ゼリリン、コソコソと話しかける
ルゥルゥを回収後、キノッピ畑へと舞い戻ってきた俺は、ドラゴン形態となったオーシャルちゃんの背中に乗って砂漠の町へと向かっていた。
今回の商談ではゼリリンにしか作れないヒールスラタロ.Jrが商品に加わるほか、噂の魔導幼女らしき犯人も連れてきている事から、以前のような失敗には終わらないだろうと判断している。
バザーですらガラクタ魔道具があれだけ人気だったんだ、きっとお館様もスラタロの価値を分かってくれるに違いない。
それと、今回はオーシャルちゃんをドラゴン形態の状態で竜光魔法を使ってもらっているので、姿を隠したまま町の中に入る事が可能だ。
いちいち門番さんを通してたら怪しまれるからね、ここらへんは誤魔化していこう。
「よし、だいたいお城の頭上まで来たから、ここらへんで一回飛び降りよう」
「えっ!? 私はいいですけど、チビッ子はどうするんですか? あぶないですよ?」
「ゼリリンならできる」
俺はスライム形態になれば数百メートル上空からでも無傷で着地できるので、高さ的には問題ないのだ。
まあ、あんまり高いようだったらゼリリンボードを使うまでだしね。
「僕はジャンプは得意なんだ」
「得意とかいう次元なんですかっ!? ここかなり高いですよっ!? ……はっ!? そういえば空飛ぶ剣を持ってましたね、納得です」
「じゃ、そういう事で」
「ラジャーッ!」
そしてオーシャルちゃんが人間形態に戻り、そのまま落下していくことに。
「って、チビッ子がそのまま落下しちゃってるぅううっ!? はわわわっ! どうしよう、チビッ子殺人事件っ!?」
「おちつくんだ、僕はへいきだ」
こうして、ちょっと体を柔らかくして、ぷにぷにっと……。
くらぇっ!
これがゼリリンダイブだっ!
「ビヨーン」
「チビッ子が跳ねたっ!?」
そう、体をスライムみたいにすることで衝撃を緩和し、ゴムボールのようにポンポン跳ね回っているのである。
これはゼリリンのスライム形態であると同時に、最大の耐久性能を誇る形態でもあるのだ。
それから一通り跳ね回ったあと、少しずつ衝撃が少なくなっていき、普通に着地した。
「シュタッ!」
「す、すごい……」
うむ。
ちなみにオーシャルちゃんは人間形態でも多少の浮遊が可能なようで、ゆっくりと降りていくことくらいはできたようだ。
「まあなにはともあれ、無事着地できたのでお館様の所に忍び込もう。ここは屋上っぽいから、てきとうに中へ入ればさっきの部屋につくはず」
「なぜ分かるんですか?」
「だいたい偉い人は建物の頂上にいるからだ」
だいたいそんな感じである。
「チビッ子は何でも知ってますね、タダ者じゃありません」
「これくらいは余裕かな」
むしろ普通の人間ならだれでもそう思うくらいに余裕だ。
屋上から部屋の中を覗いてみると道は一本のようだし、たぶん迷うこともないだろう。
てきとうに歩いていればばったり出くわすはずだ。
「それじゃ、ゴソゴソっと」
「ゴソゴソ」
衛兵さんに見つからないように慎重に捜索していくこと数分、予想通り金ぴかの部屋が見つかった。
正規のルートを辿ってきていないので、さきほどの衛兵さんが案内してくれた扉のような場所ではなく、部屋の窓際らしきところに到着したようだ。
ピンク髪をしたお姉さんことお館様の後ろ姿も見えるし、ここで間違いないだろう。
いきなり声を掛けると驚くだろうし、ススッと部屋に入ろう。
俺は配慮を怠らないゼリリンなのだ。
「ススッ」
「スススッ」
オーシャルちゃんも空気を読んでいる。
もしかしたら、もうダメドラゴンじゃなくなったのかもしれない。
「……む? ……なにかただならぬ気配が」
なにっ、ゼリリンステルスが見破られかけただと。
まだ門番さんと公国の王女ちゃんにしかバレたことがないのに、さすがに手ごわい。
ちなみに使った事があるのも門番さんと公国の王女ちゃんだけである。
しかし感づかれたとなると幸先はよくない、ここはあえて声をかけるべきか?
……ええい、ままよ!
こっそり話しかけてやるっ!
「(やぁ、商談にきたゼリリンだよ)」
「(同じくオーシャルです)」
お姉さんの耳にコソコソっと喋りかける。
これも驚かせないようにする工夫だ。
「ぴぎゃぁぁぁああああああっ!?」
「ぬわぁああああああっ!?」
「ぎゃぁぁあああああっ!?」
なんだっ!?
敵襲かっ!?
「キ、キキキサマラどこから入ってきたっ!? どこからぁーっ!」
「後ろの窓からだよ」
「復讐かっ、さっきの復讐なのかっ!?」
「ちがうよ、商談にきたんだよ」
なんだ、復讐しにきたと勘違いしたのか。
それはビックリするよね。
「嘘をつけぇっ!! え、衛兵、であえーっ! であ……むぐぅ」
ピンクのお姉さんが敵襲と勘違いして衛兵を呼びそうだったので、口を押さえた。
いらぬ誤解をかけられるのはまずい。
ここは冷静に誤解をとくために、まずは話し合いから始めなくてはいけないな。
「いいかい、僕はただ商談をしに来ただけなんだ。もしお姉さんにその気があれば有益な情報と商品を提供できるから、静かにしてくれる?」
「むぐっ! むぐっ!」
よし、頷いてくれた。
やっぱり何事も話し合いが肝心だ。
それじゃ、ルゥルゥをここに引っ張り出して商談開始といこうかな。
なにはともあれ、すべて計画通りである。
特にお姉さんが快く同意してくれたのが大きい。




