ゼリリン、ウォーミングアップをはじめる
「魔王ゼリリン、……ダンジョンマスターじゃと?」
「うむ」
亜空間迷宮のダンジョンマスターで、魔王のゼリリンだ。
なぜこんな事を王妃さんに明かしたかと言えば、この空間も間違いなくダンジョンの一部だからだ。
いや、おそらくこの里、果てはこの山全体がダンジョンといっても相違ない。
目の前にお供えされている供物はDPに変換するための物だろうし、この部屋もそうだ。
おそらくこの神殿はダンジョンのコアルーム、ボス部屋と言ったところだろう。
それにリグには勇者であると伝えていたが、まあ魔王でも勇者でもどっちでもいい。
俺は悪くないゼリリンを目指しているから、バレても困らない環境作りを心掛けてきたのだ。
タクマも魔王だし、なんとかなる。
「……若が、魔王?」
「そうだぞ」
「さすがですっ! そこまで深くお考えだったなんてっ!!」
「えっ」
……ぜりっ?
「私も先ほどの脳筋ドラゴンの戦いを経て痛感しました、ドラゴン族の基本は力であると。そして若は、その対抗策として自らを魔王と名乗り、力ずくでこの王妃と対話をなさろうと……っ!! くっ、郷に入っては郷に従えということですねっ!?」
「う、うむ」
「……郷に入っては郷に従え、ですか。深いですね、さすがチビッ子の考えた作戦です」
なぜかドラゴン族と異文化交流するための作戦だと思われてしまった。
まあ、たまにはこういう事もあるよね。
……だが、さすがに王妃さんまでは誤魔化されないだろう。
俺がコアを通じてダンジョンランキングを把握できるように、彼女もそれは同じなはず。
そして、亜空間迷宮はカジノの成果によって最近頭角を現してきたダンジョンの一角で、ずっとここに居るであろう彼女が見逃すなどありえないはずだ。
なぜ実の娘であるオーシャルちゃんにダンジョンの事がバレていなのかは謎だけど、神殿をみるに宗教的な思想でカモフラージュしているのだろう。
「……ふ、ふふふ、ふはははははっ!! 面白い、面白いぞ我が娘よ。よもやあのグータラがここまでの成果をあげようとはな」
「ふふん、そうでしょうそうでしょう。さすがのお母さまも、チビッ子族との交流は放ってはおけないはずだと踏んでいたのです」
「ああ、全くもってその通りだ」
王妃さんが頷く。
「この白竜の王種である我が存在を前にして、そのふてぶてしさ。……どうやら、ルチファーの奴から連絡のあった通りの奴らしいな」
「あれ、ルチファー君を知ってるの?」
「当然だとも。我が夫の所有物である聖剣、その奪還の邪魔をした強者だと聞いておる」
なんと、ユウキを助けに行ったときに守った聖剣、エクスカリヴァーは光竜族のものだったらしい。
なぜ人間がこのヤバそうな白竜から盗み取れたのかは知らないけど、自分で取り返しにいかない理由はコアルームを守護しているからだろう。
亜空間迷宮と違って、普通は誰かがコアルームを守ってなきゃいけないからね。
王様が居ない所をみるに、旦那さんの方は動けるみたいだけど、もしかしたら何か事情があるのかな?
「まあ、ゼリリンが強いのは本当だよ」
「ああ、分かるとも。一瞬ただの子供かと思ったが、よくよくその力の内をさぐれば、その誤魔化しようのない魔力量がハッキリ見えてくる。……娘よ、よくやった」
「当然です、オーシャルですから」
「……くくくっ」
オーシャルちゃんが胸を張ると、王妃さんが怪しげに笑い出した。
……やはりそう来たか。
こちらの狙いとしては、ゼリリンズのメンバーに恥をかかせないために、王妃さんに俺の価値を証明したつもりなんだけどね。
どうやら証明しすぎてしまったらしい。
ドラゴン族の文化的に、これは戦闘になるぞ。
「それで、僕と戦うの?」
「ああ、どちらにせよそうなるだろう。いずれ来たる大災害に向けた戦力になるかどうか、その見極めが必要だからな」
「えっ? チビッ子族とお母さまが戦うのですか? ……オーシャルはどうしましょう?」
「その辺で見ておれ。お前にも、少しは戦いの基本を学んでもらわなければ困るのでな」
オーシャルちゃんは見学らしい。
それにしても、あれ?
大災害ってなんだろ。
まあとにかく戦いたいってことかな?
それならさっそくウォーミングアップをはじめなきゃ。
「こちらはいつでもいいよ。でも、殺すのは無しね」
「当り前だ。貴重な戦力であり、防衛の重要なピースである移動型ダンジョンマスターを殺すなど、愚の骨頂だ」
「うむ」
よく分からないけど、とにかくそういう事らしい。
詳しい話は後で聞くことにしよう。
そして俺がウォーミングアップのゼリリンダンスを踊り、リグが剣を取り出し、王妃さんが立ち上がる。
準備万端だ。
「準備できたよ」
「うむ、こちらもじゃ」
お互いにバトルスタンバイ。
それじゃ、攻撃開始かな?
「……その勝負、ちっと待ったぁ!!」
「むっ?」
バトルを開始しようとした瞬間、唐突に後ろから声が掛った。
どこかで聞いたことのある、おじさんの声だ。
「おう、話は聞かせてもらったぜ。……俺も混ぜろや」
「ぜりっ?」
振り向くと、そこには先ほどのヒメドラゴンバトルの分析でお世話になった、謎のサムライおじさんさんがいた。
あぶないぞサムライおじさん、こんな所に入ってきたはダメだ。
王妃さんもめちゃくちゃ渋い顔をしている。
「……ハァー、また厄介なのが都合悪く来てしもうたわ。なぜこんなタイミングで」
「カカカカカッ!! 戦いあるところに俺が参戦しねぇでどうするよっ!! 白竜王の名が廃るぜっ! なぁ、ゼリリンの坊主よ」
「ふむ」
なるほど、さっぱり分からない。




