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ゼリリン、脱走する

盗賊たちに捕まり、無事倉庫に放り込まれた俺は出世払いことパチュルの話を聞いていた。

何事もまずは会話からだ、暴力反対。


「ふむふむ。つまりポーションを買おうとしていたのは、将来冒険者になって一旗あげるための準備だったわけだね」

「……そうよ。私はセイリャクケッコン……? とかいうのでお嫁さんになる気はないの。自分の力で生きて、自分で相手を選ぶわ。そのための一番の近道は、冒険者のSランクになって公爵家と同等の力を手に入れる事なの。って、メイドがいってたわ!」


ほうほう。

つまり公爵家の運命に流されるのではなく、自立して自分の意思で道を切り開いていきたいってことか。

なかなか芯のある、いい夢だ。


だが、一つ気になる事がある。

それはなぜ公爵家の令嬢がこんなところで一人になれているのかというところだ。


これがこの子一人で単独行動した結果とうのであれば、さすがに優秀な使用人たちが気づいてこっそりついてきていてもいいはずなのだ。

使用人といえど公爵家、その優秀さは考えるまでもない。


では、なぜこの子が一人で単独行動出来たかといえば……

おそらく、答えは一つだ。


「それで、そのメイドさんがそのボロボロの服も、抜け出すための手順も整えてくれたの?」

「そうよっ! 私の家の使用人はみんな優秀なんだから! 帰り道だってスラムを通って行けば、パパやママに見つからないで戻れるって教えてくれたんだもの」


やっぱりな、犯人はどう考えてもそのメイドさんだ。

おそらく盗賊達と手を組み、公爵家の令嬢を売り飛ばすことで莫大な資金を稼ごうとしていたのだろう。

考えが透けて見えるな。


……と、なれば話は簡単だ。

この子を親元に届け、今の話を自らの口で語ってもらうまで。

あとのことは、公爵家が簡単に片づけるだろう。


「話はわかったよ。それじゃあさっそく、ここを出ようか」

「出るってどうやって出るのよ、扉には鍵がかかっているのよ?」

「簡単だよ、こうやるんだ」


俺はおもむろに攻略本を出現させ、クロスボウを召喚した。

理由はもちろん、鍵を壊すためだ。


「青銅で出来た柔らかい鍵なんて、鉄の矢で貫通だ」

「ちょ、ちょっとその武器どっから取り出したのよ!? それに本が浮いている!? セリル、魔術師だったの?」

「うーん、いや、通りすがりのゼリリンだよ?」

「ゼリリンって誰よ、あんたセリルでしょ……」


まあどっちも俺だ。

そしてゼロ距離でクロスボウのトリガーを引くと、青銅の鍵は簡単に破壊された。

さすが報酬、物凄い威力だ。


「うそ…… 本当に壊れた……」

「まあ、当然の結果だね。あっ、それとこの指輪あげるよ、逃げるのに便利だから」


そして武器をしまい、疾風の指輪を手渡した。

魔道具の効果で逃げ足を速くしておかないと、俺の身体能力についてこれなさそうなんだよな。


「えっ、これ魔道具じゃない。やっぱり魔術師だったのね」

「いいからいいから、ほら」

「あっ……」


魔術師でもなんでもいいから、早く逃げたいのでこっちから指輪をはめてあげた。

結構大きな音がしたし、悠長なことはしたくないからね。

いくら俺が余裕だといっても、パチュルまで大丈夫だとは限らない。


「それじゃ走るよ、ついてきて」

「うん……」


マップが記載されているページを基に走り出した。

スラムから出たら攻略本は消さなきゃいけないけど、ここでなら大丈夫だろう。



倉庫を脱出して20分ほど、あの道具屋の近くまで戻ってきた。

積み荷の中で揺られているときは30分かかったけど、身軽になって魔道具もつけただけあってなかなかの速度だ。

パチュルの体力だと少しずつ休憩を挟まなければならないが、それでも十分ではある。


「ふぅー、ここまでくれば安心かな?」

「はぁっ、はぁっ…… ほ、本当に逃げ切れちゃった」


まあ人がいる場所といない場所がマップに書いてあるからな、楽勝だよ。


「それじゃあ俺の案内はここまでにして、家に帰るとするかな。もうそろそろお昼寝の時間だし」

「お昼寝って…… こんなことがあったのに、あんた神経図太いわね」

「そうでもないよ。あ、それとこれ捕まったときに積み荷の中で見つけたんだ。君のでしょ?返すよ」


積み荷の中で見つけたのは例の戦利品【高級ポーション(体力)】だ。


どこかで見たことあるなと思っていたんだが、これはあの道具屋でパチュルが受け取ったポーションだったようだ。

取り返しておいてよかったよかった。


「あっ! そのポーション! それに、また急に道具が出てきた。むぅ、やっぱりあんたは私の執事にするわっ! だから今度会ったら家まで案内しなさい!」

「えー、どうしよっかなぁ、僕の家めちゃくちゃ遠いし。まあ、とりあえず今日はもう帰るよ。じゃあね~収納!」

「あっ! ……待ちなさ…ッ…ッ! ……ッ」


去り際に何か言っていたが気にしないことにする、どうせまたどこかで会うだろう。

それに町には衛兵もいたし、来た道を戻るだけなら安全なはずだ。


さすがにスラムにはもう近づかないだろうし、家の付近までたどり着けば顔を知っている使用人から救助されるはずだ。

なにせ公爵家のお嬢様だからな、いまごろ屋敷では大慌てなんだろう。

せいぜいメイドさんが捕まってくれることを祈る。



それにしても今日は疲れた。

帰って昼寝したい、俺の体はまだ子供なのだ。



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