ゼリリン、傲慢の魔王城へ訪問する
オーシャルちゃんの背中に乗せてもらい3日とちょっと、みんなのおやつにキノッピを分けながら順調に旅を進めていた。
キノッピの栄養価は高く、カロリーもちゃんととれる万能キノコなので、全種類の色が揃っていれば水とキノッピだけで毎日が過ごせるのだ。
本来はポーションの材料とかになるらしいけど、俺にはエリクサーが沢山あるので材料にする意味はあまりなかったりする。
「もぐもぐ、……そろそろ着きそうだね。意外と早かった」
ゼリリン的にはもうちょっとかかると思っていた。
「当然です、このオーシャルが本気で飛べばこんなもんですよっ!」
「俺の見込みでは一週間くらいだと思っていたが、この白竜タダ者じゃねぇな。体のデカさ的にも一般の基準を超えているぞ。王種か何かか?」
「おや、そこに気づくとは見込みがありますね人間。もっと褒めていいんですよっ! くふふ」
オーシャルちゃんは光竜族の姫らしいので、王種であることは間違いないだろう。
世間の常識がないので、抜けている所が多々あるけど、能力的にはさすがだ。
もうダメドラゴンさんじゃなく、ヒメドラゴンさんと呼ぶべきかもしれない。
そうだ、そうしよう。
「ユニッピが強くなったら、オーシャルちゃんとドラゴン族の里にも行ってみるのもいいかもしれない」
「きゅぁっ」
「任せてくださいよチビッ子っ! 一日6キノッピの恩は絶対に忘れませんよっ」
「6キノッピだぁっ!? セリルお前、白竜をキノコで釣るってどういう、……いや、なんでもない」
そこは気にしたらダメなところだぞ。
本人が納得しているんだから問題ないのだ。
そしてそのまま飛行すること数時間、およそ4日間に及ぶ空の旅で傲慢の魔王城へと辿り着いた。
城の周りは森と崖で囲まれているので、徒歩で来たら大変そうな所かもしれない。
「なかなか風情のある建物だね」
「俺の魔王城と大きさは同じくらいだな」
目の前の魔王城はこれぞお城といった感じの建造物で、傲慢の魔王城というだけあってあらゆる所に自分を誇示するような装飾がなされている。
例えばルチファー君の親戚っぽい銅像だったり、自分の力を示すように放出されている魔力だったり、いろいろだ。
ただ、タクマの本拠地である魔王城っぽい魔王城とは違い、あまり禍々しくはない。
「なんだか偉そうな建物ですね。オーシャルに喧嘩を売るとは良い度胸です」
「きゅぁっ!」
「まつんだ、別に喧嘩は売っていないと思う」
力を誇示する傾向にあるドラゴンさん的には、このお城は癇に障るのかもしれないな。
しかし、せっかく沢山の友達が出来る良い機会なのに、ここで暴れられては計画が水の泡だ。
もうすこし落ち着いてもらおう。
「相手は傲慢の魔王種さんらしいから、こういう建物なんだよ」
「つまり、他意はないと? チビッ子は優しいですね」
「ぜりっ(笑)」
理解してくれたらしい。
さて、それではさっそくお城の人に案内して貰わなければ進めない訳だけど、あいにくここには門番さんが居ないみたいだ。
いままで数多の門番さんと友好を深めてきたゼリリン的に、すこし寂しいものがある。
どうしたものか。
「うーむ」
「案内が無いってことは、勝手に入っていいんじゃねぇの?」
「じゃ、そうしよう」
まあ、あとで門番さんを配置するように伝えておけばいいかな。
魔王種さんの居場所は大きすぎる魔力反応で一目瞭然だし、実際迷う事はないだろう。
それに大きな反応は複数あるので、もしかしたら他の魔王種さんも来ているのかもしれない。
せっかくなので鑑定しておきたいし、攻略本は出しておこう。
「たのしみだ」
「そうですね、どんなご飯が出るのか私も楽しみです」
「……ぜり」
さっき2キノッピをあげたばかりなのだが、まだ食べ足りないらしい。
ヒメドラゴンさんが里から追い出された理由は、もしかしたら食費なのではなかろうか。
ありえる。
それから反応を頼りに右へ左へ上へとグルグルしていると、大広間のような所に辿り着いた。
おそらくここが集会所で間違いないだろう。
攻略本さんのマップにも位置が示されているし、間違いない。
それじゃ、とりあえずノックだ。
「もしもし、ゼリリンですが」
コンコンっと。
「…………」
「…………」
反応がない。
勝手に入っていいってことかな。
それじゃ、遠慮なく。
「たのもー」
「…………誰だ貴様は」
「ぜりっ?」
扉を開けると、知らない人たちが数名で大きな机を囲んでいた。
狼の獣人さんっぽい人や、腕にびっしりと鱗が生えた竜人さん、優雅に赤ワインを飲んでいる金髪美女さんなんかが居り、その従者と思わしき人達も数名いる。
だけど、あれ、おかしいな。
俺を呼んだ魔王種さんは離席中なのかな?
とりあえず挨拶だけしておこう。
「魔王ゼリリンだよ」
「貴様が魔王だと?」
「そうだぞ」
「おのれ、我らを愚弄するか矮小なる人間よ。許せぬっ!!」
だめだ、話が通じない。
いま会話をしているのは狼っぽい人だが、他の赤ワインさんや竜人さんは特に何も言わずに様子を見ている。
まさか来る場所を間違えたのだろうか。
「どうやって人間如きがここまで来たのかは知らないが、いいだろう。この憤怒の森を越えてきたというのなら多少は腕に自信があるという事だ。ならばこの俺自らが相手をしてやる」
「なるほど」
なんだかんだと言いつつも、俺を認めて話を聞いてくれるらしい。
自らが相手をすると言っているし、きっと話し相手に困っていたのだろう。
他の2人はなんだかそっけない人たちだしね、こういう事もある。
「先手はもらうぞっ! 牙王烈斬っ!!」
オオカミさんが爪を大きくしてこちらに突っ込んでくる。
テンション高いね。
「どうするよセリル」
「興味深い」
「……そうか」
うむ。
「くらぇええええっ!!!」
「ふむ。……あっ」
突っ込んでくるのはいいけど、攻略本さんを出しっぱなしだったので、このままだと正面衝突してしまう。
あの長い爪が絶対防御を誇る攻略本さんに命中したら折れちゃうだろうし、待ったをかけた方がいいな。
こういうのは説明が大事だ。
「ちょっとまった」
「今更遅いわぁああああっ!! 死ねいっ!!」
ボキッ
「ああっ!」
「ぐわああああああっ!!!?」
やっぱり、行き成りは止まれなかったようだ。
爪がポッキリと、根本から折れちゃった。




