15『バイバイ、アリガト。』
卒業式の終わり。
私は全部終えた。人間としてできること全部。それまでの十八年間を思い出すと、捨てるのがすごくつらくなる。
第一のお父さん。
私の全てだった。母親をすぐに亡くした私にとったら、もうお父さんはただの親じゃなくなってた。だって、『私=お父さん』だったんだよ。
ねぇ、お父さん。今でも私はお父さんのこと恨んでるよ。ゆるさない。私はお父さんをゆるさないまま、卒業するつもり。
私を置いていったんだよ? ねぇ、どうして? 私にはお父さんしかないって、一番知ってるのはお父さんじゃん。
今の私を、お父さんはどう思ってるのかな?
リスカにすがる私。お父さんの目には、快く映ってないよね?
曇木夏樹に身を委ねる私。親としては、認められないかな?
人間を卒業する私。何ともいえないよね? お父さんからもらった『水城綾芽』という自分を捨てるんだから。
私はリスカとともにお父さんのことも忘れてしまう。けど、つらくはないよ。私はお父さんにすがらなくても生きていける。曇木夏樹がそうしてくれたから。
じゃあ、さよならだね。お父さん。
リストカット。
お父さんの次の、私の全てだった。
すごく気持ちよかった。リスカをしてるときだけは全部忘れられて、一人でも孤独でも平気で、『リスカ依存症』にもなって。
苦しかった。自分がおかしくなってるのに、理性じゃ冷静にそれを感じてて。けど、リスカは私に快楽をくれたから。それはお父さんが死んで、曇木夏樹と出会うまで私の生きる糧になってくれたから。『ありがとう』って言いたい。
けど、第二のお父さんと出会ったら、新しい大切なものを見つけたら、快楽は私にとって押し付けがましいものになっちゃったんだ。私にはもうお父さんがいるから。代用品の快楽は、もう必要ないよ。
だから私は人間卒業してまで、自分もお父さんも捨ててまで『リスカ』と離れることを決めたんだ。
バイバイ、アリガト。
そして、第二のお父さん。曇木夏樹。