ゼリリン、臨機応変な生き物だった
傲慢の魔王城の外にある森の、少し開けた所までやってきた。
2人が戦っている場所は不自然に木々が倒された場所で、おそらく決闘用にルチファー君が魔法でなぎ倒したものだと思われる。
「おー、やってるやってる」
「きゅっ!」
2人共大暴れしてるようだ。
「くっ、いい加減倒れろっ!! 貴様本当に人間かっ!?」
「オラオラオラァッ!! そんなもんかよ魔王種っ!! 遠くからクソ遅ぇビームかましてるだけじゃ俺は止められねぇぞっ!! セリルの魔法に比べたら蚊に刺されたみてぇなもんだ」
「言わせておけばっ!! 【傲慢の波動】」
「【勇者流剣技改・絶剣】」
「魔力を剣で殺しただってぇっ!? 意味が分からないぞコイツッ」
どうやら、現状はタクマが優勢らしい。
一応ダメージの量はタクマの方が多く蓄積しているようだが、それは戦局に大きく作用しないレベル。
それに比べて、ルチファー君はタクマに接近されきったら負ける以上、ずっと魔法を放出しておかなければならない。
であるならば、距離が開いている間にどれだけダメージを蓄積できるかにかかっているのだが、先ほども言ったとおりこの程度のダメージではどうにもならないのだ。
このままだとルチファー君の近接モードと、多少ダメージの負った最強勇者の殴り合いになるだろうけど、その結果は火を見るよりも明らかである。
こりゃあ勝負がついたかな。
ちなみに詳しい解説をすると、ルチファー君が距離を取り魔法で狙撃しようとしたところを、タクマが意味の分からない速度で詰め寄り、魔法を通さない剣術で妨害していると言ったところだ。
前は魔法を弾くなんてできなかったはずだけど、どこでそんな剣術身に着けたんだ。
まさかゼリリンボード対策じゃないだろうな。
相棒は闘技大会の決勝で、上空からのゼリリンビームに打つ手がなくて負けたし、ありうる。
よし決めた、ゼリリンはもうタクマとは戦わない。
そんな事を考えながらキノッピをおやつに見学していると、ついにタクマがルチファー君に辿り着いてしまった。
さて、どうなる。
「もらったぞ魔王種ッ!!」
「うわっ!? ちょ、ちょタンマッ!! 負け負けっ!! 僕の負けでいいからタンマッ!!」
「……チッ、もう少しで真っ二つに出来たんだがな。根性ねぇぞお前」
「ぜぇーっ、ぜぇーっ!! なんなんだこの化け物はっ」
ふむ、どうやらタクマが勝ったらしい。
だがおかしいな、追い詰めていたはずのタクマの手はぷるぷる震えているし、そんなにギリギリで勝ったようには見えなかったんだけどな。
嬉々としてトドメを刺そうとした時と比べて、今の相棒の表情には余裕がない。
「それにしてもやっぱ魔王種は強ぇな、ギリギリだったぜ」
「ん? いやいや、今回は君の勝ちだと思うけど? いくら僕が本来の装備をしていないとはいっても、僕がここまで追い詰められたのはセリル君と君だけさ」
「そうじゃねぇ、俺の魔力量をよく観察してみろ」
言われてタクマの魔力を感じ取ってみる。
……ああ、そういう事か。
「んん? あれ、なんだか魔力残量が僅かしかないね、これではあとちょっとしか身体強化できないんじゃないかい?」
「当り前だろ、魔法を相殺する剣技を何の代償も無しで使える訳がねぇ。お前の魔法を殺すためには、こちらも相応の魔力を持っていかれてたって事だ」
「はぁっ!? それじゃさっきの、もらったぞ魔王種ってハッタリじゃないかっ!! ズルいぞ人間っ!!」
うむ、ズルい。
まるでルチファー君を追い詰めたみたいな感じだったけど、実際に追い詰められていたのはタクマだったという訳だ。
言葉や表情で相手に偽の情報を掴ませるとは、悪魔より悪魔みたいな奴だな。
「クハハハハッ!! 騙されたお前が悪いんだ、俺はこのまま勝ち逃げさせてもらうぜ」
「おのれ人間、……いや、悪魔め」
「クククッ、魔王種にだけは言われたくないな」
騙し打ちで決闘に勝ち、上機嫌になったらしい。
漆黒に染められた二本の剣を背中に刺して、軽い足取りでこちらへ向かってくる。
「おつかれ、キノッピ食べる? あと絶剣すごいね、ビビった」
「チッ、見られてたか。アレはお前用のハッタリ剣技だったんだがな」
まあ絶剣の弱点を知ったのデカい。
さっきもう戦わないとか言ったが、勝機が出たのでやっぱ戦ってもいいかなって思い始めた。
ゼリリンは臨機応変な生き物なのである。
◇
傲慢の魔王城でやる事をだいたい終えたので、さっそく王都の学校へと帰ることにした。
友達も募集したし、レヴィアさんとも実際に友達になった。
それにルチファー君との交流もうまくいったし、万々歳である。
あとは王都の宿で気絶しているオーシャルちゃんを起こして、光竜族の里に行く予定を聞きだすだけだね。
簡単なお仕事だ。
余談だが、ユニッピの成長のためにもオーシャルちゃんの里には一緒に連れて行こうと思っている。
同じ竜族だし、何か成長のヒントがあるかもしれない。
「それじゃ、今日は色々と楽しかったよ」
「ああ、僕もセリル君を招待してよかったよ。あの悪魔みたいな奴のおかげで、いい暇つぶしになったしね」
「うむ」
すっかり相棒は悪魔に悪魔認定されているようだ。
一応魔族の代表やってる勇者だし、ある意味箔がついたね。
「おいセリルお前、いま箔がついたとか思っただろ。殴るぞ」
「おもってないよ」
「…………」
「ぜりっ(笑)」
「その笑いが果てしなくウソくせぇ……」
ウソだから仕方ないね。
それじゃ、帰るとしよう。
ばいばーい。
ゼリ語:臨機応変
日本語:熱い手のひら返し
次回から新章突入します。




