのだよ。普段は普通の雑草と見分けがつかず、採取されるまでは常に微弱な幻影を見せ続けているんだ」
「ほむほむ…ほむ…」
「どれくらい高い耐性が必要かというと…そうだね、およそ魔法特化のS級冒険者がもつレベルの対魔力が必要になる」
「ぶはっ!!」
やばい、対魔力Sって完全にゼリリンのステータスじゃないか。
驚いてお茶と一緒にお菓子を吹き出しちゃったよ。
「そして君たちが採取してきたこの薬草はまぎれもなく本物。…つまり、君の対魔力はS級ということになるんだ。私はそこのところが少々気になってね」
「ほっ…なんだ、悪いことしたわけじゃないのね」
むしろなぜ悪いことをしたと思ったのか…
お嬢様の思考回路は謎である。
「はははっ!悪いも何も、この薬草を採取してきてくれる事自体は大歓迎だよ。ただ、いきなり100枚となると市場が混乱してしまう。査定額はきちんと払うが、申し訳ないが表向きは<サラリーフ>と言い間違えたで済ませてもらう。これは君たちのためでもあるんだ…」
「ふふんっ!名誉なんて気にしないわっ。私のパートナーは最強の魔法使いなんだから、ランクや名声なんてあとからついてくるもの!」
「僕はそれで構わないよ」
おそらく、レジェンダリーフを大量に入手できる冒険者なんてことになると、いろいろとややこしい事に巻き込まれたりするんだろう。
パチュルは公爵家だから権力はそこまで通用しないだろうけど、俺は出身地不明の見習い商人だ。
いざこざに巻き込まれないようにする、ギルドマスターなりの配慮だと思われる。
「ははは!…君たちが賢い者たちでよかったよ。名誉にがめつい大人の冒険者たちにも見習ってもらいたいものだ」
「当然よ!」
うんうん、何事もなく収まってよかったよかった。
俺の対魔力はバレちゃったけどね。
その後に聞いた話だと、パチュルは今回の件でギルドランクEからDに昇格するとのこと。
元々ゴブリンなんかも単独で狩れる上に、表向き依頼を連続10回成功させたことによる正当な評価だそうだ。
そしてついでに、俺のギルドカードも作ってもらえないか頼んでみたところ、Fランクスタートの冒険者としてすぐに登録してくれた。
Fランクは荷物運びなんかの雑用がメインらしいけど、まあどこの国でも使える身分証明と思えば使い勝手はいいと思う。
ちなみに、今回の薬草クエストの報酬は依頼を受けたパチュルにすべての金額が支払われる。
まあ当たり前だね、俺は依頼を受けてないんだし。
「よし、それでは本題に入ろうか」
「え、まだ何かあるの?」
「きっと私たちを見込んで、伝説のアイテムをくれるのよ!」
…絶対違うと思うよ。
「いや、ここに呼んだ理由は薬草の件を含め2つあったんだ。もっとも、2つ目の理由は君たちが本当に自力でとってきたのかを見極めてからだったけどね」
なにやら不穏な空気になってきたな。
この魔女エルフさんのことだから、俺たちが不利になるような事は言わないと思うけど。
まあ、いざとなったらわんわんを召喚してパチュルと逃げればいいか。
すると魔女エルフさんはトランプのような絵柄が描かれたカードを取り出し、机にカードを並べ始めた。
占いか何かだろうか?
「…実は最近、近くに迷宮が生まれる兆しがあってね。もう生まれているかもしれないし、これから生まれるのかは分からないが、君たちには護衛つきでその調査を行ってもらいたいのさ」
「迷宮!?」
なん…だと…
ついに土の迷宮の存在がバレてしまったというのか。
だけど、そもそもなんで俺たちなんだ?
いくら対魔力が優れているという証明があったとはいえ、5歳児を連れていく意味がわからない。
「うん、思った通りセリル君はなんで自分がって思っているね。理由はいろいろとあるけど、一番は迷宮の特質だね。基本的に出来たばかりの迷宮というのはまだ土に埋もれていてね、<レジェンダリーフ>同様、準備が整うまでは微弱な幻影を見せて身を隠すことが多いんだよ」
「…ん?」
あれ?俺が土の迷宮を購入したときは最初から洞窟だったけどな…
もしかしたら魔女エルフさんが言っているのは、別の迷宮のことなのかもしれない。
「つまり、僕の対魔力で迷宮を見破ってほしいってこと?」
「そういうことさ、これはギルドマスターからの指名依頼ってことになるね」
「ふむー」
「もちろん受けさせてもらうわっ!くふふ、私たちの冒険が始まるわよセリル!」
えぇ…
なぜか隣のお嬢さんが勝手に依頼を受けてしまった。
まだ受けるかどうか悩んでるところだったのに…
まあ、俺以外の迷宮も気になるからどっちにしろ受けてたと思うけど。
「うーん、失敗したらどうなるの?あと日帰りじゃないと僕は参加できないよ…?」
あんまり遅くなると、母ちゃんに怒られちゃうからね。
「いや、このクエストに失敗はない。強いて言うなら、調査に向かい帰ってきた時点で依頼成功だ。いくら高位の対魔力があっても、どこにあるか分からない迷宮だからね…調査すること自体が目的なのさ。もちろん君たちの立場も考慮しよう」
なるほど、そういうことなら受けてもいいかな。
そして色々と話し込んだ結果、身元不明の俺はまた明日来るように言い渡されて解散となった。
主に依頼を受けるのは俺だけでよかったみたいだが、パチュルもパーティを組んで活動したいと言い出してしまったので同席することになったようだ。
にぎやかな方が楽しいからね、これでいいと思うよ。
知られざる公爵家の警護とギルドの護衛が居る以上、別に危険な事はないと思うし。




