ゼリリン、説明が伝わらない
「それで、赤ワインさんを狙うヴァンパイアハンターさんとやらはどこに?」
「まあそう急かすな。いくら奴らがワタシら吸血鬼に特化した人間といっても、この城までそうそう侵入してくることはない。おそらく我が領地からはみ出したハグレ吸血鬼を、ちまちまと狩っているのだろうよ。あと、私はレヴィアだ、赤ワインではない」
なるほど。
ようするにレヴィアさんが統治しきれていない、ハグレヴァンパイアなるものが人間に迷惑をかけているという事なのだろう。
そのハグレ吸血鬼さんが迷惑をかけ続けるが故に、王である彼女が最終的に狙われる構図になったのかもしれない。
まあ数が多くなれば統治しきれない個体が出てくるのは世の常だ。
別段不思議な事でもないだろう。
ハグレている個体だってヴァンパイアハンターなんていう脅威があるから、レヴィアさんに無断で人間側へ攻撃をしかけているのかもしれないし、これはもうどっちが悪いとかいう話ではないな。
俺のカジノダンジョンを襲った蒼の旅団にもヴァンパイアさんが居たが、ああいう話の分かってくれる個体も少なからずいるんだろうし、人間も吸血鬼も精神の基本は同じなんだと思う。
人によるっていうやつだ。
「まあ、ゼリリンからみればただの喧嘩だね」
「フハハハハッ!! この私が手古摺っている戦争をただの喧嘩となっ! うむ、言われてみれば確かにそうだ。言うじゃないかお前」
「このチビッ子はいつも大きく出ますから、金髪吸血鬼も早く慣れた方がいいですよ。オーシャルはもう慣れました、どんな仕事でもどんとこいです! ……チラッ」
ユニッピを抱きかかえたオーシャルちゃんが何か気合を入れているが、何に期待しているんだろうか。
もしかしたら、この戦いにおけるキノッピボーナスの追加を期待しているのかも。
またちょっとよだれが垂れてきているし、きっとそうだ。
……しかたないなぁ。
「じゃあ、3つだけね」
「さすチビっ!! 話が分かる!」
「……きゅぁあ」
ユニッピにも呆れられている。
やれやれだな。
まあヒメドラゴンさんをいつまでも相手にしていてもしょうがないので、さっそくだけどハンターさんに会いに行くとしよう。
レヴィアさん曰く、ハンターは人間社会に紛れ込んだ吸血鬼の存在を嗅ぎ取り仕留めてくるらしいので、彼らに会うには誰か吸血鬼を連れて行かないといけない。
ただ、通常レベルの吸血鬼を同行させても守り切れずに即死させられるのがオチなので、力の強い個体を同行させないと無駄死にさせることになってしまうらしい。
「ふむ、ハンターさんに会うのも一苦労なんだね」
「まあ奴らの総本山である神王協会は一般人など門前払いだからな。もし仮に内部に入れる者が居たとしたら、それは奴らに対吸血鬼の戦力として認められた者だけだろう」
「なるほど」
まあそれなら、なんとかなりそうだ。
俺とオーシャルちゃんが乗り込めば、認めてもらえるに違いない。
ゼリリンはつよい。
一度神王協会の人とレヴィアさんとで話し合いの場を設けたいところだし、行ってみるかな。
「じゃあ、ちょっと神王協会に認めてもらいに行ってくるね」
「なっ!? ……まさか貴様、ここにきて裏切る気かっ!?」
「違いますよ金髪吸血鬼、チビッ子は裏切りなんてしません。おそらく、神王協会に乗り込むつもりなのでしょう」
「そうだぞ」
さすがオーシャルちゃん、俺の言いたいことを分かってくれていたらしい。
一度認めてもらって中にもぐりこめれば、なにかと吸血鬼と人間のパイプになれると思うしね。
「乗り込む、だと?」
「そうです。敵地に乗り込んで神王協会の長をぶっとばせば、チビッ子がその長になれるはず。そしてその後、あなたと平和協定を結べば万事解決ということなのですよ。こんなのちょっと頭を使えばわかることです」
「ぜりっ!?」
そんなわけない、何を言っているんだこのドラゴンさんは。
ドラゴンの常識と人間のの常識の違いが分かっていないらしい。
ドラゴン族の中では正当な決闘なのかもしれないが、人間社会で長をぶっとばしたら、たぶん指名手配だと思うよ。
「な、なるほど!! まさかそこまで思慮を巡らせていたとはな、……すまない、ワタシの方が耄碌していたようだ」
「いやそれはちがう、れいせいになれ」
ダメだ、金髪美女の赤ワインさんも同じ思想だったらしい。
いくら魔族やドラゴンが弱肉強食といっても、まさかここまでとは思わなかった。
なんとかして誤解を解かねば。
ここは俺の鍛え抜かれた説明力を駆使するしかないな。
くらぇ、ゼリリンディスカッション!!
「ゼリリンは長を倒しにいくわけではない」
「えぇっ!? それはつまりオーシャルに戦えってことですか!? したかないですねぇ、これも雇われドラゴンの辛い所です。いいですよ、やってやりますとも! だけどキノッピの追加は忘れないでくださいね?」
「わけがわからないよ」
まったく伝わらなかった。
おかしいな、より簡潔に、わかりやすく伝えたつもりだったのに。
うーん、やはり異文化交流は難しい。
「そうと決まればさっそく特攻ですよ! さあ、私の背中に乗って敵地へひとっとびです!! そりゃぁ!」
「ちょ、まった。……ぬわぁああっ!!!」
勘違いを正そうとする俺の努力も虚しく、体を掴まれてポイッと背中に乗せられてしまった。
それにしてもなんてパワーだ、人間形態なのにここまで力があるとは思わなかった。
これが種族の差という奴か。
「ほう、これはまた見事な白竜だな。黒竜王にも負けずとも劣らずの体躯と見える」
「ユニッピも乗りましたね! それじゃいきますよー! ヒメドラゴンダッシュ!!」
「ぬわぁあああ!!」
体をドラゴン形態にしたオーシャルちゃんに乗せられて、強制連行されていく。
このままだとなんか面倒くさいことになりそうだけど、まあいいかな。
たぶんなるようになる、いままでもそうだった。




