ゼリリン、自分以外の魔王に出会う
新章突入。
ガタガタと馬車に揺られて一週間ちょっと、ようやく王都までの道のりを半分消化した。
現在は中継地点の町で食料などを補給し、宿を借りて休んでいるところだったりする。
もちろん宿の手配などは学校側が全てしてくれるので、特に手間などはかからない。
竜車はわんわんより遅いけど、こういうところは楽だな。
「かなり快適だ」
「きゅぁ」
ユニッピもオフトゥンの魅力に取りつかれたらしい。
寝そべっている俺のよこで、気持ちよさそうにゴロ寝している。
伊達にたまご時代、ずっとお布団で過ごしちゃいないな。
既に俺と同じレベルでくつろいでいるし、もはやゴロ寝をマスターしたといっても差し支えないぞ。
かなり見どころがある。
「なかなかやるな」
「……きゅあっ!」
うむ。
「……ははは。僕はたまに、セリルが何を考えているのか分からなくなるよ」
「うーん、お姉ちゃんには分かるよ。セリルのこれは、休憩力の出来栄えを認め合っているの。ルーにもいずれ分かる時が来るから、あせらなくていい」
「ええっ!? 僕がおかしいのっ!? っていうか休憩力ってなんだい姉さんっ!」
効率的にリラックスできる能力のことだ。
ルー兄ちゃんはまだまだ頭が固いな、大事なことだぞ。
これはゼリリンの奥義の一つでもある。
そしてしばらくダラダラしていると、おやつの買い出しに出かけていたリグが帰ってきた。
自主的に皆の分を買ってきてくれたらしいので、大助かりだ。
「おかえり」
「ただいま戻りました。……それと若、お客さんが来ていますよ」
「ぜりっ?」
こんな所でお客さんとな?
まさかタクマだろうか。
……いや、リグの反応的にそれはないな。
うーん、思い当たらない。
なら、もしかして押し売りかな?
きっとそうだ。
「なんでも、若の友達になりたいから、遠くの大陸から遥々やってきたそうですよ。黒竜のお土産っていえば伝わると本人は言っていましたね」
「なるほど、黒竜さんか」
ちょっと前に会った時はお土産が欲しいっていってたし、きっと俺に相談しにきたのだろう。
どんなお土産がいいかゼリリンに相談するとは、殊勝な心がけだ。
お土産選びのプロとして、ここは相談に乗ってあげるべきだろう。
「それじゃ、行ってくるね」
「はいっ! フルーツ切って待ってますね!」
それにしても、オーシャルちゃんが砂漠で修行している時でよかった、黒竜さんとは仲が悪いからね。
そして部屋を出てロビーに向かうと、見知った竜人が待ち構えていた。
前にいろいろとはぎ取っちゃったけど、既に体は再生したらしい。
「という訳で、相談にのりにきたゼリリンだよ」
「やぁ、こんにちは。君が僕の家臣をボコボコにした子供だね? ……なるほど、確かにこれはとんでもない。明らかに黒竜では対処できないレベルだよ」
「……申し訳ありません」
「ぜりっ?」
誰なんだろうこの子は。
年齢は俺と同じみたいだが、知らない子だ。
見た目は黒髪に青い瞳で、俺と同じように悪役のオーラが漂うマントを装着している。
まるで魔王だな。
黒竜さんと親し気にしているし、隠し子かなにかだろうか。
「もしかして黒竜さんの隠し子? でも、そういうのは僕に言わずに、奥さんときっちり相談しないとダメだ」
「なぁっ!? キ、キッサマァッ! 陛下に対して無礼だぞっ!! その首、いまここで落としてやるっ!!」
「ブフゥッ! クッ、クククッ、……き、君もしかしてギャグのプロかい? 僕をこんなに笑わせるなんて、やっぱりタダ者じゃない。……ブハッ!」
ちがうぞ、お土産選びのプロだ。
ゼリリンは真面目に答えているのに、ひどい奴である。
遠くから友達になりに来たようだが、初対面の礼儀も大事だという事を知らないらしい。
ここはちゃんと、セオリーという物を教えてあげねば。
「真面目に答えた相手の事を、わらってはいけない。友達同士でも守るべきマナーというものがあるんだぞ」
「……キッサマァ、どこまでも陛下を侮辱しおってぇっ!!」
「ク、クククッ、……ま、まままて黒竜っ。僕は気にしてないから、一旦おちつこう。すー、はー、すー、はー。……よし」
「うむ。一旦冷静になるのはただしい選択だ」
「ブハァッ!!」
だめだ、まったく会話にならない。
どうすればいいんだ。
……あっ!
そうか分かったぞ、もしかしたら笑うのが好きな子なのかもしれない。
なんだ、笑顔が絶えない良い奴だったのか、そうならそうと言ってくれればいいのに。
「理解した」
「何をだっ!!?」
すべてをだ。
それに、俺と同じ年齢の子供がこの付近にいるとなると、もしかしたら同じく王都の学生かもしれない。
身なりも良いし、きっと留学生かなにかだろう。
間違いないな。
「そ、そうかい? ク、ククッ、き、君に納得してもらってうれしいよ。……すー、はー。……ふぅ、いやぁ、今日は本当に笑った」
「友達の件なら任せてもらっていいよ。クラスの仲間には良い感じに紹介しておく」
ここで友達を作っておけば、留学生もクラスに馴染み易いと踏んでいるだろうし、快く引き受けておくことにする。
学校では、レナ姉ちゃんとルー兄ちゃんの威光を浴びたロックナー家の一人だし、きっとうまくいくはずだ。
「よかった、君に嫌われたらこっちもタダじゃ済まなかっただろうしね。それじゃ、これからよろしくね。……僕の名前はプライデ・ルチファーだ、ルチファーと呼んでくれ」
「僕はセリル・ロックナーだ。たまにゼリリンにもなるから、呼び方はどっちでもいいよ」
こうして、新しい友達ができた。




