ゼリリン、ワイロを使う
洞窟を出発してしばらく疾駆し、30分ほど経った。
現在は山を下りて街道に出てきており、攻略本のマップにも生き物の密集地帯のような反応がある。
おそらくそこが町か村なんだろう、予想より早くつけてよかった。
しかもわんわんの背中は乗り心地がよく、3歳児の俺にも優しいもふもふボディとなっている。
大きさは2mほどで、さすが魔物といった貫禄だ。
移動速度も人間の足とは比べものにならない。
「そういえば試してなかったけど、DPを使ったらわんわんは進化するのかな?」
「グルゥ……?」
「……ん? そうか、お前にもわからないか」
帰ったら試してみよう、もっと強くなったら俺の狩りもはかどるし。
今の状態でどのくらいの強さなのはか知らないけど、ここらへんの森にはゴブリンとかホーンラビットとかしか魔物はいないし、参考にならないんだよな。
どうかんがえてもゴブリンが強いわけないし、ホーンラビットも同様だ。
まあここらへんは町でいろいろ調査すればいいかな、時間はいくらでもある。
たぶん冒険者ギルドみたいなところがあると思うし、そこでなら情報収集できるはずだ。
「よし、移動はここまでで良い。あんまり近づくと部隊が襲われるから、一旦解散な」
その後は適当な場所で狩りをしているように頼み、別行動となった。
さすがに人里まであと1kmも無いし、これ以上は無理だ。
あばよわんわん、また明日な……
それからしばらくは道なりに歩を進めた。
既に攻略本は消しておりマップが使えない状態だが、もう町が見えてるからどうということもない。
あの本は俺の手で持つと大きすぎるため、いつも浮かせて使っていたので他人に見られると厄介なのだ。
俺から奪おうとする奴も出てきそうな予感がするので、しばらくは様子見をする。
「……で、ここが町の門か。けっこうしっかりとした造りだなー」
実際に着いてみたら結構でかい町だったようだ、門番さんも装備がちゃんとしてる。
ここはまず素通りしてみよう、向こうもこちらに気づいているが、もしかしたら何事もなく通行できるかもしれない。
こう、気配を消してスッと……
ススス……
「こら、そこのガキんちょは何をしている。バレバレだぞ……」
全然ダメでした。
横を通過しようとしたら余裕で捕まり、ひょいっと持ち上げられている。
でも足元がブラブラしててちょっと楽しい。
「ごめんなさい、おじちゃん」
「まったく、どうやって町から抜け出したんだ?外の森には魔物もいるんだから気をつけろ」
ふむ、どうやら町の人間と勘違いされたようだ。
これは好都合。
「森には入ってないよ、そこの道にキノコが生えてたからとってたんだ」
大嘘こいた。
だが信ぴょう性はあるハズ、なぜなら収納スキルで取り出したキノッピが、今の俺の手元にあるから。
「ムッ!? そ、それはキノッピか……!?」
「そうだよ。でも詳しい場所は秘密ね、明日も取るから」
場所がバレたら嘘がバレちゃうから教えない。
「ウゥム…… まさかあの街道にここまで立派な物が生えているとはな。だが森に入っていないなら大した危険もないだろう、弱い魔物はよっぽどのことがないと人里には近づかないからな」
そうなのか、初めて知った。
まあでも近づいたら退治されるんだし、そりゃそうでもある。
「うん、だからまた明日も取りに行くつもり。おじさんにも1キノッピあげるからこのことは内緒ね?」
「ほんとか!? し、しかたあるまい、子供に通行証を求めても持っているはずがないからな。ここは通行料として1キノッピで許す。……じゅるり」
なんやおっちゃん、1キノッピでいいんか?
俺の所持キノッピは12キノッピだぞ、たわいない。
「じゃあこの茶色いのあげるよ。……はいっ」
「うむ、確かに受け取った。通ってよし!!」
いまさらビシッと決めても無駄だぞ、もうおっちゃんの威厳はない。
そうしてワイロを受け取った門番を素通りし、町の中に入ってきた。
町の中は武器屋や道具屋のような看板を掲げた店、その他さまざまな施設が立ち並んだ壮大な光景が広がっていた。
ここがどこの国かしらないが、ファンタジーしてるなあ。
とりあえず、キノッピは道具屋か冒険者ギルドで買い取ってもらえそうだけど、どうするかな。
まあ一番近くに見えるのが道具屋だし、道具屋でいいか。
それじゃ、おじゃまします。
「すみませーん…… おろ?」
なんだが店内が騒がしい、誰か先客がいるのかな?
「お嬢ちゃん、それじゃさすがにポーションは売れねぇよ」
「なんでよ!! 私はちゃんと対価を払うっていってるでしょ!」
道具屋に入ると、小さな女の子と店の店主が既に交渉をしていたようだ。
これは失礼した、順番はちゃんとま守らないとね。
そもそもこっちに気づいてないみたけど。
「対価っていってもなあ…… 出世払いでお願いなんて言われても無理だ。それにお嬢ちゃん見た感じまだ5,6歳じゃねぇか。お母さんはどうした?」
いやいや、出世払いは無理だろ。
この女の子の常識はなにかがズレているようだ。
「いや、それはさすがに無理だろ」
「なんで!?」
やばい、つい口に出てしまった。
女の子がめっちゃ睨んできている。
さて、どうしたものか…まあ無難に説明するのがいいかな。
「まず君には信用がないからだ。出世払いということは、自分が自立したときに約束を守るという信用が必要なんだよ。君は見たところまだ子供、とても信用に値する条件が足りないんだ」
「おう、ボウズわかってるじゃねぇか!」
「信用…… 約束……」
ゴリマッチョの店主がうなずき、女の子が落ち込んでしまった。
うーん、なんか可哀そうなことしちゃったかな。
しかたない、ここは一肌脱いであげよう。
門番さえ丸め込んだキノコの力を発揮する時がきたようだ。
「で、物は相談なんだけど。そのポーションっていうのはどのくらいの価値があるの?もしよかったらキノッピと交換してよ」
「えっ!?」
女の子も元気になって驚いてるけど、俺は出世払いを考えた君に驚きだよ。
「む? そうだなあ、今お嬢ちゃんに頼まれてたポーションだと、だいたい3キノッピってところか。だがあのキノッピってのは相当高価なものでな、1つ金貨1枚はするぞ? ボウズが持ってるのは本物なのか?」
なん、だと……
金貨一枚ってそれはやばい。
この世界の金貨なんて、日本円にしたら1枚で10万円する大金だぞ…
しかもこのキノコ1日で30個生えてきたんだが…
ちなみに銀貨は1万円くらいで銅貨は100円である。
だが、大見栄切った以上はやるしかあるまい。
「はい、とりあえず3キノッピ。色はなんでもいいよね?」
「ほう、どれどれ ……なっ!?」
店主の顔が驚きで固まった。




