ゼリリン、キノッピ畑の侵入者と遭遇する
新章突入しました
ロックナー領へ帰ってきてから翌日、俺は家族と一緒に朝食をとっていた。
朝の話題は俺の行った商売のことで持ち切りであり、今も父ちゃんなんかはご飯も食べずに質問攻めをしてきている。
昨日からずっとスラタロ.Jrを欲しがっているので、今日中にスラタロを分裂させてスラタロ.Jrを作っておこうかな。
「それでお前、父さんの分はいつ作ってくれるんだ? 回復魔法を覚えたスライムなんて物凄い価値があるぞっ! もしレナが譲ってくれるならそれでもいいのだがな」
「えー、お父さんもゼリタロウ欲しいの? でもゼリタロウは友達だからあげないよ?」
「う、うむ。聞いてみただけだ」
どうやらただのスラタロ.Jrではなく、回復魔法を覚えたヒールの方が欲しいみたいだ。
でもどうしようかなー、もうポーションもお金もあんまりないし、ぽんぽん作れるわけでもないんだよね。
ただのスライムならいくらでも作れるけど。
「ちなみにスラタロ.Jrはポーションがないとヒールスライムにはならないよ」
「なにっ!? そ、そうなのか……」
「うん。それといま実験に成功しているのはメタルとヒールとジャスミンだね。一番よく売れるのはヒールスライムだよ」
メタルは鑑賞用、ヒールは回復、ジャスミンは香りだ。
ステータス的にはメタルが一番強いのだが、しょせんはスライムなので誤差の範囲だったりする。
とはいっても駆け出し冒険者くらいの力はあるようなので、安値で売れたり売れなかったり。
「ヒール一択だな。これでも父さんは元騎士であり、この領地を守る領主だ。いつ敵と戦い負傷するかもわからんし、もしかしたら一つや二つでは足らないかもしれない」
「ふーんそうなんだ」
「そうだ」
そうらしい。
でもいっぱい作るのはお金が足りないな。
「……あらあら。あなたまさか、セリルのスライムを売るつもりじゃありませんよね? やけに一番売れるスライムに食いつきますし」
「ち、ちがうぞっ!? 俺は本当に領地の事を考えて……」
「あら? 顔がニヤついてますよあなた」
「しまったっ!?」
「ぜりっ?」
父ちゃんは俺の作ったスラタロを売りさばくつもりだったようだ。
でもそれもアリっちゃアリかもしれない、俺はカジノの経営とかでいろいろと忙しいし、まだまだやる事が多くて時間が足りない。
それならばいっそのこと、スライムショップのお手伝いをしてもらってもいいかなと思う。
うちが儲かれば、夏休み中に出てくる毎日のご飯も潤うのだ。
これはゼリリン的には重要な事だったりする。
「別にスライムショップを開く分には構わないよ。スライムはいくらでも増えるからね」
ただあんまり多くつくっても、田舎だから売れないとは思うけどね。
「ほんとかっ!? よし、それならさっそくポーションを買ってこよう。確か町でいくつか売っていたはずだ」
「じゃあそういう事で」
かくして、スライムショップ計画が立ち上がった。
それじゃ、そろそろご飯も食べ終わるし、俺は森にお散歩へ行こう。
◇
お昼ごはんを食べ終わった俺は、7歳までいつも転移に使っていた森にやって来ていた。
今日はリグを連れてきてはおらず、一人だけだ。
リグは母ちゃんに、「淑女たる者、料理や裁縫なども学ばねば立派なお嫁さんにはなれません」とかなんとか言われて、現在修行中らしい。
結婚相手が決まったらぜひ俺も呼んでほしい、その時は世界中から関係者を集めて盛大に祝ってあげよう。
「ということで、収納っ!」
恒例の白い空間へとやってきた。
相変わらずコアがある以外は真っ白だ。
「さてさて、今日も土の迷宮でキノッピの回収といこうかな」
以前の土の迷宮はパチュルに滅ぼされてしまったが、次のキノッピ畑である土の迷宮は砂漠地帯にあるが故に人がいない。
……つまり壊される心配がないのだ。
よって、いつも安心してキノッピを回収できるという訳である。
そして土の迷宮に降り立つと、予想通り素晴らしいキノッピ達が群生していた。
うむ、今日も今日とて元気なキノコ達だ。
「どれ、一つ味見を。……もぐもぐ」
なかなかおいしい。
俺の一番の好みである赤キノッピは筋力増加ポーションの材料になるのだが、これがまたウインナー味がしておいしいのだ。
食感はプリッとしていて、キノコのくせにジュワッと中から汁が垂れてくる、とんでもない奴である。
オリジンスキルである食いしん坊の効果で、赤キノッピを食べると筋力が増加されるようなのだが、ゼリリンの元のステータスの伸びが筋力方面には弱いので、今の所あまり成長は見込めていない。
でも毎日食べてれば少しずつでも強くなれると思うので、食べ続ける事にする。
「うーむ、キノッピを毎日独り占めできるとは、なかなか贅沢な毎日だ。だれかお腹が減っている人がいれば分けてあげたいくらいだな」
俺はやさしいゼリリンなので、少しくらいはおすそわけもするのだ。
まあでも、ここらへんに人里なんてないので、そもそも分ける相手がいないんだけどね。
とにかく、そういう心根を持つことが大事なのである。
うむ。
……もぐもぐ。
「では、わたしにもそれを分けてください。お腹が減って死にそうなんです」
すると、キノッピを食べ過ぎたのか、どこからともなく幻聴が聞こえ始めた。
妖精さんでも紛れ込んだのだろうか?
周りを見渡しても姿が見えない。
とりあえず断っておこう、これは俺のキノッピだ。
「でもこれは僕のだからなー」
「いま分けてあげたいくらいだなーって言ってたじゃないですかっ!? あれは嘘だったんですかっ!?」
「……ぜりっ!?」
肩をガクガクと揺すられているっ!?
なんだなんだ、いったいなんなんだっ、周りには誰もいないというのにっ!
「それにあなた、こんな人気のない洞窟の入り口に【ここのキノッピはゼリリンのだよ】なんて書いておいて、独占しすぎじゃないですかっ! 一個くらい、一個くらいいいでしょうっ!? 一個貰いますねっ!」
「ゼリラァァアアッ!?」
なんと、何もない空間から手が伸びてきて俺の食べていた赤キノッピを回収されてしまった。
いったい何が起こっているんだ。




