ゼリリンがうまれた
「目の前に広がるは大草原、俺の心も大草原」
気がついたら音もなく匂いも感じない、不自然な草原にいた。
俺がなぜここに居るのか、自分でもわからない。
覚えているのは、徹夜で中古のゲームを何本もやっていたことだけ。
たしか最後に遊んだのは種族多様のゲームで、スライムから高位魔族、人種まで幅広く操作できるのが売りのRPGだったはず。
俺が始めようと思ったきっかけも、その多様さ故に多くのプレイスタイルが選べるからだ。
ゲームを始めるにあたって、とてつもなく長い説明の同意項目が何ヵ所かあったが、読まずにすっ飛ばした。
やたらと長いチュートリアルが終わり、いざ本編へ…
というところで意識が遠退き、現在に至る。
何が起こっているのかなど俺にも分からない、まずは責任者を呼んでほしい。
呼んだところで出てくるとは思えないが。
…だが、これが現実でないことは分かる。
もしこれが現実だったら俺にはここが何なのかが分からない。
しかしここが夢と分かったところでどうする事もできず、手持ち無沙汰にしばらく呆然としていると、突然目の前が光り輝いた。
いったいなんだというのか…
…しばらくして光が収まると、そこには机と椅子、キーボードとディスプレイがどこからともなく出現していた。
…意味が分からない。
俺が呼んだのは責任者のはずなんだが…
「だが、考えても仕方ないな」
おそらくこの現状を用意した夢は、ディスプレイを使って何かをさせたいんだろう。
そこでとりあえずディスプレイを覗いてみると、画面には文字が表示されていた。
『あなたの転生特典を選びます、以下の項目から自由選択して下さい』
人種:
①人間/②エルフ/③ドワーフ/④マーメイド/⑤ホビット/⑥天空人/⑦地底人/etc…
魔種:
①スライム/②ゴブリン/③オーガ/④吸血鬼/⑤スケルトン/⑥悪魔/⑥ゾンビ/⑦ドラゴン/etc…
『残り選択権:5』
転生先ってなんだ…
え、俺転生するの?
……ま、まあいい。
するにしろ、しないにしろ、とりあえず選択肢を選ばない事には進めない。
とりあえず一番無難そうな人間を選ぶことにしよう。
すると、人間を選んだ瞬間に選択権が4に減った。
…なるほど、つまり選択権というのは任意で選択できる数なわけか。
どうせ夢なんだし、色々やってみるか。
そして散々いじり倒した結果、謎の種族が生まれたようだ。
種族:人間/スライム/ダンジョンマスター
結果:魔王ゼリリン
なんか可愛い名前の魔王ができた。
選択権は5つだが、選ぶ数が多ければ強くなるという訳でもないらしく、この3つとなった。
詳しくステータスを見てみれば分かるが、パターンには相性というものがあるらしく、ドラゴンや吸血鬼など強そうな素材を選んだからといって必ずよい結果になるわけではないらしいのだ。
最悪1種族のままのほうが強い。
詳しいステータスは以下の通り。
魔王ゼリリン:
メイキングされた謎種族。
姿は人間だが、生態は謎に包まれている。
食べると能力が高まる。
とてもしぶとい。
成長標準:
生命力:SSS/魔力:SS/筋力:B/敏捷:B/対魔力:S
オリジンスキル:
食いしん坊
└食事をすると、たまに強くなる。強化される確率はごくごく僅か。スキルの前提として、胃袋と歯が強化される。
ゼリー細胞再生
└魔力が残っていれば任意で自己再生できる。
迷宮空間
└自分だけのフィールドを作りあげる。どんなフィールドになるかは個人の個性による。迷宮空間にしまっているものは出し入れ可能。
かなり時間がかかったが、なかなかの結果だと思う。
比較としてただの人間を例にあげると、最低能力がEで最高がSSSとしたとき、全能力:Dくらいの貧弱さだ。
オリジンスキルもゼロであることを踏まえると、とてつもない性能だと言える。
「ま、作ったのは良いんだがこれをどうするっていうんだ?」
しばらく眺めていると、画面に決定ボタンがでてきた。
『以上の選択で宜しいですか?』
『yes/no』
yesっと…
そしてパターンの決定を行った瞬間、俺は絶望に包まれた。
『次に、取得スキルと取得装備、最後に親の種族を選んでください』
オリジンスキル、オリジンアイテム:
邪炎/聖炎/無の極地/エクスカリバー/グングニル/魔拳技/神元突破/王者の波動/カリバーン/etc…
親の種族(強制的に1消費、権利が無い場合はランダム):
人間/エルフ/etc…
『残り選択権:2』
「うそ…だろ…」
ここでも選択権が必要とされていたらしい。
本当に、そういうことは先に言ってほしい。
しかし、ここで駄々をこねていても始まらない。
まあここは夢だし、戻るボタンもないのでこのまま選ぶしかないようだ。
というか、魔王ゼリリンが別種族から生まれて大丈夫なのだろうか…
いろいろとガバガバだな、さすが俺の夢。
しかたないので装備品として「攻略本」とかいう、なんか凄そうでそうでも無さそうなやつを適当に選び、最後に親の種族を人間にして選択を終えた。
くっ、涙で前が見えないぜ…
もう攻略本とかやけくそだよ。
そして『転生準備が完了しました、転生を開始します』という表示と共に俺の意識は遠退いていった。
おそらくこの謎の夢から解放されるのだろう。
目覚めたら中古ゲームの続きでもするかな。