ゼリリン、キノッピの色で悩む
新しく出来た友達である、プライデ・ルチファー君と握手を交わした後、すぐに別行動となった。
プライデ君としては、第一目標であった「俺と友達になる目的」が達成されたため、今回はもうこれといってやる事が無いのだという。
もうちょっと遊びたかったが、残念だ。
まあ、彼も他国の代表としての立場とかあるだろうしね、ずっと遊んでいるわけにもいかないのだろう。
留学生もたいへんだな。
「ただいまー」
「おかえりなさい若、おやつは出来てますよ」
そして宿に戻ると、既に沢山のフルーツが机に並べられていた。
この短時間で全ての準備を終えるとは、さすが母ちゃんの弟子だ。
きっとロックナー領での修行も功を奏したのだろう、これだけの早業なのに疲れ一つ見せていない。
もしかしたら、リグのオリジンスキルである英雄の血によって、包丁の扱いが上達しているのも大きいかもしれないな。
ただ一つ謎があるとすれば、なぜか俺のテーブルにだけハートを模したフルーツが多いことだろうか。
めっちゃ目立ってる。
「花嫁修業もたいへんだね。うむ、おいしい」
「は、はいっ! ですが、こうして形にする事ができるようになりましたっ」
「なるほど」
いつか現れるだろうリグのお婿さんも安心の女子力だ、技術に関しては完璧と言わざるを得ないな。
「オーシャルさんといい、リグちゃんといい、セリルはモテモテだね」
「ぜりっ!?」
待つんだルー兄ちゃんっ!
リグの前でオーシャルちゃんの話題を出してはいけないっ!!
ダメドラゴンさんは働き者のリグと相性が悪いので、話題に出すと彼女の頭に血が上ってしまうのだ。
ゼリリン的にはそう分析している。
「オーシャル……? オーシャル……ッ!!」
「きゅあぁっ!?」
一瞬でボルテージのあがったリグが、勢いよくフルーツにフォークを突き刺した。
怒った顔が無表情なだけに、すごい迫力だな。
ユニッピなんて、勢いに驚いてひっくりかえってしまっているぞ。
「……やはりこうなったか」
しょうがない、もうこうなったら青キノッピの力に頼る他ないな。
くらぇ、キノッピ爆弾っ!
「リグのお口にシュートッ!!」
「あむっ!? ……ふわぁあっ! この味は、天使の施しっ!?」
「ははは。なんだか、リグちゃんの扱いにすごく慣れてるね。仲が良くてなによりだよ」
やはりキノッピの力は偉大だ。
「うーん。お姉ちゃん、ちょっとふくざつ」
「ぜりっ?」
キノッピをシュートしたら、レナ姉ちゃんが複雑そうに口を尖らせた。
……なんてことだ、青キノッピ派の人がこんなに多いなんて。
俺は赤キノッピ派なのだが、赤に人気が無いのは少し残念だったりする。
キノッピの色は6色もあるので、それぞれの色で派閥が分かれる事で有名なのだが、いかんせん俺の知り合いに赤派が少ないのが最近の悩みだ。
ゼリリン的に、いつか布教しなければいけないと思っている。
◇
ロックナー領を旅立って数週間後。
中継地点を転々としながら、ついに王都までやってきた。
この世界の学校には日本と違って始業式とかはないので、夏休みが終わり次第いきなり授業が再開される。
とはいっても、Sクラスの俺は授業に参加するかしないか自由だったりするので、今日はカジノの運営をするつもりだ。
余談だが、プライデ君の姿はまだ見ていないので、きっと遅れてやってくるのだろう。
ゼリリン2号を学校に配置して様子を見ておけば、そのうち現れるに違いない。
それにしてもカジノを2ヶ月ほど放置していたけど、みんな元気にしてるかな。
公国の王女ちゃんなんかもカジノで寝泊まりしているので、一緒にいたゼリリン2号の目線から、だいたいの事は知ってるんだけどね。
経営側では動いてなかった事から、従業員のストレス管理とかが心配なだけだ。
「なんにしても、まずは収納だ。……っとうっ!」
そしてカジノへやってきた。
ただいまゼリリン城。
「おう、セリルじゃねぇか。やっと戻ってきやがったか」
「うむ、夏休みが終わったからようすを見に来たんだ」
「まあこの2か月ほど俺が運営してた感じじゃ、何も問題はなかったぜ? いつものようにルゥルゥが負けて寝込んで、リベンジャーズレッドが無双しているだけだな」
なるほど、相変わらずのようでなによりだ。
というかスーパーミラクルルゥルゥ号、この2か月間まだ一勝もできていないのか、憐れである。
ロリ魔女の開発した育成論のおかげで、スライムのスペックは良いはずなのに、なんでなんだろう。
「よわい、よわすぎる」
「あいつ騎士団長のスライムにしか挑まねぇからな、それが悪いんじゃねえの? 最強のプレイヤーに挑み続ける根性は認めるけどなっ! クハハハハッ!!」
「やはりロリ魔女は頭がいいのにバカだったか」
他のプレイヤーで自信をつけてから挑めばいいのに、なにやってるんだ。
というか、逃げ腰なのか根性があるのか分からないのが本当に謎だ。
どこまでも戦闘に向いていない魔族である。
「まあそれはいいとして、新しい仲間が出来たんだ」
「きゅぁっ!」
「……んん? なんだこいつ、見たことねぇドラゴンだな」
ユニッピが手をあげて挨拶する。
こういう礼儀作法は竜車の移動中に仕込んでいおいた。
「それで、このドラゴンをどう思う? 推測でもいいよ」
「印象的には黒竜と白竜の良いとこどりって感じだが、まあ珍しいことには変わりねぇな。たぶん新種だろうぜ」
タクマやオーシャルちゃんにも分からないとは、やっぱり攻略本さんが生み出した新種で間違いなさそうだ。
鑑定結果はかなり良かったし、今日から真面目に育ててみようかな。
「よし、それじゃあしばらくユニッピを鍛える事にしよう」
「おう、それなら任せろ。この俺が対人戦ってやつを叩きこんでやる」
「なんだタクマ、やけに乗り気だな」
「クハハッ! 面白そうな事は放っておかねぇ主義でな」
種族魔王と称号魔王による英才教育とはこれいかに。
なんか凄そうなドラゴンに育ちそうな予感がするぞ。




