ゼリリン、誘拐犯を見つける
魔王城から持ち帰ったと言われているダンジョンコアの持ち主になり、教会の信者たちに勇者認定されてから3時間程が経った。
現在の俺は教会から王城へと場所を移し、謁見の間で偉そうなおじさんの話をてきとうに聞き流している。
どうやら聖女様は結構な権力の持ち主だったらしく、彼女が「勇者が召喚されました」と国に伝えればたちまち大騒ぎになるようなのだ。
聖女の言葉は騎士へ、大臣へ、王へと伝わり、気づけば既に収拾がつかないくらいの事態になっていた。
5歳児相手にてんやわんやだな、ごくろうな事である。
ちなみに、相手の見た目は赤いマントに金の王冠をつけた、これぞ王って感じの貫禄があるおじさんだ。
歳は30歳前半だろうか、意外と若いな。
まだまだ現役と言った感じだ。
…それにしても話が長い、そろそろお昼寝したくなってきたぞ。
というか、もう立ったまま寝てる。
「…という訳なのだ。故に、そなたが勇者である以上は王城で訓練を積み、魔王との決戦の日に備えて力を蓄えてほしい。どうだ、了承できるか?」
「…んあ?…あ、うん。いいよ」
やばい、何も聞いてなかった。
てきとうに返事しちゃったけど大丈夫かな。
「よし、それでは決まりだ。勇者を客室へ案内しろ」
「「はっ!!」」
「…ぬ?」
おわっ、なんだなんだ!?
話を了承したとたん騎士が一斉に動き出したぞ。
何人かの騎士は俺の傍にくっついて離れないし、手には鍵のような物まである。
いったい俺をどこへつれていくつもりなんだ…
…あっ!わかったぞ。
まさかとは思ったが、俺を捕まえて牢へと入れるつもりなのか!?
やけに話が長いと思っていたが、これは準備を整えるための罠だったんだな。
日本では勇者の力を手に入れるために、召喚者を牢獄へ陥れて奴隷にするっていう小説も読んだ事があるし、きっとこれもそういう事なのだろう。
まったく、してやられたぜ…
まあだが、そう簡単につかまると思ったら大間違いだ。
キノッピの力と魔王種の力、さらには忍者さんとの修行で鍛えたパワーをみるがいい。
秘技、ゼリリンダッシュッ!
「…むっ!?急にどうしたというのだ勇者よっ!……はっ!?まさか、どこかに危機が迫っているのか?……いや、きっとそうに違いない、過去にいた勇者も魔族の気配には敏感だったと文献にはあったはず」
「王よっ!ここはひとまず城の警備を固めなくては」
「うむ、この城の全騎士達に告ぐ、ただちに警戒態勢をしくのだっ!そして勇者を…いや、たった一人で立ち向かいに行った、勇気ある少年を助けてやってくれ!」
「「「はっ!!」」」
◇
城の内部をぐねぐねと、右へ左へと曲がり続けながら騎士を撒くことしばらく、ようやく完全に逃げ切れたようだ。
まったく、しつこい奴らだったぜ。
ちなみに現在は薄暗い物置のような場所に隠れていて、ほとぼりが冷めたら脱出する予定である。
収納を使ってもいいけど、それだとここに来るときにまた教会に出るので意味がない。
なんとかして彼らとの和平を結ばなくては。
…ゼリリンは平和な種族なんだよ。
「それにしても物置か、なにか戦利品とかないかなぁ」
ゴソゴソっと…
ダメだ、厨房の調理器具とか使い古した家具とかしかない。
本当にただの物置だったようだ。
俺の勘はここに何かがあると告げているんだけど、無い物はしょうがないな。
「とりあえず一休みしよう、よいしょっと……ぬわぁぁっ!?」
そして一段落しようと近くの壁にもたれかかった瞬間、そのまま壁が動き後ろに倒れ込んでしまった。
ま、まさかこれ回転扉か!?
さすが中世の王城、なんでもありである。
「ふー、びっくりした。……おや?」
「……よくここが分かったな、人間。だが、お前のようなガキ1人で何ができる?」
「ムーッ!ムーッ!!」
回転扉の先には、蝙蝠のような翼を生やした人間と、ドレスを着た少女がいた。
少女は縄で縛られ、布で口を塞がれているようだ。
もしかしてこれ、誘拐なのでは。
…いや、もしかしなくても誘拐だわ。
だがこれはチャンスだぞ、ここでこの女の子を助け出して彼を王に差し出せば、和平が可決されるかもしれない。
…うん、いける、いけるぞっ!
さっそく作戦を実行に移そう。
「あの、誘拐犯さん。その女の子怖がってますよ?」
いくら相手が犯罪者とはいえ、まずは会話からだ。
主に油断を誘う目的で。
「クククッ!能天気なガキだ。まあだが、見られた以上は殺すしかないよなぁ?…闇魔法・デススピアー!」
「ぐわーっ!」
ドサッ…
「ムーッ!?」
「ハハハッ!一撃で死にやがった、人間は本当に脆い。いや、俺が強すぎるのか?ハハハッ!」
うむ、見事な死んだふりだ。
完全に相手はこちらの演技に騙され、油断しきっている。
それじゃあいまのうちに仕留めてしまおう。
お相手さんは目に手をあてて高笑いしてるし、こちらのことを見てないからやりたい放題だな。
まずは攻略本召喚、そして鋼の短剣を装備、最後に全力で身体強化をしてっと…
「油断しすぎだよ誘拐犯さん、もう遅いけど」
それ、首をスパッと!
「ハハハッ!!…はっ?」
鋼の短剣で首と胴体を二つに分けると、首がゴトリと落ちてきた。
さすが報酬の短剣、見事な切れ味である。
相手は即死のようだ。
よし、このまま女の子の縄もスパスパーっといきますか。
「さて、犯人も倒したしもう安全かな。立てるかい?」
「は、はい…どうもありがとうございます。って、そんな場合じゃありません!傷をみせてください、いますぐ光魔法で治療しますっ…え、傷跡がない?そんな、ありえない…あなたはいったい…」
「えっと、僕は通りすがりのゼリリンだよ、名前はセリル。なんで傷が無いかは内緒かな」
相手は9歳くらいの女の子のようだが、この年齢で光魔法が使えるとは驚きだ。
魔法特化なのだろうか。
…まあとりあえず、ここでだらだらしてても何にもならないし、一旦外にでるとしようかな。
手土産も出来たし、もう牢屋に入れられることもないだろう。
「セリル…セリル…はい、覚えました。私はクローム神聖国第一王女、キャミィ・クロームです。魔族から危ないところを助けて頂きありがとうございます…ふふっ」
なんだと…
どうやら偶然にも、第一王女を救出してしまったようだ。
それに今倒したのも魔族って言ってたし、本格的に魔王と戦争している地域なのかもしれない。
勇者とかなんとか騒がれているけど、さすがに今のままで魔王を相手にするのは無理だぞ…
どうしよ…
 




