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ゼリリン、選手に指名される

町の中へ入るといつもと違い、たくさんの人でごった返していた。

貴族たちがこの町へ訪れるために使用したであろう馬車や、腕自慢の冒険者たちがあちらこちらにいる。

屋台の数も増え、大賑わいのようだ。


「やっぱ公爵家の力はすごい、パチュルも元気にしてるといいな」


いつぞやか出世払いをするといっていたが、公爵家であることを考えればあながち嘘でもない気がする今日のこの頃だ。


……そんな取り留めも無い事を考えながらうろちょろしていると、大量の冒険者たちが出入りする大きな建物に辿り着いた。

おそらくここが冒険者ギルドなのだろう、いままで道具屋にしか寄っていなかったので、訪れるのはこれが初めてだな。

場所は店主に聞いていたけど、来る機会が無かったのだ。


余談だが、この町の冒険者ギルドはウェスタンドアが入口にある3階建てで、1階が受付と酒場となっている。

2階と3階はよくわからないが、おそらく3階は職員用だと思う。

とりあえず受付でお祭りの事を聞いてみよう。


「おねえさーん、今日の大会ってどこでやるの? もう始まっちゃってる?」

「あら?ちっちゃなお客さんね、子供の部の参加者かしら」


……なに!?

このお祭りには子供の部なんていうのもあるのか。

たぶん貴族の子供たちが親の真似をして競い合うんだろう。


「それと、闘技大会ならこの町のコロッセオで行われるわ。今年は予想より参加者が多くてね、待機する冒険者もギルドの施設内におさまらないのよ。もうすぐ始まると思うから、急いだ方がいいわよ?」

「へー。それじゃ走って行かなきゃね。お姉さんありがと、またね~」

「えぇ、また。……って速い!?」


急がなきゃいけないらしいので、身体強化を使ってギルドを飛び出た。

いまの俺はキノッピの大量摂取でパワーアップしており、昔とは比べ物にならない速度になっていると思うのだが、どうなんだろう。

力比べをする相手が欲しいものである。


ちなみにコロッセオの場所は地図を見なくても分かる。

この町のシンボルとも言えるバカでかい闘技場で、ここからでも民家の屋根から飛び出た石造りの建物が、これでもかというくらい主張しているのだ。

いままでは特に用事がなかったので行かなかったが、よくよく考えれば闘技大会なんだからあそこでやるに決まってたな。


そして身体強化を使い続け疾走すること数分、コロッセオへと辿り着いた。

ここまで来る間に馬車を3つほど追い越し、過ぎ去る町の人々から拍手と歓声が沸いたが、あいにく俺は出場者ではない。

そんなに期待をかけても出番はないと思うぞ。


「ふむ、ここがコロッセオか。間近でみるとなおさらデカい」


石造りの建物では観客と選手が入り乱れ、町に入った時以上の大賑わいをみせていた。

屋台なんかも飲食店だけではなく、ポーション類や武器防具類の店が増え、選手たちが使用するであろう商品も増えているようだ。


近くの掲示板によると試合開始はまだ先のようなので、しばらくここでぶらついてよう。

資金もたんまりあるから、めぼしいものがあれば買ってみるのもいいかもしれない。


「……でもやっぱり割高な店が多いな、まあお祭りだからあたりまえか」

「それはそうよ、こういうのはジュヨウ? と、キョウキュウ? なんだってパパがいってたわ!」

「おっ……?」


突然後ろから声をかけられた。

だが、この声どこかで聞いたことあるぞ。


「おっ、じゃないわよバカセリル! なんでいきなり消えたのよっ、あのあとずっと屋敷で待ってたんだから!」

「あだぁっ!?」


5、6歳くらいの女の子から唐突に飛び蹴りが飛んできた。

間違いない、こいつはパチュルだ。


あのボロボロの印象から一変していたので分からなかったが、こんな理不尽なことをするやつは他にいない。

いまはお嬢様らしいドレスを身に着け、長い金髪をドリルヘアーにしているようだ。


「次勝手に居なくなったら承知しないわよ」

「いや~、ごめんごめん。でも無事で良かったよ、メイドさんは捕まったようだね」

「……っ!? なんで、あんたがその事を知ってるのよ、やっぱりあんたは……」


なんかパチュルがもごもご言って考え出した。

よく分からないが、真剣に考えているようなのでそっとしておこう。


あばよ……

元気みたいでよかったぜ。


「って、待ちなさいよ」

「おおぅ……」


さりげなく去ろうとしたが、首根っこをつかまれ捕獲されてしまった。

なかなかの握力だな、将来良い冒険者になるぜお嬢ちゃん。


そして幼女にガッチリ捕獲されていると、豪華な衣装に身を包んだお姉さんが声を掛けてきた。

なんか髪色とかもパチュルに似ているし、まさかお母さんかな?


「こらパチュル、はしたないですよ。いい加減、あなたも公爵家の長女という自覚をもちなさい」

「ママッ! でもセリルはすぐにどっか行くし、捕まえておかないと闘技大会に出場できないの!」

「でもじゃありません」

「あぅ……」


どうやらお母さんで間違いないらしい。

だが、なんで大会に出場する前提みたいな会話になってるんだ……?

そんな約束をした覚えはないんだが。

なにせ、俺はかよわいゼリリンなのだ。


「僕、闘技大会に出場するの?」

「するわよ、あんたが消える時に言ったじゃない」


消える時に言ってたのか、ならしかたあるまい。

俺は約束を守る男なのだ。


「そっか、じゃあ参加しようかな」

「当たり前よ!これは私の執事になる試練と覚悟しなさいっ」


お祭り参加の次は執事になることが決定した。

執事になる気はないんだが。


「いや、執事にはならないよ」

「ダメよ!」


いや、ダメよってお嬢さん…

相変わらずむちゃくちゃな子のようだ。


「ふふふ、2人は仲がいいのね。これからもパチュルのことを宜しくお願いしますね、ちっちゃな英雄さん?」


話を聞いていたパチュルママがウインクをしてきた。

英雄とかなんとか言っているし、おそらくあの日の話を聞いていたのだろう、優しそうなママさんだ。


まあだが、執事の話は断固として拒否するけどな。



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おもしろい!
2025/02/01 23:03 退会済み
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