ゼリリン、友達が増えそうな予感がしている
勝負のルール通り、先に一本取ったのでダークチェーンを解いてあげた。
それにしても、チェーンの効果で魔力が途切れた時に、一瞬だけプライデ君っぽい顔が見えたけど気のせいだろうか。
でも、こんな所に彼が居るはずがないので、おそらくは他人の空似というやつだろう。
今の彼はプライデ君とは違い、肌なんかに赤黒い模様もあるし、角も生えている。
出会った時の彼は銀髪に青い瞳を持った普通の子供だったので、どうみても一致しないのだ。
「というわけで、ゼリリンの勝ちだ」
「……痛ったたたた、なんて重いパンチだ、これはしんどい。やはり君を敵に回さないでよかったと、あの時の自分を褒めてやりたいくらいだ」
「ふむ」
そうか、なるほど。
ユウキを圧倒していたので思いっきりパンチしてしまったが、魔王種さんはそもそも魔法使い型だったね。
彼のパワーは全て、魔力を変換するなんらかのモードチェンジによる物だろうし、スキルを封じられた状態では撃たれ弱いはずだ。
これはちょっと強くやりすぎたかな。
よし、エリクサーで治療してあげよう。
「ススッ」
「……ん? これはなんだい?」
「エリクサーだよ」
「い、いや、……そうじゃなくて」
なかなか受け取らない。
遠慮しているのだろうか。
もしかしたらだけど、勝負を申し込んで治療してもらうなんて、彼のプライド的には許されない事なのかもしれないな。
だが痛そうにしているのは可哀そうだし、ゼリリンパンチは敗者を痛めつけるための拳でもない。
ここは無理やりにでも振りかけてしまおう。
「だばだばだば~」
「…………」
「うむ」
パンチによって腫れていた顔が元通りになった。
しかし、見れば見るほどプライデ君に似ているな。
親戚の可能性もなくはない。
「……ク、クククッ」
「ぜりっ?」
「ク、クハッ! アハハハハハハハッ!!」
「ぜりぜりぜり(笑)」
体力が回復し、元気なったのが嬉しいのだろう。
魔王種さんが軽快に笑い始めた。
よく笑う所もプライデ君そっくりである。
ここまでくれば、もう間違いなく彼の親戚は確実だな。
黒竜さんを従えているという共通点もあるし、なかなかどうして、世の中は広いようで狭い。
「はぁー、はぁー、ふー、笑った。相変わらず君はユニークだね、敗者のためにエリクサーを振りかけるなんて、普通ありえないよ。しかもこの僕の頭からかけるとか、ククッ、ブハッ!!」
「ぜりぜりぜり(笑)」
頭からかけたのはしょうがない、ダメージがあったのは顔だからね。
「……だけど参ったな。敗者がこれほどの施しを受けるなど、いくらなんでも僕の傲慢が許さないな」
「気にすることはない、こちらが勝手にやったことだ」
俺の配慮が足りなかったのが原因なので、気にすることではないのだ。
もうちょっと手加減するべきだった。
「なるほど、確かに君の言う通りだ。しかし、それならこれも僕が勝手にやる事だから受け取っておいてくれ。【闇魔法、シャドウボックス】」
魔王種さん的には納得できなかったらしい。
なんだかんだいいつつも、俺へのお返しとして異空間から何かを取り出そうとしている。
だけど、ゼリリン的にはプレゼントは大歓迎なので、ここは遠慮せず受け取っておくことにしよう。
何が出てくるか楽しみだ。
そして彼が異空間から手を引っこ抜くと、そこには謎の紙切れが握られていた。
なにか絵が描いてあるけど、あれはもしかして地図かな?
「地図だね」
「ああ、傲慢の魔王城の地図さ。ルールありの戦いとはいえ、君はこの僕から一本とれるほどの実力者だ、正式に招待される資格がある。他の魔王達も僕を中心に集まってくるけど、君なら誰も文句は言うまい。というか、そんな魔王が居たら僕が殺すだけだね」
なんと、彼は魔王の中でもリーダー的な何かだったらしい。
それにいろんな魔王種達が集まってくるなんて、友達を集める絶好のチャンスだ。
これはユニッピの育成が終わったら、すぐに行く他ないだろう。
「最近は友達を募集してたからちょうどいいかな。ぜひ遊びに行かせてもらうよ」
「ハハハハハッ!! 生物の頂点たる彼らが友達感覚かい、飽きないね君は。まあ僕らは基本暇だから、いつでもおいでよ。それじゃ、またね」
「うむ」
グッバイ。
◇
魔王種さんとの決闘から翌日、新たな勇者ゼリリンとして向こうの国で質問攻めに合った俺は、ようやくカジノへと戻ってきた。
助けに行ったのはいいけど、実にめんどくさい一日だったな。
なんでも、ユウキと金髪ロングさんが俺の戦闘を誇張して伝えたらしく、いろいろな憶測が飛び交ってしまったのが原因らしい。
曰く、神話の勇者だの、勇者神の再誕だの、ブレイブキングだの、なんでもござれだ。
どうみても胡散臭いネーミングにうんざりだが、実際に出現した記録があるらしいので手に負えない。
この世界の人は色々と拗らせているのかもしれないな。
すごくダサい。
「というわけで、ユウキを助けてきたよ」
「ギャハハハハハッ!! おま、おまえっ、ブレイブゴッドっておまえっ、ブハッ」
「だから言いたくなかったんだ」
今までの経緯をタクマに伝えたのだが、戦闘の内容よりもその後の事を根掘り葉掘り聞いてくるので、こうなるとは思っていた。
それこそ話題をすり替えるために戦闘での活躍を誇張して伝えたのだが、相棒には通じなかったらしい。
俺が隠そうとしている内容を一発で見抜いてしまうとは、なんて奴だ。
ゼリリンフェイクは成功率が低いので無駄だとは思ったが、やっぱり無駄だったらしい。
「で、この一日ユニッピの調子はどうだった?」
「おう、その事かブレイブゴッド。一日だけだが、俺と訓練した感じじゃ既にC級のワイバーンよりはつぇえな。おそらくB級下位くらいだ」
ブレイブゴッドではない、ゼリリンだ。
でもまあ、ユニッピが成長しやすいのは良い事だ、嬉しい限りである。




