ゼリリン、オーシャルちゃんを餌に釣りをする
受付嬢さんにS級依頼を受理してもらったので、さっそく竜退治へと向かう事にした。
依頼の内容は大まかに言えば討伐だが、細かく言えばドラゴンの素材が目当てだったりする。
ギルドへブラックドラゴンの爪をいくつか納品すれば依頼達成で、他の部位は個人の所有物として認められるという条件だ。
爪は討伐の証明みたいな物だね。
俺は魔物図鑑に各部位をコンプリートしたいので、この条件は結構助かる。
また、ドラゴンは巨大で力も大きい事から、果たしていつものように10匹分も登録が必要なのかも気になる所だしね。
もしかしたら余った爪や牙、角なんかのいずれかでコンプリートが済んでしまうかもしれない。
「わくわくする」
「お姉ちゃんも」
ちなみにブラックドラゴンさんの居場所は、町から少し離れた山にたまに現れるらしい。
この、たまに現れる、というのはあくまでも昔はそうだったという事であり、今はどうか分からない。
まあ気分屋らしいので、居なかったらそのまま帰る予定である。
「くふふ、私もですよチビッ子。あの憎き黒竜族をめっためたに出来る日が来ようとは、光竜族冥利に尽きます」
「めずらしくオーシャルちゃんがやる気だ」
なんでも、光竜族にとって黒竜というのは気に入らない種族の筆頭らしく、数分一緒にいるだけでブチ切れるくらい相性が悪いとの事。
しょうじきゼリリンには関係のない話なのだが、本人がやる気らしいので頑張ってもらうことにする。
がんばれオーシャルちゃん。
そしてそんな事を考えながら向かっていると、ようやく依頼にあった山へとやってきた。
周りの木々から、いかにもそれっぽい黒い魔力を感じる事から、たまに訪れるという噂に真実味が増してくる。
「……これはっ!? 強烈に感じとれますよ奴の邪気をっ! クフフッ、すでに血管が切れそうなくらいイラッとしますっ」
「おちつきたまえ、まだドラゴンさんは何もしていない」
「お姉ちゃん、この子が心配になってきたかもしれない」
オーシャルちゃんが突如として騒ぎ始めた。
まさか本当に、お互いの魔力だけで喧嘩になるほど相性が悪いとは、めんどくさい種族である。
だけど、逆に言えばオーシャルちゃんがここに居ることで、ブラックドラゴンさんの方も同じようにイラッとしてくるはずだ。
自分の縄張りに攻め入られたと勘違いしてきそうだし、逆に黒竜ホイホイとして重宝するかもしれない。
「いいぞ。オーシャルちゃんがここまで役に立つなんて、ゼリリンの計算外だ」
「任せなさいチビッ子。私だけの力でも、きゃつを木っ端みじんにしてみせますよ」
「いや、こっぱみじんはダメだ」
そもそも、木っ端みじんにしたら素材が入手できないからNGだよ。
第一目標は討伐だが、爪などの素材入手が条件という事を忘れてはいけない。
「まあ、やみくもに探しても見つからないだろうし、しばらくはここら辺に座って様子を見よう」
黒竜釣りの開始だ。
◇
─1時間後。
あれからしばらく、ときたま激しい衝動に駆られて暴れ出そうとするダメドラゴンを宥め、キノッピで気を紛らわせていると、森に変化があった。
さきほどまであったどんよりとした魔力がさらに濃くなり、周囲の影が少しだけ暗くなったように見える。
もしかしたら、ようやくお出ましなのかもしれない。
「きたか」
「お姉ちゃん、ちょっと緊張してきた」
「来ますよっ! 間違いなく奴が来ますっ! しかもこの魔力の放出量は、私が居ると知りながら挑発する意味合いも込められているんですよっ! キッー!!」
なるほど。
やはり向こうもこちらに気づいていたようだ。
釣りは大成功である。
すると、急に目の前の空間が歪み、木々の影から一人の男性が現れた。
見た目は黒いローブを羽織った黒髪の人間で、頭などに漆黒の角が見られる。
これはおそらく、ブラックドラゴンの人間擬態なのだろう。
となりに居る光竜族も同じ事してるしね。
「出ましたね偏屈黒竜っ! この私を挑発して、タダで済むと思っているのですかっ!?」
「……我が住処に曲者が侵入したから何事かと思えば、ガキが2匹と成人前の白竜が一匹か。期待外れだな」
「なにをーっ!?」
すごく冷静な黒竜さんだった。
同じ力を持ったドラゴン同士なのに、どうみてもオーシャルちゃんに勝ち目があるように見えないのが不思議だ。
まあ、とりあえず挨拶しよう。
「やぁドラゴンさん、ギルドの依頼で勝負を挑みにきたゼリリンだよ」
「……ほう? この私の魔力を前にしても動揺しないとは、たいしたガキだな。ふむ、これは良い土産になるかもしれん」
「ちがうぞ、ゼリリンはお土産ではない」
なぜかお土産の話に会話がシフトした。
このドラゴンさんは旅行中なのだろうか?
だとしたらここで出会えたのは運がいいな。
「いや、何も違わない。俺が土産にすると決めれば、そいつはどうあがいても土産なのだ。お前のような新鮮な生け贄を持ち帰れば、魔王の奴も喜ぶことだろう」
「ぜりっ?」
どうやら知り合いというのは魔王さんだったらしい。
公国の王女ちゃんに寄生してた魔王蟲ベルゼブブさんみたいに、俺と同じ種族魔王なのだろうか。
向こうの都合がいい日に一度会ってみたいな、新しい友達が増えるかもしれない。




