ゼリリン、うずうずしてしまう
謎のサムライおじさんと別れたあと、空から降ってきたオーシャルちゃんと合流して神殿へと入っていった。
神殿内部はドラゴンでも入れる大きさを目安に作ってあるのか、だいぶ広い。
俺がゼリバウンドやゼリリンジャンプで跳ね回っても、まだ余裕があるくらいの広さだ。
仮にジャンプが天井に届いたとしても、この神殿はビクともしない作りになっているようで、建物の素材そのものから魔力を感じ取れるし、光竜族の魔法技術で強化されている事がわかる。
さすがドラゴンの里、人間とは規格が違い過ぎるな。
だが、壊れないと分かってしまうと壊したくなるのが人間の性だ。
うずうずする。
「うずうず」
「どうしたのでしょうか若?」
リグに心配されてしまった。
だがさすがに、壁にパンチしたくなったとは言えない。
「きっとチビッ子も、お父様やお母さまに会うのが楽しみなんですよ」
「ぜりっ?」
なんでこんな時だけまともっぽい事を言うんだオーシャルちゃん、いつもの天然っぷりはどこへいった。
これではゼリリンがおかしいみたいに見える。
いや、そんなハズはない。
誰だって壊れないっていわれたら、壊れるかどうか試したくなるはずだ。
これは皆も同じなはず。
それにほら、また白竜が襲ってくるとも限らないしね。
神殿が壊せるなら、逃げ道を早めに確保できるって事になる。
……ぜりっ!
「それっぽい事いっても、私は騙せないぞ脳筋ドラゴン。若はきっと、この場で白竜王たちに囲まれた時の事を想定して、立ち向かうためのイメージトレーニングをしているのだ。きっとうずうずしているのも、壁を壊して逃げ道を確保できるという自信の表れに違いない」
「なるほど、チビッ子族はどんな時も冷静ですね。確かに追い出された私がこのまますんなりと通れる保証はないです。勉強になります」
「フッ、分かればいい」
なぜか常識的なことを言ったオーシャルちゃんが懐柔された。
こう言っては何だが、実を言うとただうずうずしてるだけだ。
特に意味はない。
そしてペチペチと足音を立てながら奥へと向かっていくと、大きな扉が見えてきた。
おそらくここに王種のドラゴンがいるのだろう、部屋の中から相当な量の魔力がもれているのが分かる。
「さて、着きましたよ、ここがお父様とお母さまのお部屋です。実の娘たるオーシャルにいきなり襲い掛かる事はないでしょうが、チビッ子族は万が一に備えて私の後ろで待機していてください」
なにっ!
まさか本当に戦闘になるのだろうか。
でもそれを踏まえてなお、俺が下がる事は有り得ない。
ゼリリンは逃げも隠れもしないのがポリシーなのだ。
「いや、それには及ばない。リグは僕が守るし、それ以前に襲われても負けないからね」
「……ふふっ、その意気ですチビッ子。さすが私の見込んだだけの事はあるようですね」
まあ俺が前に出ていた方がリグの盾になれるし、いくらドラゴン族が喧嘩上等な種族だとしても、命まではとらないはずだ。
いざとなったら収納で逃げればいいしね。
「それじゃあ開けますよぉ、……ハァッ!!」
「おお、ヒメドラゴンが光ってる」
「ヒメドラゴンオーラです!!」
「おぉぉ」
オーシャルちゃんが気合を込めると、彼女の体から尋常ではないほどの魔力が溢れ出し、神秘的な光景と共に重く大きい扉がこじ開けられていった。
……うん、でもこれ、フルパワーの身体強化で体が光ってるだけだね。
ただの力押しともいう。
でもその力押しがドラゴンの強みであり、最強の武器だ。
ある意味正攻法と言える。
ちなみにゼリリンは種族的に筋力が低いので、今回は見学だ。
「ぐぬぬぬぬっ!! ……セイヤァーッ!!! ぜーっ、ぜーっ、てやんでい!!」
「開いたね」
「開きましたね、若」
最後の力を振り絞ったオーシャルちゃんが、気合と共に扉をこじ開けた。
お疲れ様である。
さてさて、それではさっそく部屋の中を拝見させてもらおう。
「どうですお母さまっ!! もう私一人の力で扉をこじ開けられるようになりましたよっ!!」
「…………オーシャルですか。一度は勘当したというのに戻ってきた以上は、私を納得させるだけの何かがあるのでしょうね?」
「当然ですっ!! 見てくださいこのチビッ子をっ!!」
中を見渡すと、だだっぴろい広間に一人の女性が鎮座していた。
たくさんお供え物みたいなものがあるし、きっとこの女性が白竜王妃なのだろう。
とりあえず、まずは挨拶だな。
「ぜりっ!」
「どうですっ!?」
挨拶は元気よくが、ゼリリン流。
「…………どうです、とは?」
ふむ。
確かに、至極まっとうな感想だ。
どうやら白竜王妃さんはかなりの常識人らしい。
普通はいきなり子供を連れてきてどうですって言われても、反応に困る。
だがそれでも、ヒメドラゴンさんはゼリリンズの一員だ。
恥をかかせるわけにはいかないので、俺がフォローするとしよう。
それに気になっている事もあるしね。
「僕は魔王ゼリリン、亜空間迷宮のダンジョンマスターだ。ダンジョンバトルを申し込みに来たわけじゃないけど、オーシャルちゃんが僕を連れてきた事の重要性、その価値はわかるよね」
「…………、……ほう?」
俺がダンジョンバトルの事を語り出すと、王妃さんのまゆがピクリと動いた。
うむ、やはり想定通りだ。
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