ゼリリン、人里へ向かう
稽古開始5分でダウンし、ものの見事に打ちのめされた俺に父ちゃんが声を掛けて来た。
もうスタミナは全回復してるんだけどね、ゼリー細胞侮りがたし。
「ふむ、身体能力が高いと思っていたが、まさかこれほどとはな。セリル、お前5分間ほとんど呼吸してなかっただろ?」
「うーん、どうだったかな?」
本当のことを言えば「ほとんど」ではなく、「ずっと」呼吸してなかったんだけど。
魔王種のスペックを頼りにして、全力攻撃を5分間ずっと続けていたわけだ。
さすがに疲れたが、それでも元騎士団員には敵わなかった。
この父ちゃんすら超える家庭教師の冒険者っていうのはどんななんだろうな、すごく気になるになる。
まさにファンタジ―世界恐るべしだ。
「セリルすごいねー? お姉ちゃんびっくりした」
「うむ、これはセリルの事も家庭教師に見てもらった方がいいかもしれなんな。レナといいお前と言い、うちの子供たちは優秀だなぁ! ハッハッハッ!」
どうやら俺にも家庭教師がつくらしい。
…だが、言っては何だが経済的に大丈夫なのだろうか。
田舎の男爵家にそこまでの余裕があるとは思えないのだが。
「……む?なんだその顔は、もしかしてうちの余裕を気にしているのか?」
めっちゃ気にしてる。
「うん、でもうちお金ないよね?」
「……子供がそんなことを気にするな。そもそも、知り合いの伝手で個人的に依頼した冒険者だからな。面倒をみるのが一人から二人になったところで大差はあるまい」
そういうことのようだ。
だが、これなら大丈夫だろう。
伝手で雇うなんてまるで貴族みたいだな…貴族だけど。
それからの稽古はレナ姉ちゃんと父ちゃんの試合を見学していた。
さすがにまだ6歳の子供なだけあって、すぐにバテるし動きもイマイチだったが、ふとしたタイミングで視界から居なくなる技術には驚いた。
いや、視界から消えるというよりは、意識から外れるといった方が正しいかな。
これは師匠の父ちゃん曰く、隠密に長けたアサシンの動きにそっくりだそうで、人間の予想している動きから外れた行動によって一瞬だけ意識の外側に潜り込む技術のようだ。
いわゆる「あれっ!?お前いたの気づかなかった…」状態である。
とんでもないなレナ姉ちゃん、まあ知ってたけど。
俺は何度も背後を取られてるからな。
そして模擬戦が終わったあとは素振りの練習をして午前は終わった。
それじゃ、今日も迷宮にいくとしますか。
キノッピ達がどのくらい繁殖しているのか楽しみだ。
◇
土のダンジョンへとやってきた。
やってきたのは良いんだが、俺は今戦慄している。
どう戦慄しているかというと、こういうことだ。
「キノッピたちが…… 増えすぎた……」
そう、繁殖用に植えておいたキノッピ達が増えすぎていたのだ。
せいぜい植えた数の2倍くらいになっていればいいかなと思っていたのだが、そんなことはなかった。
元の数の5倍くらいになっていたのである。
それぞれ一種類ずつで6個だったものが、5倍で30個……
とんでもない数だ、さすが迷宮の魔力。
いまも7世代目のキノッピが子供として誕生している。
ちなみにこのキノコは大きさは30cmほどで、松茸の1.5倍くらいなのだが…
この数を食うのは時間がかかりそうだ。
食べた物を魔力に変換できる俺だからこそ食べきれるが、普通の人はまず無理だろう。
ここは6種類1セットだけ食べて、2セットくらいは近くの町とかに流した方がいいかもしれないな。
データベースさんの情報によれば高額で買い取りされるらしいし、俺の将来の軍資金にしようと思う。
「とりあえず食べてみるか…わんわんは要らないみたいだし」
ウルフたちはこのキノコに興味がないようで、いまも尻尾を振って俺の前に整列している。
まあこれ食べて能力が上がりそうなのは俺だけだからね、さすがに魔物基準では逆に量が少なすぎるだろう。
「もぐもぐ…… うん、うまい。ポーションの材料になるっていってたけど、そのまま料理にも使われるのかもしれないな。色で味も違うみたいだし」
意外と、結構おいしかった。
焼いて食べてるわけではなのだが、既に味付けがされているかのようなキノコらしく、とてもうまい。
赤色はウインナーのような味で、黄色はみかん味、黒はチョコ味だ。
なぜこのキノコがこのような味をしているのか、俺には全く分からない。
なにがどうなっているのかさっぱりだ。
「だけど、一口食べるごとに力がみなぎってくるのが分かる。これを毎日食べ続けてたら凄い事になりそうだなー」
いまも体がポカポカする感覚があるし、DPでキノッピを購入したのは大正解のようだった。
…その後キノコ食事会から1時間、1セットを食べつくしたので町へ向かうことにした。
これがどのくらいで売れるのかは知らないが、買い叩かれたとしても毎日増えるキノコだ。
売れるだけうっちゃえばいいだろうと思う。
「よし! わんわん、今日は町のほうにいくぞ。途中まで俺を連れていってくれ」
「グォンッ!」
町に接近しすぎるとわんわんが退治されちゃうだろうし、途中までがベストだ。
門番がいたら、間違えて外にでちゃったとか言えばいいだろうと思っている。
なにせ子供だからな、3歳児が他の町から徒歩でやってきたなどとは思うまい。
いざ、未踏の地へ!
レッツゴーわんわん!
…あ、先にキノコ収納しとかなきゃ。




