ゼリリン、学園の七不思議になっていた
──翌日。
世界中を旅するゼリリンが知る、今のところ最高峰の魔法研究者であるルゥルゥを連れて、学校の帰り道までやってきた。
今日は2号を俺の代わりに授業へ参加させ、昨日のこの場所でニィルさんの来訪を待つ予定である。
彼女はまだ朝なので来ていないが、ここらへんでダラダラしていればいずれ来るだろう。
そんな予感がする。
「のう、本当にテイムの魔法陣を知っている者が来るのかの?」
「ふむ、まだ時間かかるかもしれないけど、たぶん来る」
「本当かのう」
「まあもし来なかった時のために、特別にゼリリン流のスライム育成論を教えてあげるから、心配しなくていいよ」
こちらからお願いした事でもあるので、そこらへんのアフターケアはしっかりしている。
俺は取引相手に損をさせないゼリリンなのだ。
それに自分がスライムの一種だから分かるが、スライムの長所を生かす最大の能力配分は魔力の極振りだ。
元々生命力にあふれるスライム種ではあるが、その再生力の源となっているのは魔力なのである。
元々低い筋力や最初から高い耐久を伸ばすのも悪くはないのだが、一般の魔物や人類種に比べて、特殊な器官を持つ細胞というものが存在しない。
どの細胞もだいたい同じ役割をもっているからだ。
その上で、環境だったり特殊な配合をすることで、通常のスライム細胞が変質して、向き不向きのある個性的なスライムとなるのである。
しかしスライム闘技場には絵具を混ぜたカラースライムしか参加資格がないために、個性をつけるとすれば戦略や魔力量などの差が重要となってくるし、何よりもステータスの伸びが悪いのだ。
実際に俺の筋力はまだC級だしね。
「という訳で、魔力が肝心だ」
うむ。
「そこはワシも研究済みじゃ。ワシのスライムは、その辺のカラースライムの3倍は魔力がある」
「ぜりッ!?」
なんと驚いたことに、既に研究済みだったらしい。
そういえば日に日に強くなっているって聞いたな、さすがルゥルゥだ。
この情報は俺だけの秘密だったのに、もう暴いてしまうとは。
「それでもあのリベンジャーズレッドには勝てないのじゃ。あやつ、どうやってあれほどの力を得たのかさっぱり分からぬ……」
「ふむ、やはり連携が大事だったか」
それと、逃げ腰なのがいけないのかもしれない。
スライムは飼い主に似るってことわざがあるけど、これもきっとそうだ。
そしてスライムの育成論や必殺技について語る事数時間、気づけば下校時刻になっていた。
そろそろあの子が来るかな。
「あ、来たよ」
「なぬっ!? どこじゃっ!? ……それらしい人影は見当たらんのう」
ルゥルゥが必死に探すが、見つからない。
まあそれもそうだ、ニィルさんは技術力はすごいけどステータスは普通の人だし、飛びぬけて凄そうには見えないのだ。
見た目はそこらへんの学生と変わらないからね。
「あ、あの……」
「ぬっ、なんじゃ。今は忙しいから他を当たってくれんかの」
「えっと」
本人に声をかけられるが、どうやらルゥルゥはまだ気づかないらしい。
ニィルさんも俺が連れてきたのが魔女の恰好をした幼女なので、かなり戸惑っている。
「やあ、約束通り魔法陣の第一人者を連れてきたよ」
「この女の子が、研究者さんなのですか?」
「そうだぞ」
まあ見た目は変な恰好をしている幼女だが、腕は一流だ。
ピンチになると逃げるけど、研究に関しては信頼してもいい。
「のじゃっ!? このおなごがテイムの魔法陣の手がかりを掴んだ人族なのかえっ!?」
「は、はいっ! どうもニィルです、よろしくお願いします」
「僕はセリル・ロックナーだ、よろしく。あと、彼女はルゥルゥっていうんだ」
「えっ、セ、セリル・ロックナーっ!? え、あの、えっ!! あの天才ルー様と、闇の戦鬼レナ様の弟の、魔王セリルくんっ!? ……さま、ですかっ!?」
ふむ。
Sクラスの授業が終わるとすぐ帰ってしまうので知らなかったが、俺の名は上級生にも伝わっていたようだ。
それにしても俺が魔王であることがバレているとは、やはり王都は侮れない。
でもこうして普通に学校生活をエンジョイできているところを見るに、悪いゼリリンだとは思われていないようだ。
これは俺の努力の賜物だな、キノッピでワイロを積んだ甲斐があった。
「なんじゃチビっ子、魔王だとバレているのか?」
「どうやらそうらしい」
ついに俺も、勇者の名を借りずに有名になってしまったか。
個人的には将来ビッグになりたいので、この件に関しては悪いことではないだろう。
「はい、魔王セリル様といえば、たとえ王族の方であっても簡単には手を出せない、学園の七不思議とされる最謎の一年生です。 7歳にして最上級の火魔法を扱えると噂されていますし、なにより帰宅を目撃した者が居ないのが恐ろしいです」
それは家まで2号を走らせるのが面倒なので、途中で分身を消していただけだったりする。
まあ、見つかったことが無いなら良い事だ。
「でも、最上級の火魔法ってなんだろう」
「ほれ、お主この前なんとかボムとかっていうの使ってたじゃろ。たぶんあれじゃ」
もしかしてゼリリンボムのことかな?
まあ、別にいいや。
そもそも火魔法のスキルにはレベルとかはないので、きっと魔法スキルが使えない人族における呪文の階級みたいなものだろう。
ちなみに、魔法スキルがなくても複雑な呪文で魔法は発動できる。
俺はめんどくさいので一つも覚えていないけどね。
「そ、それにロックナー家といえば、男爵家ながらもペット用スライムの生産で一躍有名になった、王都でも知らぬ者が居ない一流貴族ですよ! 闇の戦鬼レナ様は学園内無敵のアサシンですし、天才ルー様は優しいですし、か、カッコいいですっ! 学校でも雲の上のような存在で……、ごにょごにょ」
「なるほど」
どうやらルー兄ちゃんの事が好きらしい。
これは弟として応援せざるを得ないが、今はテイムだ。
兄ちゃんの恋路に関しては、あとでこっそりアシストしておこう。
「して、テイムの方はいかほどに」
「ごにょごにょ……、そしてルー様は、ごにょごにょ」
「あの……」
「はうわぁああっ! ……えへへ」
だめだこりゃ。




