ゼリリン、ご飯の時間になる
謎の衛兵さんに連行されること数十分、辺境の町にしてはずいぶんと立派な建物に辿り着いた。
周りの土地が砂漠であるが故に、木材ではなく石などを加工して作られた家なのでお城みたいな雰囲気だ。
ここにお館様がいるのだろうか、気になる。
すると、ここまで連れてきた衛兵さんが、城の門番に俺たちを連れてきた理由を説明した。
「報告にあった子供を連れてきた。ついでに竜人の娘もくっついてきたが、まあ付き添いみたいなものだろう」
「失礼ですね、竜人とはなんですか竜人とは。私はあんな半端者じゃないですよ、れっきとした光竜族の姫です、偉いんですよ?」
オーシャルちゃんが偉そうにしているけど、そういうのは、駄目ドラゴンを卒業してからにしてほしい。
駄目ドラゴンのままでは姫を名乗らせる訳にもいかないし、ここは俺がフォローしてあげよう。
ついでに言えば、ここで正体をバラすとお館様に警戒されてしまうかもしれないので、それを避けるためにもフォローは一石二鳥だったりする。
「いや、それはまちがいだ。このダメッ子はただの付き添いだよ」
「チビッ子に否定されたっ!? もうだめです、おしまいです……」
おしまいじゃないよ、ここからだよ。
熱くなれよ。
キノッピボーナスも確定してるんだしさ。
「関係ないけど、さっきのバザーの売り上げがよかったから、報酬に2キノッピ追加しとくね」
「さすがチビッ子! 私は信じてましたよっ、さすチビ!!」
「……ばかにされた気がする」
俺はさすチビではない、魔王ゼリリンだ。
魔法とかすごいんだぞ。
その後、俺とオーシャルちゃんが報酬のやり取りをしている間に衛兵さんも準備が整ったようで、ついにお館様とやらのところに案内されることになった。
いったい何用だろうか。
「いいかチビ、お館様はすげぇ怖えんだ、前みたいな粗相はするんじゃないぞ」
前とはいったい。
「いや、僕はここに来るのは初めてだよ。今日は散歩がてらに観光で来たんだ」
「ハッハッハッ! 相変わらずすぐに逃げようとするチビだなっ! 噂は聞いているぞ、前も空間魔法でお館様の逆鱗から逃げおおせたようじゃないか。それにこんな砂漠を散歩なんてしてたらモンスターに食われちまう、バレバレな嘘はやめとけ」
「ぜりっ?」
あれ、すぐに逃げるチビっていう単語にどこか思い当たる節があるぞ。
なんだっけな、思い出せない。
それにしても前に来たチビッ子が何をやらかしたか知らないが、いい迷惑だな。
俺はただ無許可でバザーを開いていただけなのに、あんまりだ。
そして衛兵さんと一緒に重厚な扉の前まで辿り着いた。
「ついたぞ」
「おお、豪華絢爛だ」
「すごい悪趣味ですね、ちょっとドン引きです」
なんかここらへんだけ全てが金ぴかだ、つるつるしている。
これだけ金ぴかだと、お金持ちなのは間違いないな、もしいい人だったらスラタロ.Jrの取引先とかに使えそうだ。
「お館様、例の空間魔法を使うチビを連れてまいりました」
「……報告は聞いている、入れ」
「うむ、うむ。町の規模も考えて、スラタロ20匹は堅いかな。……しかし町のこれからの発展を考えるとさらに10匹追加しておくべきか」
「さっきから何をブツブツ言っているんですかチビッ子。そんなにかっこつけても無駄ですよ、どうせ逃げる算段ですよね? 私にはわかります」
全然ちがうぞ。
商売しようとしてるのに、逃げたらダメじゃないか。
これだからダメドラゴンは……。
それから衛兵さんが一歩下がったところで俺たちを中へと促し、2人共部屋に入った所で扉が閉められた。
中から聞こえた声は結構若かったけど、いったいどんな人なのだろうか。
まあとりあえず挨拶をしようか、コミュニケーションは商売の基本だ。
「どうも、この町につい先日やってきたゼリリンだよ。主にスライムと魔道具の商売を中心に事業を展開してたりしてなかったり。最近開発されたのはエクリサースライムっていうすごいスライムで、すごい回復魔法が使えるんだ」
「………」
あれ、返事が返ってこない。
目の前は薄いカーテンみたいな布で覆われて姿が見えないけど、スライムには興味がなかったのかな?
あ、もしかしたらエリクサースライムを信じていないのかもしれない。
きっとそうだ。
「エリクサースライムは本当に僕が作ったんだ。いまは僕の拠点で仕事中だけど、必要なら連れてくるよ。ただ、あんまり使い過ぎるとしおしおになっちゃうから、回復も匙加減が重要だったりする」
「……おい」
「ぜりっ?」
「……誰だお前は」
「観光目的のゼリリンだよ」
自分で呼びつけておいて、誰だとは失礼だな。
俺はちゃんと自己紹介したのに。
それにそっちこそ誰なんだ、声は若い女性っぽいけど。
「あ、そうだ。こういってはなんだけど、さっきバザーで売ってた魔道具もオススメだよ。ちょっと大きいけど、これなんか水を氷に変える魔道具なんだ。熱い砂漠にはピッタリの商品だったりする。……それっ」
「……むっ? 何もない所から魔道具を取り出しただと? ……ハッ!? 分かったぞ、さては貴様、あの魔導幼女の仲間だろうっ!! よくもヘンテコな魔道具でワタシを騙してくれたなっ!! 許さないぞ、絶対にだ!!」
なんか急に怒り出した。
あんまり怒ると体に悪いよ。
あ、それともうそろそろご飯の時間だな。
まだ交渉の途中だけど、帰らなきゃ。
「プププッ、チビッ子が怒られてます」
「そこに直れぃっ! この怒りどうしてくれようか」
「怒ると体に悪いよ」
「フッ、逃げようとしても無駄だ。この空間は空間魔法の遮断結界が張られているっ!」
そういって天幕の中から出てきたのは、濃いピンク色の髪の毛をした褐色のお姉さんだった。
ふむ、それにしてもこの無駄に豪華な金ぴか部屋は魔導結界による物だったのか、ごくろうな事である。
「あ、そろそろ帰らないと母ちゃんに怒られちゃう」
「なにをたわけた事をっ!」
「またお昼過ぎに来るから、話はその時で。じゃあまたね、……収納っ!」
うむ、問題なく収納できそうだ、これは空間魔法じゃなくて迷宮スキルなので余裕である。
ついでにオーシャルちゃん方向に3キノッピを投げつけておいたので、これで午前の契約は完了だな。
「……な、バカなっ!?」
「やっぱりチビッ子が逃げたっ!? ……ハッ!? 私も逃げなくてはっ!」
グッバイお姉さん。




