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ゼリリン、お家に帰る

優勝したあとはすぐにエキシビジョンマッチが始まるらしいので、そのまま舞台のそばで待機することになった。

大人の部を見ていた感じだと、相手の選手は大き目の盾と標準的な大きさの片手剣を使うようだ。

全体的な印象として、まさに歴戦の戦士といった風貌の男である。


対してこちらの手札は攻略本で召喚したクロスボウと魔法、そしてダンジョンモンスターのわんわんだ。

相手からすればクロスボウは初見だろうし、まさか俺の影にわんわんが隠れているとも思うまい。

勝機があるとすれば、相手が子供だと思って最初は手加減してくることと、まだ見ぬこちらの力だけ。


純粋な力比べになればまず勝機はない、もし俺が一対一で本気の戦いをすれば、10秒で場外負けになるだろう。

いくらキノッピでパワーアップしても、まだまだ子供なのだ。


「それでは大人の部優勝者と子供の部優勝者のエキシビジョンマッチを始める! 両者舞台の上へ」

「はーい。……よいしょ」

「やっちゃいなさいセリル! あんたならいけるわっ」


あいかわらず根拠のない自信だが、まあ負けるつもりで戦いはしないよ。

勝てるかどうかは分からないけど。


そしてお互いが舞台に上がった時、相手の選手が声をかけてきた。


「やはりお前が子供の部の優勝者になったか。いやな、俺も冒険者になり戦い続ける事でなんとなく分かるようになったんだが、あるんだよ、……オーラってやつがな。身のこなしなんかは素人同然だが、お前には何かがある、そうだろ?」

「…………」


なんだこのおっさん、すごい勘の良さだ。

一瞬ひやっとした。


3歳児が優勝している時点で何かがおかしいのは当たり前なんだけど、このA級冒険者はもっと別の意味で警戒しているようだ。

だが、警戒してはいるものの、何があるかまでは掴めていないようなので良しとする。

奇襲が警戒されているのは少し痛いけどな。


「両者揃ったようだな。……それでは、エキシビジョンマッチ、試合開始!」

「「「うぉぉっ! ちびっこ頑張れぇえ!」」」

「全力でいきなさいセリル!」


どうやら会場は子供の味方のようだ、俺への声援が強い。


「お前には何があるか全く掴めねぇからな、何かする前に決めさせてもらうぞ。ぬぅん!」


おっさんがそう言うと、盾を突き出しこちらに突進してきた。

あんな重装備をしているのにものすごいスピードだ。

子供じゃなくても、普通の人があんなのに衝突したらタダじゃすまないだろうけど、あいにくその攻撃は大人の部で見た。


「出てこいわんわんっ! 俺を乗せて走れ!」

「グルォオオオオン!!」


叫んだ直後、影からわんわんが這い出てきた。

こちらはB級魔物とはいえ、スピード特化のシャドウフェンリルだ。

そのスピードではついてこれまい。


「なん、だとぉ!? まさかお前、その歳で召喚士か!?」

「出たわよセリルの十八番、召喚魔法! いつも何もない空間から魔法で取り出すんだからっ!」


いや、召喚魔法じゃないんだけどね。

まあ勘違いしてる分には都合がいい、こちらの手札を読み違えて負けてほしいものだ。


「こい攻略本っ! からの、クロスボウ召喚、わんわんは氷魔法で迎撃しろ!」

「グルァア!!」


俺がそう言うと、わんわんの魔法の氷柱が雨あられのように選手へ降り注いだ。

さて、おれも追撃っと、クロスボウでピチュンピチュン……

なんかシューティングゲームみたいで、ちょっと楽しい。


「ぬぅぅおおおおっ!! つ、強い!! ぐぉお!」


わんわんの上からの氷柱を盾をかざして防ぐが、代わりにガラ空きになった胴体を、クロスボウの矢が相手に直撃しまくっている。

だが、いくら直撃してもちょっと傷をつけるだけで、大したダメージにはなっていないようだ。

さすがはA級冒険者、おそらく魔法か何かで体を強化しているのだろう。

鎧の部分に当たったところなんて、無傷だ。


そしてわんわんの魔法が途切れ、ついに相手が余裕を取り戻してしまった。


「はぁっ、はぁっ。やるじゃねぇかちびっこ、いまのはちょっとビビったぜ」

「ぬぅ、おっさん強し……」

「ぐるるぅ……」


だが、わんわんが魔法で攻撃し続けてくれている間に、こちらの準備は大体整った。

さあ、かかってくるがよい。


「今度はこちらの番だぜ、『ぐるぉおおおおお!!』」

「おわーっ!?」


おっさんが地面に盾を突き立て大声で叫ぶと、わんわんと俺の動きがものすごく鈍った。

まさかこれ魔法の一種か!?


「はっ、さすがにウォークライ一発じゃ動きを完全に止めることはできねぇか。だが、これで終いだ。ぬぅぅん!」


動きの鈍った俺達に向けて、再び突進してきた。

やばい、ゼリリンピンチ。


「そら、場外へふっとべ!」

「わぁああああっ! ……なーんちゃって」

「……なっ!?」


突進してきた相手の動きが、直撃するいくらか手前で何かに阻まれて動きを止めた。

そして動きを止めたのはなんと…自分の意思だけで自由自在に動く「攻略本」だ。


この攻略本なんと、多種多様な機能だけでなく「絶対に壊れない」特性までもっているらしい。

炎を当てられても燃えないし、剣で切られても破けないのだ。

まさに転生特典、安心と信頼の頑丈さである。


そしてこの時をまっていたと言わんばかりに、準備していた切り札を発動した。


「これが、どちらかが死ぬまで戦う勝負だったら勝ち目はなかったけど。あいにく場外負けなんてルールがあるからね、利用させてもらうよ。くらぇ!」


用意してきた切り札は、この戦いの間にずっと溜めていた魔力による炎の爆発魔法だ。

いくら頑丈でも、吹っ飛んでしまえばどうということは無い。

あばよおっさん、いい勝負だったぜ。


「ば、ばかなぁっ! うぉぉおおっ!!」


おー、すっごい吹っ飛んだ。

観客席すれすれくらいまでいったか、これはホームランだな。


「……ジェリー公爵の代表選手が場外負けのため、勝者、リジューン王国公爵家長女、パチュル・ジェリー!!」

「「「本当に勝ちやがったぁああっ!」」」

「す、すごい! 本当にやったんだわ私! さすがよセリルっ、これで私も冒険者になれるんだわっ! むふふふふふっ」


ふむ、勝負は終わったか。

パチュルも結果を残せてご満悦のようだ、よかったよかった。


……だが悪いな、ここまで来ておいてなんだが、俺はそろそろお昼ごはんの時間なのだ。

早く帰らないと母ちゃんにおこられちゃう。


それじゃまたな、この町のみんな。

またいつか遊びにくるよ。


「パチュル、僕そろそろ帰るね~。じゃ、ばいば~い、収納っ!」

「はぁ!?…ちょ、ちょっと待ち…な…さっ…ッ」


ふむ、また最後に何か言っていたようだが、聞き取れなかった。

すまぬ。


……そしていつもの森へと戻ってきた。



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