4『鈴木先生』
職務中だというのに、鈴木先生は桜餅を食べていた。常に右手に桜餅をキープしていて、口の中の餅を飲み込んだからすぐに右手の桜餅を口に入れる。実に美味しそうに食べる鈴木先生を見ながら、指導されて早弁もできない私への嫌がらせに思えて物凄く不快だった。
「それはまた、授業中にリスカなんて大胆なことをやったものですね・・・あぁさすが、有名な和菓子店の桜餅となると美味ですね~」
鈴木先生は私と話していながら、桜餅を手から離さない。私の指導が桜餅にすら負けてるような気がして、やっぱり不快だ。
あの後、私はこの保健室に連れて来られた。どうやら担任は私を手に追えないと思ったのか逃げ出したらしく、代わりにこの鈴木先生と二人で保健室にいる。
保健の先生は近くの市立病院でも働いてるらしく、保健室にいない日が多い。そこをクラスも授業もほとんど受け持たない鈴木先生が住み着いた。
私が保健室に授業をサボりに来ると、いつも鈴木先生がいる。クラスも部活も、授業すらほとんど受け持っていないらしいこの先生は、私が知る中で一番暇な人だろう。
この人は変わってるというか、少し人間離れしている所がある。噂では、授業中に雑談していた生徒に微笑みながら
「あなたは頭がいいですから、わかりますよね?」
と告げて、不登校にさせたらしい。その生徒は何故か夜がトラウマになって、日が沈むと外に歩けないっていう噂もあったり。鈴木先生、ちょっとやばいよ・・・ってみんなが心の奥で思ってるし、教師も誰も鈴木先生には近寄りたがらない。生徒からのあだ名は「死神」。
「何もすることがないなら、もう戻ってもいいですか?」
桜餅を頬張って一向に指導らしいことを始めない鈴木先生に、私は少しイライラして聞いてみた。
「そうは言われましても、規則では指定時間まで指導するように言われているのですよ。ですけど、別にしなければいけないことはありませんしね」
「じゃあ、リスカでもしますか?」
冗談じゃなく真剣に言ってみた。すると、「そうしますか」って鈴木先生は肯定して、私から取り上げたカッターナイフを手にする。私はまさかやるとは思わなくて、「えっ」って少し驚いてた。
鈴木先生の手首にカッターナイフが下ろされて、紅い血が滴り落ちる。すると・・・
「痛っ!」
自分で切ったのに突然痛いと騒ぎ出して、跳び上がるように消毒して絆創膏を貼り付ける。
「痛いですね。どことなく、切ないものです」
切ない・・・私は、その感想が少し面白いと思ったな。リストカットは、ただ気持ちいいだけのものだったから。
「曇木さんを知ってますか?」
唐突に話を変えてきたから、私はこの死神のペースに乗せられてることを不快に思いながら、いいえって首を横に振る。
「三組の曇木夏樹さんです。雰囲気があなたに似てる方ですね。昼休みに外で一人チェスを打っているのを毎日見かけるのですよ。会えば、あなたの欲しいものが見つかるかもしれませんね。それが、どんな形かはわからないですが・・・」
死神先生は、何か面白そうなものを見る目で私に微笑みかけた。私が死神の手の中で踊らされてるように感じて、その微笑がとても不快だった。