ゼリリン、ドラゴン族のルールを知る
ヒメドラゴンダッシュで連行されてからしばらく。
彼女の背中でゆさゆさと揺られていると、眼下には既に人間の町が広がっていた。
さすがに王種のドラゴンが本気で飛ばしただけあって、わりとすぐに辿り着いたらしい。
「うーむ」
「さあ着きましたよチビッ子!! 神王協会の長とやらはどこですか!? 正々堂々、この私がぶっとばしてやりますよ!」
「……うーむ」
着いたのはいいけど、問題はこの話を聞かないヒメドラゴンさんだ。
しかもこんな巨大なドラゴンが町の真上に飛んでいたら大騒ぎになるだろうし、どうしたものか。
たぶんこのまま降りたら確実に攻撃されるだろう。
俺は別に戦争をしかけに来たわけじゃないし、そういうのは避けたい。
「まあとりあえず、近くの森に一旦降りよう」
「はっ!? 森からの奇襲ってわけですね!」
「ちがうぞ」
「きゅぁっ!」
「そうか、ユニッピもダメドラゴンさんだと分かるのか」
奇襲をかけに来たわけじゃないことは、産まれて2か月も経ってないユニッピにも分かるらしい。
なんて賢いんだユニッピ、育ててよかった。
そして俺の指示通り少し離れた森へ不時着した後、いつものように門番さんのところへと向かうと、案の定高ランクの冒険者みたいな人がうろちょろしていた。
完全にやらかしてしまったな。
町の入り口へと向かう俺たちに注目の目が向けられているし、とりあえず適当なゼリリンフェイクでごまかしておこう。
ここの冒険者さんとも仲良くなりたいところだけど、まずは門番さんに話しかけた方がいいかもしれない。
「もしもし、色々と考え中のゼリリンだよ」
「同じくオーシャルです!」
「……そこで止まれ、ただならぬ者よ。子供の方はともかく、白竜人の貴様には聞きたいことがある」
やはり完全に警戒されてしまっている。
まあ飛んでいた白竜と一緒の色をした白竜人が現れれば、そうなるよね。
冒険者たちも武器を構えてこちらに向けているし、さてはて、どうしたものか。
「まあまあ、門番さん。そう言わずに僕の話を」
「なんですか人間、今日の私は臨時ボーナスのために忙しいのですが」
「……臨時ボーナスだと」
ダメだ、俺の方はただの子供だと思われているらしく、相手にされていない。
困ったぞ。
「そうです! 決闘に勝てばこのチビッ子からキノッピが3つ貰えるんですよ! じゅるり」
「なに? となると、この竜人はそこの子供かその親に雇われたという事か?」
「正解です、人間にしては頭がいいですね」
「ぜりっ?」
オーシャルちゃんが門番さんに返答していくと、周りの殺気立った空気が落ち着き始めた。
おそらく俺の事を大貴族か何かの子供だと思い、竜人を決闘代理人か何かでつれて来たと勘違いしているのだろう。
よかったよかった。
やればできるじゃないか、少し安心したね。
「くふふ。そして長をぶっとばし、この私が……」
「ぜりっ!?」
なにか言い始めたぞこのドラゴンさん!?
ダメだ、それいじょう言ってはいけない。
「……新たなるっ」
「ゼリラァアアアッ!? ゼリリンパンチ!!」
「ぎゃふんっ!? なにするんですかチビッ子!!?」
良い感じで話がまとまりそうなところに爆弾を投下しないでほしい。
ゼリリンパンチで阻止する事には成功したが、油断も隙もないな。
「ごめん、今ほっぺたに虫がいたから、つい反射的にやってしまった」
「そうですか? ありがとうございます。気の利くチビッ子は嫌いじゃないですよ」
「うむ、虫の駆除は任せてほしい。まあそういう訳だから、貴族の決闘の代理で彼女を呼んだんだ。質問はもういいかな?」
結構強めにパンチしたはずなのだが、物理耐久がとんでもないオーシャルちゃんにはダメージが無かったらしい。
本当の事を話しても、思い込みの激しい彼女には通じないと思うので、このまま流しておこう。
「ふむ。確かにその高級なマントや清潔な身なり、他国の貴族で間違いないようだ。よし、通ってよし!!」
「きゅあぁあ!!」
なんとか無事に解決した。
それにしても冒険者さんには悪い事をしたな。
いまから俺の来た方向へ白竜を探しに行くんだろうけど、絶対に見つかることは無いだろうしね。
まあでも、何も見つからないけど特になんの被害もないだろうから、そっとしとこ。
グッバイ冒険者さんたち。
「という訳で、今から神王協会へと向かいます」
「場所は分かるんですか?」
「うむ。吸血鬼を退治する組織というからには、おそらく大きめの教会が本拠地のはず。任せてほしい」
「さすチビ」
だいたいそんな感じだと思う。
というかこの距離からでも上空から見えた大きな教会がでかでかと主張してるし、たぶんあそこがそうだろう。
やけに白を基調とした建物なので、すぐに分かる。
それに入団試験には実力が問われるらしいけど、これだけやる気になったオーシャルちゃんなら楽勝だろう。
人間状態でもめちゃくちゃ強いしね。
「でも、決闘になっても相手を殺しちゃだめだよ。そういうのじゃないから」
「何を言っているんですかチビッ子、当たり前じゃないですか。決闘とは相手を倒し己の力を認めさせるのが鉄則なのです、殺しては意味がないじゃないですか」
「なるほど、興味深い」
ドラゴン族のルールはよく知らないけど、そういう事らしい。
暴れん坊なのか平和なのか分からない種族だ。




