ゼリリン、実は自己紹介のネタを温めていた
「こないだぶりだねプライデ君、友達を募集しにきたよ」
「ああ、歓迎するよ。僕も聖剣の方でごたごたしてたから、来るのが遅くなって済まないね」
そういえばそうだった。
彼は俺との約束で、聖剣の回収を頼んだ人物に話しをつけにいってくれたらしいのだ。
わざわざ手を引いてくれる口実のために決闘までしてくれたし、俺と同じ優しい魔王種なのかもしれない。
すると、さきほど爪をポッキリやってしまったオオカミ獣人さんが不服そうな顔をしだした。
あんまり怒ると体に悪いよ。
「ルチファー殿っ!! そ、その人間は自らを魔王種を騙る不届き者ですぞっ! 何卒あなたの裁きをっ!!」
「…………ほう」
「見てくださいこの爪をっ、あの人間の不意打ちで傷つけられたのですぞっ!! あなたの力で、我ら魔王種の誇りをどうか取り戻してくだされっ!!」
どうやら俺が魔王種だと言ってしまったのが不服だったらしい。
そういわれても事実なのだからしょうがないけど、彼には彼なりのこだわりがあるのかもしれない。
そのこだわり、ゼリリン的にはちょっと興味深い。
「そうなんですかチビッ子?」
「ぜりっ?」
「あー、まためんどくせぇ事になってきたなぁ。セリルお前、もうちょっと強そうなオーラだせよ。あのオオカミに舐められてるぞ」
「うーむ」
強そうな感じってどうやるんだろう。
そもそも弱そうな感じを出しているつもりもないので、よくわからない。
きっと背の高さが原因だな。
やはり早く大人になりたいものだ。
「それで君は、誇りのためにセリル君に喧嘩を吹っ掛けたというわけかい?」
「そうです!!」
「で、返り討ちにあったと」
「あの卑怯な人間の汚いやり口に、……くっ、おのれぇえ!!」
なぜか俺が喧嘩をしていたことになってしまった。
いくら俺が攻略本さんの危険を教えるのが遅れたとはいえ、そういう嘘はよくない。
ちゃんと背中をさすさすしてあげたのに、ひどいや。
「……はぁー、これだから魔王種になりかけの奴は嫌いなんだ。自分の力に目が眩んで、相手の力量も測れない」
「そうですぞ! 少し力があるとはいえ、愚かにもこの私に勝負を挑んできたのですからなっ!!」
「お前の事だよマヌケ【傲慢の波動】」
「なっ? ……ガハァアアアッ!!」
「ぜりっ!?」
なにやらプライデ君と交渉していたオオカミさんが、彼の逆鱗に触れて炭になってしまった。
プライデ君の手から金色の波動が飛び出したかと思うと、城の床をブチ抜きながら凄い勢いで光線が彼を焼いていったのだ。
体の半分近くが灰になっているので、放っておけばこのまま死んでしまうだろう。
今の光線を見ていた赤ワインさんや竜人っぽい人も息を飲んでいるので、これはきっと、そうとうお怒りになった時の技なのかもしれない。
実際ユウキと一緒に戦った時の遠距離魔法とも違ったようだしね。
やっぱり世の中はぶっそうだ。
ちなみに壊れた床は一瞬で元通りになったので、このお城はダンジョンで確定だな。
「まったく、僕が直々に招待したお客に襲い掛かるなんて、なんて迷惑な獣人なんだ」
「そうは言うがプライデ、貴様の招待したあの、……ゼリリンだったか。あいつの力量を測れる奴など俺やお前くらいだろうよ」
「黒竜王がそういうならそうなのかもね。もう殺しちゃったから関係ないけど」
プライデ君が竜人さんと何かしゃべっている間に、放っておいたら死んでしまうオオカミさんにエリクサーをぬりぬりしておく。
弱いものイジメはよくない。
それにしてもこの傷、エリクサーを重点的に塗らなければ治らない所とか、普通に振りかければ治るところとかがマチマチだな。
ただの重傷だったら一発で治るはずだし、もしかしたらあの攻撃そのものに呪いなんかの治癒遅延効果が含まれているのかもしれない。
モードチェンジする前の彼は魔法特化だったはずだし、ありえる。
ユウキの時に使われなくて良かった。
「聞きましたかチビッ子、あの竜人、黒竜王なんですって。それにしてはオーシャルに喧嘩を売っていませんけど、私にビビってるんですかね? 大人の王種をビビらせるなんて、やっぱり私ってすごいのかも?」
「……ぬりぬり」
「聞いてますかチビッ子」
あまり聞いてない。
「おい白竜、セリルが集中しているときは何言っても無駄だ。放っておけ」
「人間、そういう事は早く言ってください」
「なんで俺のせいになるんだ」
「きゅぁあ」
俺が集中して治療していると、ユニッピも光魔法で支援し始めて来た。
こういうところで気を利かせてくるとは、ヒメドラゴンさんとはやはり違うな。
というかタクマもオーシャルちゃんも光魔法使えるんだから、手伝ってくれればいいのに。
「よし、完治した」
「はっ!? ……私はいったい?」
「おはよう、死にかけてたから治療したよ」
「あ、あぁぁああっ!? キ、貴様、いえ、あなた様はっ!!? どうかお許しをぉぉおっ!!」
蘇ったオオカミさんが震えだしている。
さっきまであんなに元気だったのに、どうなっているんだ。
……あっ、走って逃げていっちゃった。
「ははははっ!! セリル君なら治療しかねないと思っていたけど、まさか本当に助けてあげるとは思わなかったよっ! でも彼、既に心が折れちゃったみたいだね」
「残念だ」
興味深かったのに、どうやら死にかけたのがショックだったらしい。
今度会ったらキノッピでもわけてあげよう。
また会えると良いな。
「それじゃ、改めて言わせてもらおうかな。これが全ての魔王種ではないにしろ、せっかく集まったことだし近況報告と行こうじゃないか。顔合わせを兼ねた、情報交換ってやつさ」
「それには賛成だ。眷属化を跳ね返したあの子供にも聞きたいことがあるし、最近じゃワタシの領内で暴れまわってるヴァンパイアキラーなんてのもいる。対策を講じたいところだったのだ」
「…………」
プライデ君の発案で自己紹介をすることになった。
赤ワインさんや黒竜王さんなんかは乗り気のようなので、俺もこの流れに乗っておく。
友達作りのためにいろいろネタを考えてきたし、こういうのをまってたんだ。
「ぜりぜりぜり」
「チビッ子が怪しげに笑ってますね」
「それも放っておけ、きっと自己紹介のネタとか考えてるんだろ」
なぜ分かった。




