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出席番号23番


 アタシらが人を虐める理由なんて、ひとつしかないじゃん? 仲間が欲しいからだよ。分かりきったこと。

 それなのに、汐里は彼氏作って何を言っても靡かなくなったし、つーか汐里だけじゃなくて、みんなして彼氏作って色気づきやがって……何なの? クラスは37人。男子18人と女子19人……アタシ以外、全員付き合ってる。はい意味分かんない。

 先生ばっか弄ってた……見てた? バカな男共から先生がいなくなって、同級生に目がいくようになって、そんで、同級生も意外と悪くないなって感じ? ……キモッ。


 教室だろうが人前だろうが、アイツらには関係ないらしい。

 色んな場所で、平気で2人だけの世界を作って……気持ち悪い。


 彼氏なんかいらない。

 今のアタシがそんな風に言ったら、ただの負け惜しみに聞こえちゃうかも知れないけど、店をやってる家の手伝いとか家事とか、まだ幼い妹の世話とか、そんなものを隅々まできちーんとやるには、“カレシ”なんかにうつつを抜かしてる暇はないの。

 負け惜しみに聞こえるなら、聞こえれば良い。


 アタシは、アンタらとは違ってバカな暇人をやってる暇はないの。……なんてね。


 「家庭的」とか「おバカ」とか「天然」とか、好き放題な題名を自分につけて振る舞って、それに易々と騙される男どももバカだと思うけど、そんなバカな男を釣ろうと思う女もバカだよなぁと思う。

 バカ同士好きにやってろ、ってか。


 そもそも、「家庭的」って何? 女なんだから、料理出来るのが当たり前でしょ? 出来ないヤツがおかしいだけで、出来るヤツ……ううん、出来るように振る舞ってるヤツをちやほやするのは絶対おかしいと思う。て言うか、マジでムカつく。

 普段から料理だって洗濯だって何だってこなしてる私の方が、絶対「家庭的」な筈なのに……! ……ううん、私は別に良いの。私は、私を見て欲しいんじゃなくて、そう、ムカつくの。だから、


「えー、またちゅーすんの?」


「良いだろ?」


「じゃあ今度はあたしからっ」


 「ちゅー」という単語で耳が熱くなるなんて、私がそんなお子様な訳ないじゃん。そう、私はイライラしてんの。この、目の前で繰り広げられる気持ち悪い三文芝居に。


「アンタら、バカじゃないの?!」


 自分でも驚く程に、凄みのある声が出た。

 ガタン、という椅子の音。さっきより視界が高い。勢いで立ってしまったみたいだ。

 みんなが、呆けたように私を見ている。……もう、後戻りは出来ない。


「バカはバカ同士付き合ってりゃあ良いけどさ、もううんざりなんだよっ! そーゆーことしたいなら、ラブホでも行けば?」


 ラブホ、という自分の口から出た単語に竦み上がる。


「先生いなくなったのだってさぁ、結局はアタシらが悪い訳じゃん。なのに、何でこんな……」


「要するに、妬いてるだけじゃん?」


「妬いてなんか……!」


「自分だけ彼氏いないからってさ。ねー」


 同調し始めるクラス。

 私に向けられた敵意の多さに、怯みそうになる。


「アンタらはお互いしか見えてないだろうけど、外から見てたら気持ち悪いんだよっ! こないだまであんなに先生先生って言ってたヤツらが、急に彼氏とか彼女とか作って、2人だけの世界浸って、この間の事件なんか無かったみたいに……」


 そうだ。

 違和感は、これだ。


「おかしいって思わないの?!」


 ぜぇはぁ、と息をする。

 久しぶりにこんなに喋り散らした気がする。

 喉が痛い。


「……おかしいのはアンタじゃねーの? あたしらのこと、好きなように使いやがって……もううんざりなんだよ。好きなように時間使って悪い? 悪くないでしょ? じゃあ黙れよ」


 この間まで仲の良かったはずの「友達」が、薄笑いを浮かべて私を見る。


「アタシは変じゃない!」


「何を持ってそんなこと言えんのさ?」


 私を見る、いや……眺める「クラスメイト」たち。


「私の方が、」


 私の方が、何?

 家の手伝いしてるから、だから何?

 おかしいのは私?

 このクラスにおいて、正しいのは、


「その通りですね」


 え?


 後ろから聞こえた声に、振り向く。


「せんせ……」


「気持ち悪いのは、あなたたちです」


 開けっ放しの教室のドアのところに見えたのは、先生――久しぶりに見る、担任の姿だった。


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