ゼリリン、空中遊泳のコツをつかむ
ズシンと、巨大化の最中だったサムライさんが倒れる。
どうやら2号の爆発によって、完全に気絶させられたようだ。
もし本当にドラゴンになっていたら、ちょっとやばかったかもしれない。
「……ふぅ」
ボディにたらりと流れる汗を手で拭う。
至近距離だからこそなんとかなったが、これがもし正面から戦うことになっていれば、いくら広いといはいっても逃げ場のないこの神殿内部では圧倒的に不利だ。
ぷちっと潰されてしまうだろう。
潰されたくらいではゼリリンに大したダメージにならないとはいえ、防戦一方な展開になるのはよくない。
早めに仕留められてよかったな、不意打ちに成功したのがでかい。
「チビッ子族がっ!? チビッ子族がお父様に勝ちましたよユニッピ!!?」
「きゅぁあ」
「えっ? 当然ですか? そうですか、そうかもしれませんね」
オーシャルちゃんとユニッピも今の戦いを見ていたらしい。
ゼリリンの活躍を間近で見られるとは、ちょっと照れる。
だが今は戦闘中なので、ちゃんと真面目な顔をして戦うとしよう。
「それではリグの援護に回るかな、……むっ?」
ふとリグの方を見ると、王妃さんと激戦を繰り広げているのが目に映った。
しかし王妃さんの方は完全防御を施され無敵になったリグの猛攻を、涼しい顔で受け流しているようだ。
魔法に強い相手は物理攻撃に弱いっていうゼリリンルールが適用されないなんて、ちょっと想定外だな。
「……うーむ、ぜりっ!!」
とりあえずビームでけん制してみる。
「ぬぐぅ、目障りなビームじゃのっ!? というかあの戦闘バカめっ、油断しおったなっ!?」
「当り前です、若が負けるはずがありませんっ! はぁぁっ!!」
「ぜりぜりぜりぜりっ!!」
作戦を練る時間を稼ぐために、とりあえずビームでけん制を続けるが効果は薄い。
手に持っていた扇子のような装備で全て受け流されてしまうのだ。
もしかしたらリグの攻撃もあの装備で受け流していたのかもしれないな。
まずは、あれをどうにかしなければならない。
とりあえず手数を増やすために2号も混ぜて攻撃だ。
「ぜりぜりぜりっ」
『ぜりぜりっ』
ちまちまとビームでつつく。
「ああああ、このチビうっとおしいわっ!! 芭蕉扇っ!!」
「ぬわぁぁああああっ!?」
『ぬわぁぁああっ!!』
「若ぁっ!? ……お、おのれぇぇえええっ!!!」
なんだ!?
けん制を続けていると、急に扇子から竜巻が起こって空中へと舞い上げられてしまった。
まさかあれは防御用の盾装備ではなく、魔道具の類だったのだろうか。
いや、きっとそうだ。
そして芭蕉扇により巻き上げられた俺はグルグルと空中を舞い続け、竜巻が収まり落ちそうになったころで、また同じ攻撃で巻き上げられるループに陥った。
ちょっと楽しい。
それに少しだけ空中遊泳のコツもつかめてきたぞ。
姿勢が安定したので、さらに激しくなったリグの猛攻がよく見える。
「ぬわー」
『ぬわっ』
「なっ!? 空中でバランスを保ち始めたっ!?」
うむ。
相変わらず空中でグルグルしているが、ちゃんと姿勢を正しながら遊泳できている。
問題はここからどうするかだ。
今のままだと、浮かんでいるだけで終わりそうである。
相手の魔力切れを待つのもいいけど、それでは芸がないしね。
「うーむ、せやっ!!」
ダークオーラを使って脱出しよう。
このスキルは魔力を直接触って加工できたりする力があるので、竜巻の風に触る事が出来なくても、そこに流れる魔力に触れることはできる。
なので全身にダークオーラを纏えば、その魔力を少しだけコントロールする事が出来るのだ。
具体的にはどうするかというと、周囲の勢いを王妃さんの方角へと流れるように調整し、竜巻から射出されるように飛び出る。
ゼリリンスーパータックルだ。
よし、やるぞっ!!
「ゼリラァアアアアッ!!!」
『ゼリラァアアッ!!』
「な、なんっ!? ……ぐべぇっ!!」
勢いよく射出されたゼリリンの弾丸は、2号と共に王妃さんへと突撃し見事なタックルを決めた。
俺が行動不能になったと思い、完全に油断していたな。
サムライさんに続き油断の多い人たちだ。
ついでだからこのまま自爆を決めてしまおう。
あとは任せたぞ2号。
『ぜりっ(笑)』
「ちょ、ちょっとまっ──」
──ピカッ!
タックルと同時に王妃さんに抱き着いていた2号が輝き出し、周囲を光で染め上げた。
うむ、見事な大爆発だ。
ちなみに3号のガードがあるリグにはノーダメージである。
「終わったな、ちょっと疲れた」
2回も自爆したので、かなりの魔力をもっていかれた。
魔力SSのゼリリンが2回自爆するのだから相当なダメージにはなるが、俺の方はめずらしく魔力がスッカラカンだ。
あとでエリクサーを補給しよう。
そして、爆発の余波が収まり周囲かの土煙が晴れると、そこにはボロボロになった王妃さんが横たわっていた。
ただ、意識はあるようだ。
さっきサムライおじさんの不意打ちを見ていたから、おおよそどんな攻撃が来るかは予想できていたのだろう。
ギリギリ身体強化などのガードが間に合ったに違いない。
「さすがにドラゴン族はタフだ」
「う、ぐぅう……。なんだこの規格外の化け物は、本気のルチファーより強いかもしれんぞ。ゼリリンとはいったい……? しかし、認めよう、私の負けだ」
「ぜりっ!!」
決着がついた。




