ゼリリン、受付嬢さんに説明する
S級クエストを見つけたレナ姉ちゃんがやけにやる気なので、きっと俺と2人で竜に勝てると思っているのだろう。
確かにゼリリンならドラゴンにも勝てるけど、10歳と7歳で挑もうとはすごい度胸である。
「じゃあ、これにするの?」
「うん。ゼリルンの力を使えばよゆう」
という事らしい。
物凄く期待されているので、頑張らなくちゃね。
とりあえず受付嬢さんに依頼を提出してこよう。
「おねえさーん」
「……あれ、どうしたのボク? お姉ちゃんと迷子になっちゃったのかな?」
「違うよ、依頼を受けにきたんだ」
そういって俺たちのギルドカードを見せる。
俺も姉ちゃんもC級冒険者なので、これで舐められる事はないだろう。
もしかしたらこの歳でC級なんて驚かれるかもしれないな、このランクはベテランといっても差し支えが無い強さを表すものだし。
「……これはっ!?」
「やっぱり驚いた」
受け取ったカードを見て、受付嬢さんがぷるぷると震えだした。
かねがね予想通りである。
「まさか、領主様のご子息がいらっしゃっていたとはつゆ知らず、ご無礼をお許しくださいっ」
「そっちだったか」
「わたしとセリルは気にしてないから、顔をおあげなさい」
「は、はひっ」
どうやら冒険者ランクではなく、男爵家の肩書にビビっていただけらしい。
まあこの辺り一帯を治める領主の子供だからね、こんなものだろう。
それにしても、レナ姉ちゃんの対応に謎のカリスマを感じる。
どこでこんなやり取りを覚えて来たのだろうか、あいかわらず謎が多い。
もしかしたら王都の学校でも、毎日こんな感じで過ごしているのかもしれないな。
クラスの人からは「闇の戦鬼レナ」と「天才ルー」って呼ばれていたし、子供達の羨望を集めるカリスマ的存在なのだろう。
いいな、俺もクラスの人たちから凄い名前で呼ばれたい。
「うーむ」
「大丈夫、お姉ちゃんはセリルが凄いのを知ってるから」
そっか、ならいいや。
それにしても俺の表情だけで悩みを理解するとは、相変わらずエスパーな姉ちゃんだ。
「そ、それでセリル様とレナ様はどのような依頼をお受けに? お、オススメはこのファンキーラビット討伐ですっ! 危険度も少なく、お小遣い稼ぎにもなりますよっ」
「依頼はもうえらんだ。これの受理をおねがいします」
「は、はひっ」
受付嬢さんも必死だな、もうちょっと落ち着いて対応してくれればいいのに。
まあいくらロックナー家が領民に優しい領主だと言っても、一般人から見れば雲の上の存在なんだろうし、緊張しちゃうのも分かるけどね。
「あら、ずいぶん前の依頼ですね。えーっと、この依頼は確か、……、……」
「えへへ、楽しみだねセリル」
「うむ」
確かに、楽しみではある。
依頼の内容はブラックドラゴン、所謂黒竜討伐というものなのだが、まだ竜種と戦った経験はないので、魔物図鑑の報酬が何になるか気になっていたり。
それにしても受付嬢さんがなかなか反応してくれないな、どうしたのだろうか。
依頼書をみてぷるぷる震えだしちゃったし、まさかもう依頼の期限が過ぎているのだろうか。
そうだったらちょっと残念だ、せっかくのS級依頼なのに。
「え、えすきゅっ」
「S級だね」
「え、えすっ、えすきゅう依頼っ!!?」
うむ。
やっと再起動してくれたらしい。
「今回はその依頼を受ける事にしたんだ」
「そんなっ、こんな危険な依頼を受理する訳にはいきませんっ!」
「そこをなんとか」
「なんともなりませんっ!」
なんでだ、ギルドの依頼に制限はなかったはずだぞ。
いくら俺たちの見た目が子供でも、C級冒険者としての実績があるはずだし、なによりS級以上の依頼は失敗してもそこまで評価に関わらなかったはずだ。
なぜならS級以上の依頼というのは緊急性のあるものではなく、自信のある人は参加してねっていうチャレンジモードなのである。
引退間近になった老兵なんかがS級依頼を記念にやって、ダメそうだったら帰ってくるなんていうのもザラだ。
そもそも、こんなド田舎でブラックドラゴンなんていうのが本気で襲ってきたら、ロックナー領どころか他の領地まで一緒に壊滅だろうし、ギルドも本気で依頼している訳じゃない。
基本的に、ギルドを訪問した依頼主側も「ダメ元で依頼を出してみた」程度なのだろうしね。
「なんともならないの?」
「な、なりませんっ」
「それはおかしい」
「……うっ」
ここはアレだ、貴族パワーを使おう。
「A級依頼ならC級である僕たちが受けても背伸びで済むだろうし、S級なら記念依頼として受理されるはずだ」
「うっ!?」
「もしここで受理を断るというのなら、僕たちも出るとこ出るしかなくなるかな」
「ううぅ、……ぐすっ。わ、分かりました、受理しますぅっ」
受付嬢さんが不貞腐れてしまった。
ゼリリンはなにも悪い事をしていないのに、なぜなんだ。
そうだ、ここは少し慰めておこう。
「でも、受付嬢さんが止めてくれたのは称賛に値する。そういう心根を持った人がギルドに居てくれれば、きっとみんなも安心できるはずだ」
「えっ!」
「このことは父ちゃんと母ちゃんにも伝えておこう」
「あ、ありがたき幸せっ!!」
あいかわらず大げさな受付嬢さんだ。
だが、なにはともあれ機嫌は直ったようなので良しとする。
「さすがセリル、いとも簡単にお姉ちゃんに出来ない事をやってのける」
「それほどでもないよ」
さて、それではさっそく黒竜退治といきますか。
白竜系統である光竜のオーシャルちゃんと対を成す黒竜だが、俺が砂漠で彼女の本気を見た感じでは、S級くらいの実力はあったので負けることは無いだろう。




