ゼリリン、捕獲される
軍資金を手に入れ道具屋を出た俺は、そこらへんをうろつきながら冒険者ギルドの場所を探していた。
どうせうろちょろしてれば、そのうち見つかるだろう。
それに、たまには中世な町並みをみながら散歩するのも悪くない。
「右を曲がって左を曲がる~、そのまた右で次まっすぐ…… って、あれ? なんか殺伐とした風景になったぞ」
道なりに散歩して冒険者ギルドへと行くはずが、なぜか廃墟に来てしまった。
さすがに適当すぎたか、ここはどうみてもスラムだ。
「うむ、スラムに用はないな。それじゃ、おじゃましました~」
あばよスラム、もう会う事ないだろうぜ。
…そして回れ右をして元の道に戻ろうとした直後、俺は巨大な壁にぶつかった。
次はいったい何なんだ。
「ぬぉっ!? いきなり目の前に壁が……」
「壁じゃねぇよガキんちょ」
「おや……? 壁がしゃべったぞ」
会話できる壁とは珍しい、人工知能も真っ青な高等技術だ。
さすがはファンタジー、侮れない。
「壁じゃねぇっつってんだろ…… まあいい。おいお前ら、このガキを荷台に積み込め。今日の臨時収入だ」
「へへっ、この身なりにこの年齢、こいつは高く売れそうだぜ。兄貴もツイてやすね、こんなのがひょこひょこスラムまで一人歩きして来るんスすから」
壁かと思っていたのは、体のデカい髭面のおっちゃんだったようだ。
というか、この人たち完全に人攫いじゃないか、なんてこった。
「そら、よっこいせっと」
「ぬぉぉ、また持ち上げられた。足がブラブラする~」
あまりの出来事に呆然としていると、ならずものの一人に捕獲されてしまった。
やるな盗賊。
「……。ずいぶん冷静なガキだな」
「そんなことないよ?」
「そ、そうか……」
まあぶっちゃけ、収納を使えばいつでも逃げられるから余裕なんだけどね。
ゼリー細胞のおかげで簡単には死なないし、この人達が殺す気ではないことを考えても、俺がピンチに陥る可能性は全くない。
なんなら今逃げたっていい、まあ逃げる気はないけど。
なぜ逃げないかというと、この盗賊達が「今日の臨時収入」と語っていたからだ。
もしかしたら俺の他にもこうやって捕まった子供がいるかもしれないので、どうせなら全員解放してから帰ろうかなっていう寸法だ。
ギルドに登録するつもりだったが、予定変更だな。
登録は明日すればいい。
そんなことを考えていると、兄貴と言われていた髭の盗賊が話しかけてきた。
「ふむ、それにしてもこの身なりにこの発育、どう考えてもスラムのガキじゃねぇな。お前もしかして貴族か?」
「なっ!?貴族ですか兄貴っ、そいつあヤベェっすよ!」
どうやらこちらの身なりを確認して身分を確認したようだ。
だがしまったな、このままでは俺は解放されてしまうかもしれない。
それでは盗賊のアジトまでたどり着けないではないか。
しかたない……
ここはとりあえず、話術で切り抜けよう。
忘年会で鍛えた俺の演技力をみるがいいっ!
「ぼ、僕おいしくないよ?」
しまった!緊張しすぎて変な事を口走った!
忘年会の力を過信しすぎた…
なにやってんだゼリリンっ。
「いや、お前は俺達にとって最高の金づるだ。貴族といえば、奴隷商にでも交渉をもちかければ最低でも金貨10枚はする。確かにリスクは高いが、その分報酬もデケェってわけよ。まあ、お前に言っても分からないだろがな」
「さ、さすが兄貴!」
いや、全然わかるけどね。
だが、これで解放される心配はなくなった。
ナイスだぜ兄貴。
そうして屋根付きの荷台に詰め込まれて運ばれること30分ほど、スラムの一角にある倉庫のようなところまでやってきた。
さらに運ばれている途中で発見したのだが、荷台の中には盗品が乱雑していて、中には高価な魔道具っぽいものもあるようだ。
せっかくだし、ちょっくら鑑定して俺がもらっておこうかな。
戦利品ゲットだぜ。
ちなみに、戦利品にした主な魔道具はこんな感じ。
【高級ポーション(体力)】×1
【低級ポーション(魔力)】×3
【低級ポーション(筋力)】×3
【疾風の指輪】×1
└風の加護により、動きが速くなる。
積み荷を開けた時にバレない程度に、全部もらっといた。
ありがとう兄貴、戦利品に満足だよ。
「おらっ、ついたぞガキ。そこの倉庫に入りやがれ、次に俺たちが戻ってくるまで大人しくしているんだな」
「へへへっ、了解ですぜ兄貴」
「お、おう…分かったならいいんだ」
おっと、つい盗賊達の口癖が移ってしまった。
盗賊達はまだ他にもやることがあるようで、一旦この場を去るようだ。
犯罪集団のくせに忙しいやつらだな、これだけやる気があるならまともに働けばいいのに。
「おらっ! さっさと入れ」
「ぬぉぉっ!」
乱暴に放り込まれた。
もっと優しく扱ってくれたまえ、このボディは繊細なんだ。
……そして乱暴に放り込まれた倉庫を見渡してみると、そこには案の定、俺の他にも捕まった子供がいたようだ。
やはりな、さっきの読みは正しかった。
目の前には5、6歳くらいの女の子が鎮座している。
いざ、救いの手を!
「ぐすっ。 ……パパ、ママァ」
「大丈夫かい君?僕が来たからにはもう安心だよ」
相手はホームシックになっている女の子だ、ここはやさしく、やさしく。
「うるさいわねっ、あんたに何がわかるのよっ!私はリジューン王国公爵家長女、パチュル・ジェリーなのよ! 本当だったら、今頃家でキノッピを食べてるんだからっ」
「あだぁっ」
なぜかいきなり叩かれた。
なんなんだいったい、ホームシックになっていたわりにはやたら元気だぞ…
それに、パチュル・ジェリーってどっかで聞いたことあるような?
「うーん、パチュル、パチュル…… あぁっ! 君、道具屋にいたポーションの子だ!」
「……っ!? なによあんた、セリルじゃないっ! ……そ、そう、私を助けにきたのね? さすがは専属執事だわ、その心意気だけは褒めてあげる」
そこにいたのは、出世払いのお嬢ちゃんだった…
あんたここで何やってるねん。
「それで、騎士達はいつここに来るの? そろそろ暗いのも飽きたわっ」
ふむ、どうやら俺が騎士達を呼んできたのだと勘違いしているようだ。
それならば、一つ言っておかなければならないことがある。
「いや? 騎士には連絡してないよ。僕も捕まっただけだから」
「ダメダメじゃないっ!」
「あだぁっ!」
なんで!?
正直に答えたのにっ!
こんなのあんまりだ。
どうやら戦力としてみなされていないらしい。




